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2000.9.15
 
 


ヤングレポート礼賛主義の勃興…

 99年から2000年にかけて、「ヤングレポート」が話題を呼んでいる。

 米国の製造業弱体化が深刻化していた時代に、「ヤングレポート」を作成したことが、強い競争力実現に繋がっているとの意見が多いようだ。
 確かに、当時、危機感醸成という点で大きな役割を果たした。しかし、「ヤングレポート」提唱に沿って製造業復権路線を採用し、強い米国が復活したとはいえまい。

 米国政府は「ヤングレポート」をそのまま採用しなかったのが実情ではなかろうか。米国政府も産業界も、一貫して、製造業一般の復権など目指したことなど無い。効率的な資金運用先とはいえない製造業に対しては、どちらかといえば、捨て去る政策をとってきたといえよう。
 要するに、「モノつくりは、上手なところにまかせればよい。」という方針を貫徹した。「高品質なものを、安く入手できるなら、海外調達で十分。」という原則は変わっていない。

 安いモノが海外から入手できる分野では、国内製造業に注力などしていない。それよりは、資本効率が圧倒的に高い産業構造確立の方に力を注いでいる。例えば、情報通信機器メーカーと言っても、機器製造は海外企業に委託する場合が極めて多い。工場投資などより、大きなリターンが期待できる分野があるからだ。まさに、明快な資本の論理といえよう。
 競争力向上を、グローバルにヘゲモニーを握れるハイテク・高収益分野に焦点を絞った。これが奏効した。製造業に力をいれた訳ではない。

 このヘゲモニーを梃子にして、雇用創出効果が大きいサービス産業(特にソフトウエア)育成に注力したのである。
 当然ながら、こうした観点から戦略的に重要な半導体製造技術は強化した。しかし、たとえ情報通信分野であっても、非戦略分野なら、国内製造業強化など無駄という態度だ。(例えば、製品組立を国内で進める必要など感じたことはあるまい。)

 これは「ヤングレポート」の精神とはかなり異なる。ということは、現行の米国企業の競争力復活は、「ヤングレポート」が生み出したものとは言えない。

 資本効率が悪く、面倒な人材育成が必要な、モノつくりを放棄するのが、現時点までの米国流経営なのだ。従って、工業製品の輸入超過は必然である。輸入超過を指摘して、米国産業の弱さを語る人がいるが、ポイントがずれている。(これが問題であることは当然だが、資本効率が悪い産業を、変革の見通しも無く、単に温存するなら、極めて悪質な経営といえよう。解決策が見えず、悪化一途なら、諦めて、新たな展開方法を模索するのが当たり前だ。)

 といっても、流石に、雇用を支える大産業たる自動車だけは社会問題化するから、そうはいかない。
 こちらは、「ヤングレポート」の精神を取り入れたというより、米国企業が必死に日本の優れた技術にキャッチ・アップしたのが実情だろう。日本企業も、それに応えてノウハウを開示した訳だ。その結果、大差なくなった。(といっても、日本のイノベーターの力量は相変わらず高いが。)


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