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2002.8.3 |
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中東問題(1)…21世紀の国際情勢を理解するための最適書として、サミュエル・ハンチントン著『文明の衝突』(鈴木主税訳,集英社,1998)と、トーマス・フリードマン著『レクサスとオリーブの木 グローバリゼーションの正体 』(東江一紀訳,草思社,2000年)を推奨する人が多い。社内研修文献に指定されることもある。前者は、安全保障を宗教上の観点から論じた本だ。一方、後者は、経済のグローバリゼーションが世界の動きを支配していると、指摘した本である。 両者共に説得性ある論旨だが、この見方だけでは、大きな流れを見逃しかねない。先進国の最重要安全保障問題である石油・天然ガス資源へのアクセス権の議論が欠けるからだ。 経済グローバリゼーション化の推進には、石油・天然ガスの自由貿易体制維持が大前提である。「衝突」は、この自由貿易体制維持の過程で発生する紛争を異なった視点で見ているに過ぎない、とも言える。21世紀の動きを考える場合、先ずは、エネルギー資源問題を検討すべきである。 先進国では、エネルギーは入手可能という前提で経済活動が行われている。この前提が崩れれば、経済は破綻し、社会は大混乱に陥る。そのような可能性は低いとは言えない。長期的に見れば、需給関係悪化は間違いないからだ。 2001年はエネルギー消費が低迷したとはいえ、省エネや環境保全運動を進めても、先進国では消費の増加を抑制できる程度の対策しかできない。その一方、アジア圏を筆頭として、急成長中の国々ではエネルギー消費が急増する。需要は増大一途だ。ところが、供給の方は対応できるとは限らない。先進国が保有する、アメリカの油田や北海油田は、すでに最盛期をすぎており、供給拡大どころか、生産減少傾向は免れない。急増する需要に応えられそうな地域は、原油埋蔵量の過半を占める中東だけである。従って、この地域の供給体制が崩れれば、需給関係は間違い無く悪化する。 中東といっても、実際のところ、資源を握っているのはペルシャ湾岸の5ヶ国だ。BP World Energy 2002年版では原油の確定埋蔵量で世界の67.1%を占めている。(http://www.bp.com/downloads/1086/bp_stats_history.xls) この国々の生産動向が、今後の原油需給を決めることになる。ところが、どの国も安定供給体制とは言い難い状況にある。 サウジアラビア(24.9%)は、王位継承の仕組みが不備だから、内部権力闘争がいつ始まっても不思議ではない。イラク(15.2%)は軍事膨張政策の独裁体制だ。イラン(8.5%)はペルシャ湾入口を封鎖可能な軍事力の増強に余念がない。クウェート(9.2%)、アラブ首長国連邦(9.3%)も資源帰属紛争に巻き込まれている。さらに、隣国の、オマーン、イエメン、カタールは、埋蔵量が少なく、収入不足になりがちで、国内騒動勃発は避けがたい。要するに、地域全体が政情不安定なのだ。しかも、紛争勃発で利権価値が向上するから、反乱勢力を支援する外部勢力も多い。従って、何時、どのような形で動乱がおきても不思議でない。動乱で生産体制が揺らげば、深刻な供給不足が発生するのは間違いない。 当然、ペルシャ湾岸依存を減らす動きが起きる。増産ポテンシャルと国家介入排除の視点から見れば、旧ソ連邦からの独立国が魅力的に映る。このため、欧米のメジャー、中国石油公司、ルクオイル(露)、がカスピ海沿岸で開発競争を繰り広げている。この地域も資源保有国は限られている。カザフスタン、トルクメニスタン、ロシア、アゼルバイジャン、イラン、ウズベキスタンである。(特に、最初の2ヶ国は潜在資源が豊富である可能性が高い。)沿岸5カ国間の資源帰属問題が発生するだけでなく、内陸地帯特有の輸送利権問題が隣接国で発生している。このため、始終紛争がやまない。(グルジア、アルメリア、キルギス、ロシア内のチェチェンだ。) どう見ても、ペルシャ湾岸、カスピ海沿岸、ともに政情不安で、資源開発・貿易の安全性は保証できかねる。 しかし、両地域からの原油・天然ガス供給は先進国にとって生命線である。もしも、この地域が自由経済圏から離脱し、供給が途絶えれば、先進国経済崩壊の可能性さえある。従って、「経済」安全保障のために、米国は、軍事力を含め、すべての手段を駆使せざるを得まい。 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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