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2003.3.18
 
 


朝鮮戦争勃発の危機(続)…

 イラク問題が頂点に達しているため、北朝鮮問題の報道が減っている。
 北朝鮮で危機が迫っているのに、直接的な脅威にならないイラクの話しばかりだ。どうかしている。

 ABCテレビの「This Week」は、アンカーマンGeorge Stephanopoulosが主宰し、George Willがコメンテーターで登場する有名番組だ。
 2003年3月9日、この番組に、Condoleezza Rice補佐官が登場し、北朝鮮大量破壊兵器については凍結でなく、解体を進める旨発言した。
 さらに、George Willは、外交的手段が効果発揮できなければ軍事的手段が必要、との大統領の発言を注目すべきと指摘した。(有料のTranscripts.TVで再見可能)
 こうした発言を聞いていると、米国政府が突然先制攻撃を始めるのではないか、と思えてくる。

 3月前半の、米国議会委員会での証言録を見ると、その心配がさらに深まる。どう見ても、北朝鮮の核は、米国にとって極めて深刻な問題だからだ。

 3月12日の上院外交委員会で、James Kelly国務省東アジア太平洋担当次官補が、北朝鮮の核兵器に関する見解を述べている。北朝鮮は、2つの核兵器開発プログラムを進めているらしい。
 1つ目のプログラムは、よく報道されている件だ。凍結されていたYongbyonのプルトニウム施設での生産である。これは開始後、6ヶ月で重大な量に達するという。
 2つ目のプログラムは、濃縮ウラニウム生産だ。すでに何年もの間進めているという。ということは、こちらも、重大な量に達するのに、時間がかからないことになる。
 要するに、プルトニウムとウラニウムの両方が、同時に生産される訳だ。誰が聞いても、とんでもない脅威だ。(http://foreign.senate.gov/hearings/KellyTestimony030312.pdf)

 軍事力については、3月13日の上院軍事委員会でLaPorte駐韓司令官がまとめた。北朝鮮の地上戦力は巨大であり、その7割がピョンヤンの南に投入されているという。
 世界最大の12万2000名もの特殊部隊も編成されているし、スカッドミサイル貯蔵量も500機を越えた、と語った。米国に到達する、核兵器搭載可能な未試験ミサイルも保有、との推定も明らかにした。(http://www.senate.gov/~armed_services/statemnt/2003/March/LaPorte.pdf)
 議会で、明瞭に脅威を指摘したのであるから、米国政府は、この問題をいつまでも放置しておく訳にはいかない。

 といっても、3月12日の下院軍事委員会に出席した、Fargo太平洋司令官によれば、北朝鮮が直ちに攻撃してくる兆候はないとのことだ。太平洋地区での重要な施策はテロ対策であり、北朝鮮は動くまい、と見ていることになる。(http://armedservices.house.gov/openingstatementsandpressreleases/108thcongress/03-03-12fargo.pdf)

 Fargo司令官の証言を聞けば、外交努力が結実しそうな気にもなるが、全体を眺め直すと、極めて危険な状況であることに気付く。
 そもそも、北朝鮮は米国とは休戦状態にあると考えている。従って、米国と交渉し、現体制維持の保証を得ることが最重要課題だ。一方、米国は、多国間の国際外交交渉で解決を目指す。
 ここには、埋まりそうにない溝が存在している。確かに交渉が行われてはいるが、同じ土俵で検討している訳ではない。

 ブッシュ政権が語る「外交交渉での解決」路線はあくまでも多国間交渉である。しかし、北朝鮮は軍事独裁国家である。敵国との直接交渉ではなく、多国間交渉に移す訳にはいくまい。移行すれば、軍事主導政権が崩れかねないからだ。
 従って、韓国や日本に、米国が直接交渉を始めるよう、働きかけを頼んでいるのが実情だろう。

 北朝鮮の動きは、最初は、瀬戸際外交の「挑発的行動」かもしれないが、それを続けるだけの統率力が保てるかは疑問だ。

 2003年年頭、北朝鮮は臨戦体制を敷いた、と言われている。この動きを、何時ものこと、と見る人が多いが、今度は状況が全く違う。米国の軍事圧力を聞かされ続けた「人民」が、国家総動員体制で動いているのだ。しかも、食糧危機が迫っている。「人民」にとってみれば、将来展望など全くなく、追い詰められた状態といえよう。黙っていても沈没するのだから、米国との戦争突入に賭けよう、と考える「人民」が増えているのは間違いあるまい。
 反米スローガンをいくら叫んでも、兵士にとっては空虚に響く。軍隊で物資が底をつき始めれば、決死隊化が始まるのではないだろうか。
 おそらく、多くの兵士は、「どちらに転ぼうとかまわないから、早く決着をつけてくれ」という心情だろう。何時、軍事衝突がおきてもおかしくない状況ではないだろうか。

 独裁政権でも、ここまで困窮してくれば、軍隊の自発的な挑発を抑えられないかもしれない。
 戦端が開かれたら、悲惨な結果を招くことになる。


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