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2002.9.2
 
 


終身雇用制度崩壊は幻…

 終身雇用制度が崩れ始めた、との報道が多い。

 これに伴って、様々な意見が紹介されている。なかでも、よく耳にするのが、終身雇用は敗戦後から始まったもので、それ以前の日本企業は全く異なっていたとの指摘だ。終身雇用制度崩壊は当然、との代表的意見として扱われている。
 私企業の経営方針は、昔も今も、社会の状況で大きく変わる。この事実に、特別の意味などない。にもかかわらず、日本のマスコミは、このような発言を大々的に取り上げる。一見、改革派の意見紹介に映るが、実は、逆である。
 こうした発言では、終身雇用制度維持は意味なし、とのスローガンだけが鮮明だ。ところが、問題点解析や、抜本的改革策の議論は注意深く避けている。改革派とは全く逆の挙動である。改革の動きが無いのに、改革が始まった印象を与えることで、変革の動きを遅らせようと考えているのだ。改革反対派が採用する常套手段である。

 終身雇用制度の崩壊といっても、今おきていることは、2つの全く異なった動きの合成である。その一方で、崩壊どころか、制度強化の側面もある。全体として、意味ある制度崩壊が始まっているのか、よく確認すべきだ。

 崩壊1つ目は、高年齢層の早期退職を促す動きだ。能力発揮のピークを過ぎていたり、時代に合わない能力しか無いにもかかわらず、給与水準が高い従業員を削減しようという労働政策だ。これを終身雇用制度廃止の動きと見なすことが多いが、問題のすりかえである。この労働政策が不可避になった原因は、労働力過剰と、年功給与制度であり、終身雇用とは無関係である。
 経営的な苦境に直面すれば、どの企業でも、生き残りのために人員削減に踏みきらざるを得ない。そうなれば、議論といっても、どの人材を削減するかだけの話しだ。特別な契約関係がなければ、生産性が低い層から削減することになろう。従って、高年齢層の早期退職は、極く自然な対処といえよう。
 ところが、ほとんどの退職者には就職口は無い。こうした労働力を受け入れようと考える企業がいないのだ。その結果、労働力の流動化ではなく、労働力の消滅が発生している。

 崩壊2つ目の動きは、若年層の流動化、いわゆるフリーター現象だ。数年の勤務後、突然、転職先も考えず、自己都合退職する人が増加している。卒業後、就職せず、アルバイトで生活費を稼ぐ人も激増している。若年層は、働き口はある上、収入もそれなりに確保できるから、自由度を奪われるような雇用形態を嫌っているのだ。従って、OJTによる若年層の能力向上は期待できなくなってきた。
 企業にとっては、一時的に安価な労働力が提供され、コスト削減に繋がるが、効果は一過性だ。長期的な生産性向上は望めない。意味ある終身雇用制度崩壊とは言い難い。

 この2つの動きを合わせて、終身雇用制度崩壊と呼んでいる。どう見ても、競争力向上のための制度変革からは程遠い動きだ。

 一方、中堅人材では、制度は生き続けている。
 経営危機に遭遇している企業を除けば、どの企業でも、企業活動を支えている基幹層の流出は僅かだ。又、この層を外部から取り入れようと動く企業もほんの一部だ。外部から人材を採用する意志が無いのだから、流出の動きがおきる筈がない。
 基幹人材層では、労働力の流動化はほとんど進んでいない。ここだけ見れば、終身雇用制度は崩壊どころか、体制強化に進んでいる。

 こうした状況を考えれば、終身雇用制度崩壊の兆しは無い、と見なすべきだろう。


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