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2003.3.12
 
 


反グローバリズム夢想派…

 米国主導のグローバリズムに反感を持つ人が増えている。進歩派なら反グローバリズムを主張する、と解説する人もいるから、政治運動がファッション化しているのかもしれない。
 しかし、思想的基盤がよくわからないので、自称進歩派の方から、反グローバリズムの主張の典型例を紹介してもらった。
 推薦図書は、「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」だった。(ノーベル経済学賞受賞者のJoseph E. Stiglitzの著作:鈴木訳,徳間書店,2002)

 読んでみたが、この本の趣意は反グローバリズムとは言いかねる。主な論点はIMFの硬直化したドグマ的な対応だ。決して、米国型グローバリズムの問題を扱っている訳ではない。
 ということは、進歩派は、米国の政策とIMFの方針を同一視していることを意味する。米国の方針と、IMFの政策を合体させて、反グローバリズム論を展開しているのだろう。
 こうした手法は、ドンキホーテと同じだ。実態が無いものを勝手につくりあげ、その幻想と戦っている。

 もちろん、IMFと米国政府の方針が一致することは多い。資本の流れは、基本的にドルの動きだから、当然である。
 しかし、これだけのことで、米国がIMFを牛耳っているとみなす訳にはいくまい。

 反グローバリズム派は、論点をはっきりさせるべきである。
 国際機関の硬直化問題と、世界経済を牽引している米国の制度の普及問題を峻別し、先ずは前者から議論すべきだ。

 前者の問題は、1990年代初頭から始まっており、極めて深刻だ。ところが、解決策が真摯に議論されたことはない。そのため、国際機関が、効果的な施策を打ち出せなくなって久しい。
 IMFは典型に過ぎず、他の国際機関も似たり寄ったりだ。世界の新しい動きに対応できず、実践的な方策が提起できない状況にある。
 国際機関は、現実に合わせるのではなく、ドグマ的な方針提起に走るだけで、実践性を失なってしまったのである。

 従って、米国だろうが、日欧だろうが、国際機関に従うインセンティブは無くなったといえる。といっても、国家間のコンフリクトは発生するから、現行体制をなくす訳にいかないのだ。

 米国は、この状況を早くから見抜いた、といえる。これが、一国主義と呼ばれる動きである。当然ながら、国際機関の意向を無視するから、独善的な姿勢への転換でもある。
 しかし、利害調整制度が現実性を欠いているのだ。一国主義以外の道が無かったともいえそうだ。

 この動きを、簡単な言葉で表現すれば、「デファクト・スタンダード時代の到来」になる。利害調整ができなければ、放置し市場にまかせるしかない、との現実論が主流になっただけである。

 技術の世界では、この流れは明瞭だ。ISO/IEC、ITUといった国際機関の地位は急速に低下している。欧州と日本が支持しているから生き延びているだけ、と言えるかもしれない。
 技術で先行する国にとっては、後追いの国々と制度を議論しても意味無し、という現実論が主流になったのだ。進歩をコントロールしたり、挑戦者排除を図る組織は、既得権益を守る以上の効用は無い、と見なした訳である。

 米国主導グローバリズムの進展とは、裏を返せば、国際機関がグローバル調整機能を失ったことを意味する。この機能不全回復の妙案なしに、反グローバリズムを語っても何の意義もない。

 調整が機能しなければ、結果はひとつだ。「勝ち組み」の制度に統一するしかないのである。

 この視点で見れば、ウインドウズの世界制覇は、米国型グローバリズムの典型と呼べる。
 国際機関が機能していたら、ウインドウズの独占阻止に動いただろう。しかし、もし阻止行動があったら、その動きは進歩にプラスに働いただろうか。
 経済の仕組みも同じことがいえる。「勝ち組み」の制度に不適合な社会は、グローバル化で混乱をきたす。確かにマイナスだが、異質な制度を維持し続ければ孤立化し、社会は没落する。プラスになる新制度が提案できない限り、「勝ち組み」の制度を受け入れるしかあるまい。
 要するに、ポジティブな提案が無いなら、反グローバリズムとは、「勝ち組み」に対する怨嗟感情にすぎない。

 具体例で考えればすぐにわかる筈だ。
 巨大銀行から低利資金をふんだんに調達できるため、いつでも大規模投資が敢行可能で、低収益にもかかわらず市場シェア獲得に邁進する企業が乱立する国があったとする。
 その一方で、資本効率が高い事業にしかカネが流れない仕組みの国がある。
 これで両立できるだろうか?
 といって、国際機関がこのコンフリクトを解決できるだろうか?

 解決できないなら、放任するしかあるまい。そして、どちらかが勝つ。制度は、勝ち組みに統一される。

 これが冷徹なグローバリズムだ。まさに、弱肉強食の世界である。
 知恵を集めて、徹底的に戦うしかない。「反対」を唱えても、なにも得られまい。


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