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2003.7.8
 
 


奇妙な知的財産戦略…

 池田信夫氏(経済産業研究所 上席研究員)が「情報を囲い込む「知的財産戦略」は、インターネット時代には似合わない」との意見を発表した。
 (2003年6月24日 http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0091.html)

 2003年6月20日に発表された、「知的財産の創造,保護及び活用に関する推進計画(案)」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/dai4/04siryou2.pdf)を、米国政府のプロ・パテント戦略の物真似と看破した、辛辣な批判である。

 確かに、特許訴訟が年間で約200件しかない日本で、専門の裁判所を作る提案に、筋の悪さを感じる人は多い。しかし、政府の「○○戦略」というのは、何時もそのようなものだから、誰も気にとめないだけである。

 日本では、政府の方針に思想基盤が無いため、必ずこのようになる。参画者の信条や、利害関係者の主張をモザイクのようにとり込み、目玉を埋め込んだ提案を作成する。目玉は派手でなければ意味がないから、とんでもないものが登場する可能性は高い。
 知的財産論議もこの類に終わってしまったのだろう。池田氏が激しく批判するのも無理はない。

 しかし、池田氏の批判に同調する人は少数に留まると思う。
 この提案は、「ともかく、米国に負けるばかりでは、たまらない。急いで同様な施策を始めなければなるまい。」といった企業人の実感に応えたものだからだ。

 計画案が述べている、「米国における80年代の・・・知的財産を重視するという姿勢への変化が・・・米国産業の国際競争力を回復強化させ」たという指摘は、実感そのものである。
 池田氏は、これに対しても反対論を展開しており、「根拠がない」としているが、納得する人は少ないと思う。プロ・パテント政策なくしては、優秀な人材を産業界に集めることなど、とてもできなかったと考える人が大半だからだ。

 推進計画の一番の欠点は、こうした企業人の実感に直接応えてしまったことにある。

 企業内の研究者・エンジニアなら、特許抵触で技術開発できなくなることなど、茶飯事である。特許が技術進歩の阻害になることなど肌身で感じている。しかし、同時に、コピーで多大な被害を受けており、知的財産重視方針に反対する者などいまい。特に、知的財産以外に何も持っていないベンチャーにとっては、特許による保護は生命線だ。
 この状態で、政府が、知的財産重視方針を打ち出せば、間違いなく大歓迎を受ける。  政治家としては、是非進めたい政策といえる。

 問題は、「知的財産重視政策」が奏効するとは限らない、という点だ。

 知的所有権には技術革新阻害要因もあるから、プラスに働くとは限らない。「知的財産重視政策」が技術革新を後押しするか、抑制するかは、条件次第である。換言すれば、効果の有無は政策の内容ではなく、産業界の状況による。

 インターネット時代に、得体の知れない「知的財産重視政策」が打ち出されれば、新産業はいつまでも立ちあがらない。インターネットのプラットフォームを独占する企業が、新技術が登用しにくい仕組みを作れば、「知的財産重視政策」が技術進歩を止めてしまう。どうなるかは、産業と社会の姿勢で決まると言ってよいだろう。

 池田氏が指摘するように、海外から安いCDが輸入されるのを禁止する「レコード輸入権」を、「知的財産重視政策」として温存したい産業が存在している。
 日本には、規制で生き延びを図ったり、政府の施策による独占化で利益を増やそうと画策する企業が多い。新産業創出を阻止したい勢力が主流派なのだ。
 この状態での「知的財産重視政策」は、マクロで見れば、新技術開発促進に繋がらない可能性の方が高い。


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