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2000.9.15
 
 


無意味なIT/バイオ育成政策…

 IT戦略、バイオ戦略などという声が急速に盛り上がってきた。産業界では、ようやく政府も動く、ということで喜ぶ人もいる。

 このような動きに水をかける訳ではないが、政治の動きは、時代の波とずれる一方のようだ。

 日本の政治家のIT/バイオ振興策とは、とどのつまり、研究開発費用助成や増額という類のものだ。「先端技術」を勉強して、大型の振興費を充当し、めりはりがきいた予算重点配分ができれば、政治家の役割は果たせた、と考えているのであろう。

 こうした動きをジャーナリストは「土建屋型」の動きと批判しているが、「投資の前にすべきことがあろう。」程度の意見が多い。思わず「投資はしない方がよいのか?」と聞きたくなるような、よくわからない理屈をこねるジャーナリストもいる。
 設備投資だろうと、法整備だろうと、どちらを先に進めたところで必要なものなら朝三暮四である。
 政治家だけでなく、こちらも時代感覚を喪失しつつあるようだ。というより、本質を覆い隠すために、語っているのではないだろうか。

 なにが問題なのかは歴然としている。

 政治の役割が転換したのに、政治家・産業界・ジャーナリストの多くは、これを認めようとしない点だ。
 今までは、政治はベネフィットを与えるためのリーダーシップをとってきた。これからは、そうはいかない。政治は「不利益」を与えるためのリーダーシップをとらざるを得ない。沈没する部分を指摘して、切り捨てるしかない。損な役回りである。
 特定の企業や従業員にはとてつもなく厳しい施策だが、社会全体には将来の飛躍が約束されるような動きをとる必要がある。このリーダーシップ発揮こそが政治家の使命だ。「甘言」と「飴玉」をさらに続発していれば、遠からず日本の産業は総崩れとなるだろう。

 政治家は、「エネルギーや食料を海外依存せざるを得ない国が生き抜くためには、どのような産業を発展させるべきか?」を考えようとしない。世界的に伸びつつある産業で、日本の技術が遅れているなら、対処策を検討する、という発想でしかない。
 知恵で食べられる人口をできるかぎり増やすには何をすべきか、という根本的な課題は避け、末梢的な議論を続ける。しかも、大所高所から発言する企業経営者も極めて少ない。規制緩和のドグマを叫ぶだけの知識人も多い。これでは、政治は変わるまい。

 政治に求めるのは、将来を見越して、敢えて産業界の意向に反しても、大胆に規制を撤廃したり、困難そうな規制を導入する、リーダーシップの発揮である。
 既得権益者没落による混乱を恐れる政治では、将来は暗い。重要なのは、規制緩和自体ではない。現在の資源で、将来に生かせるものを明確にして、それ以外を「泣いて切る」施策を展開することが緊要なのだ。
 規制導入や規制撤廃によって、やむなく技術開発競争に追い込まれれば、大企業も短期的には収益は落ち込むだろう。しかし、技術の底力があるなら、世界に冠たる産業が確立する。知恵を出さねば倒れる位のプレッシャーを与えることが重要なのだ。企業に力があるうちに、こうした施策を打たなければ、競争力の無い産業ばかり残る。
 技術力がありそうもないベンチャーや、分りきった実験を時間の観念無しで続けている研究室が多いにもかかわらず、こうした分野からのアウトプットを期待するドグマ的な施策が効果を発揮するとも思えない。
 今のままなら、日本の没落は必至といえよう。

 規制緩和だろうが、規制導入だろうが、なんでもかまわない。要は、高度な頭脳労働者を増やす施策を打てるかどうかだ。企業内で鍛え上げられた研究者・エンジニアを核にして、新しい産業を生み出す施策を打ち出せる「戦略家」不在が、不況感をずるずると長引かせているのだ。


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