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2000.10.1
 
 


技術屋の経済談義…

 2000年末から2001年が日本経済の正念場だ。---と、技術屋が発言しなければならない時代である。

 最近の、一部のエコノミストの発言ほど、信用できないものはない。「供給量が需給量を上回っているから、原油価格の一時的な高騰はあるかもしれないが、すぐに収まる。」と、常に発言してきたが、現実は全く違う。にもかかわらず、「基本的には買い手市場」と見る海外の専門家の意見を相変わらず支持している。
 高騰が続くにもかかわらず、未だに、「統計から見て、供給不足は無い。」と断言する。それなら、買占めでもあるのか、と聞きたくなる。説明に窮するとみえて、精製能力不足の問題をあげる。そのほかにも、様々な要因が絡んでいると解説したりする。そして、高騰は短期に終わるという。
 「50ドルを狙うOPEC参加国もある」との報道もあるのに、高騰は早晩終わる、とどうして断言できるのだろう。

 一方、技術屋の会合では、需給関係がタイトになるのは時間の問題だ、と言う人がいた。素人の発言は、たまたま当たったとされる。しかし、素人の論理の方が説得性がある。---「アジアは石油備蓄も少ない。しかも、天然ガス源も政情不安だ。経済が活況を呈すれば、需要は急激に高まり、アジアの需給関係は急激に変わる。アジア市場は今や小さなものではないから、この影響は大きい。日本からの基礎素材輸出状況から判断すれば、欧州並み、あるいはそれ以上の需要がある筈だ。これに応えるべき供給側は力不足である。アラブの油田は老齢化し増産が難しいからだ。新資源開発も進んでいない。供給が絞られれば、高騰は避けられない。」

 為替の世界でも、専門家の不可思議な論理がまかり通る。
 「政府高官の発言」で為替が振れたというストーリーを多用する。おそらく、「口先介入が意味ある。」と喧伝したい人がいるのであろう。
 情報を見ればわかるが、政府高官のシビアな発言があっても動かない場合も多い。この場合、アナリストの解釈は、「折り込み済みであり、変化しなかった。」だ。動いたら、発言の影響と語ればよいのだ。
 こうした意見を聞いていれば、大きな動きから目がそらされる。本質を見ぬく目を曇らされるだけだ。

 研究者・技術者は、このような、政治的な発言をするエコノミストや、短期的な動きしか考えないアナリストの意見に、耳を傾けるべきではない。技術の流れを読むのと同じで、長期的な視点で、自ら考えた方がよい。
 昔は専門家しか入手できなかったデータも、今はインターネットで手に入る。データを読むだけでも、素人なりに、それなりの判断ができる。長期的には経済原則が成り立つのだから、自分で頭を使って、「素直」な予測をする方が役に立つ。

 例えば、素人なら素直に読むだけだ。---

 日本はGDPが500兆円弱に対して、政府の債務残高が700兆円近い。今後の持続的な経済成長見込みもない。従って、今の支出を続けるなら、大増税でもしない限り「破産」は明らかだ。
 政権の信用力が落ちれば、強制力を発揮しない限り、債権購入意欲は急速に衰えるのが必然といえよう。膨大な民間所有資産があっても、政府債務に回す以外に国内投資先が見つからないのだ。この巨大な投資資金が新たな行き先を探す。下手をすると、ハイパーインフレ突入だ。
 「現政権は社会基盤を根底から崩すようなインフレ政策を選択しまい。」と見ているから、不況のデフレに隠れ、こうした兆候が現れないだけだ。

 もっとも、米国政府も安泰ではない。累積債務は大きい。もっとも、GDPが9兆ドルと大きいし、好調な経済で財政赤字を脱したので、楽観論が多い。しかし、経済下降局面を迎えれば一大事だ。
 さらに、異常水準の貿易赤字額も大問題だ。これは、モノ作りを避ける産業構造が原因だから、抜本的な対処をしない限り減らせない。といって、いつまでもこのレベルで消費を続けることは原理的に無理である。ドル通貨圏で考えれば、赤字・黒字の議論は意味なし、という理屈が通る筈もない。
 この無理を支えているのが、日本からの資金還流である。従って、米国経済も、実は脆弱だ。日本の構造改革が進み、米国に資金が流れなくなったら、米国経済は崩れる。従って、米国政府も「理念」上は日本に構造改革を要求するが、本気で迫る訳にはいかない。日本に「お上の統制」を続けて欲しいのは、米国側である。

 2000年8月18日、商務省発表数字は、ついに月間赤字の最高記録を更新した。こうなると、流石に米国政府も動かざるを得まい。といっても、米国政府ができる施策は限られている。消費抑制策(国内増税)、日本・中国への政治的圧力による貿易赤字圧縮策、ドル価のドラスティックな低下、の3つだ。政治的に見て選択できるのは、為替調整しかあるまい。
 米国政治のタイミングを考えると、2000年末から2001年はこうした施策を打ちやすい。そうなると、日本は不況化の円高に突入しかねない。

 こうなると、日本企業は、地道なコストダウン策ではとても生き残れまい。情報通信技術を活用した企業変身は必須条件だ。その時までに、どうしてもITインフラが必要だ。悠長な計画しか作れないから、おそらく間に合うまい。
 間に合わなければ、製造業が競争力を喪失し始め、同時に、インフレが発生する。

 このようなシナリオが杞憂で無いと感じた時、優秀な研究者・技術者は、一斉に動き始める。日本経済の沈没に付き合う人は、動きようの無い人だけだ。先を争って、沈没必至の企業からの脱出を図る。---という素人予想が外れることを祈る。


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