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2003.9.16
 
 


水銀汚染警告の不思議…

 2003年6月3日、厚生労働省は「水銀を含有する魚介類等の摂食に関する注意事項」を公表した。妊婦が避けるべき魚が発表されたのである。

 その後、すぐに、正しい理解のための解説が提供された。「本日の注意事項が魚介類の摂食の減少につながらないよう正確に理解されることを期待したい」らしい。
 (http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/06/tp0605-1.html)

 風評被害防止策のつもりなのだろうが、お節介なコメントだ、と感じる人が多いのではなかろうか。
 公表データをどのように判断しようと、それは読む方の勝手である。リスクがゼロでないなら、魚介類を避けたいと思う人もいれば、この程度なら気にしない人もいるだろう。政府が強制すべきものではない。このような態度を取り続けるから、政府への信頼感が失われるのだ。

 政府が公開すべき情報とは、リスクの程度だ。リスクに対して、どのように対処するかは個人の自由である。未だに、厚生労働省はそう考えないらしい。

 そもそも、この公表内容を読むと、奇異な印象を受ける。わが国における魚介類等の摂食状況等を踏まえて、検討したと記載されているが、「リスク」警告文書とは思えないのだ。

 一般人の摂取状況を踏まえての警告というのだが、冒頭から、珍しい魚が登場する。

 最初の警告対象はバンドウイルカだ。イルカを食べてる人など聞いたことがない。
 次ぎの対象が、ツチクジラ、コビレゴンドウ、マッコウクジラ、サメである。こちらも、鯨や鮫の肉を、1週間に1回食べる妊婦は想像しがたい。極く僅かな人しか、リスクに曝されることはないだろう。

 ということは、「イルカ、鯨、鮫といった特殊な魚を食べるている人」に対して注意を喚起すべきなのだ。
 おそらく、このような魚を食すのは、漁民だ。そのような職業の人達に伝わるよう工夫すべきと思う。
 リスクがあるので、一応お知らせしておきます、というのでは、余りに不親切である。
 本当に親身になってリスクを考えるなら、練り物に混入されている鮫肉も、どの程度の量かのコメントも必要だろう。

 そもそも、こうした特殊な魚の警告を冒頭に行う発表方法がおかしい。
 警告は、緊急性や重大性の順に行うのが筋である。緊急でもなければ、重大でもない警告なら、多くの人に関係する問題から伝えるべきだろう。公表は逆である。

 一番最後に、誰でもが口にしそうな普通の魚の警告が登場する。メカジキとキンメダイである。これらの摂取は1週間に2回以下にすべき、とされる。
 この警告も特殊な魚と記載と余り変わらない内容に映る。というのは、これほどの頻度で食べるのは、産地以外は稀だと思うからだ。(キンメは安価な魚ではない。)
 この部分も、リスクに曝されそうな人に届き易い警告文にすべきだろう。

 ・・・といった程度なら、「奇異」と感じる人は少ないだろう。官庁体質は変わらない、といった印象は受けるが、それほどの驚きではない。
 ところが、解説のデータを見た途端、その印象が一転する。

 メカジキやキンメダイで警告があれば、普段よく食べるほかの魚にリスクはないのか心配になるのが普通だ。発表には、特段の記載はない。当然、これ以外の魚には問題はないと、勝手に解釈してしまう。
 ところが、データを見ると全く違うのである。

 記載されている水銀濃度データ一覧を見た途端、目が点になる。
 警告対象になったメカジキは0.71ppm、キンメダイが0.58ppmだ。そのそばに、インドマグロ1.08ppm、クロマグロ0.81ppm、メバチマグロ0.74ppmという数字が並ぶ。どう考えても、マグロはメカジキやキンメダイよりリスクが高い。
 (http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/06/tp0613-1.html#toi5)
 メカジキとキンメダイを常時食す人は余り見たことはないが、マグロとなれば別だ。マグロ好きは多い。流石に、高級なインドマグロを大量に食べる人など少ないだろうが、それこそ毎日のようにマグロや「ツナ」を食べる人はいる。(キンメと違いマグロや「ツナ」は大衆食品である。)
 ところが、マグロは危険対象から外された。・・・とても理解できない。

 何故このようなことになるかといえば、マグロの「平均」摂取量が小さいからである。
 カジキやキンメダイは食べる量が多いが、マグロは少ないから、高濃度でも摂取水銀量は小さくなるという理屈だ。

 不思議な論理である。
 全体の26.7%もの大勢の人が食べるマグロのような刺身魚は、平均摂取量が小さくなるのは当然だ。しかし、マグロを食べる人のうちの1%が大量に食べているだけで、0.0〜0.1%の人しか食べないクジラやサメの摂取人口より多くなるのである。
 どのようにマグロを食べているかのデータが無いのに、リスクがないと、どうして言えるのだろう。

 さらにデータを読み進むと驚くべき数字に出くわす。
 メチル水銀の最大検査値は、クロマグロ4.2ppm、メバチマグロ2.30ppm、インドマグロ2.00ppm、だ。インドマグロは最小でも0.68ppmという高さだ。
 メチル水銀の暫定的耐容週間摂取量は1日23μg。ということは、マグロや「ツナ」好きの妊婦は、この値を越えている可能性がありそうだ。背筋が寒くなる数字といえよう。

 どう考えても、厚生労働省の警告は、警告の態をなしていない。


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