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2003.9.24 /TD>
 
 


ドーハの不調…

 2003年9月にCancunで開催されたWTO「ドーハ開発アジェンダ」閣僚会議は決裂し、閣僚宣言文さえ採択できずに終わった。1999年のシアトル会議でもまとまらなかったが、今回もほとんど進展しなかった。
 [注:2001年11月、Dohaで開催されたWTO会議で、貿易促進と経済成長のため、貿易障壁削減の野心的交渉を進める、との合意が形成された。焦点は、途上国が強い分野の関税削減と農産物市場開放である。途上国の貧困化を防ぐ貿易の仕組みを作るための作業が行われている訳だ。カンクン閣僚会議は、この開発アジェンダの進捗状況を評価し、包括合意目標期限(2005年1月1日)に向けて、どのように進めるべきか、基本方針を策定する予定だった。・・・方針が決定しなければ、交渉実務担当者は動けない。]

 「シンガポール・イシュー(貿易投資、競争政策、商品移動、政府調達市場の開放)」での意見不一致だが、要は、先進国が農産物市場大幅開放を避けただけの話である。

 このため、辛辣な批判も登場した。

 Pascal Lamy EU代表はノーベル偽善賞授賞に値する活躍だった、との強烈な皮肉がGuardianに掲載された。WTOは恒久平和の実現まではできないが、無法貿易から、法治下の貿易に変えることができる、とEU代表が語ったことを指しているのだ。
 (George Monbiot「A threat to the rich」http://politics.guardian.co.uk/columnist/story/0,9321,1043086,00.html)

 これに呼応するように、NewYorkTimesも米国政府の交渉態度を批判した。
 「Harvesting Poverty」シリーズで「the disgraceful manner in which American negotiators rebuffed the rightful demands of West African nations」と指摘したのである。
 (NewYorkTimes 「Cancun Failure」 2003.9.16 A-24 c1 ウエブでは有料頁)

 確かに、「会議は踊る」状態だった。
 欧米が、ブラジル等の途上国連合の農産物の自由化要求を蹴ったため、進展が図れなかったのである。日本も、G9で関税上限率の設定反対運動を繰り広げたから、先進国は自由化認めずの一色だったといえよう。
 圧巻は、EU農業代表の態度だ。途上国連合を「銀河系宇宙以外から来た宇宙人のようだ」と決めつけ、宇宙旅行継続の選択をしても惑星に到着できないと語ったという。さらに、交渉を継続したいなら「地球に戻って現実的対応をせよ」と、傍若無人な発言が続いたという。
 (http://www.nikkeyshimbun.com.br/030906-21brasil.html)

 これでは、農業生産物しか売るものが無い国に失望感が蔓延するのは当然といえる。
 その結果、途上国が退場する結果を招いたのである。

 これは、単なる失敗で片付けられない。
 グローバルなルール作りの組織であるにもかかわらず、途上国連合切り崩しのてめに、同時並行で2国間協定作りが囁かれたからだ。これは、外交手腕の発揮とは言い難い。WTOの活動を否定した動きなのである。間違いなく、経済のブロック化の流れに繋がる。
 今までは、2国間の自由貿易協定や最恵国待遇は、「WTOプラスα」の位置付けだったが、カンクンで変わってしまった。自由貿易協定が経済ブロック化の核になりかねないのだ。

 グローバル化反対論者が待望していた、「悪者WTOの破綻」が現実化しつつある。その変わり、経済ブロック化が始まった。

 反対論者の主張通り、グローバル化を進めても、貧困は解決しないだろう。しかし、WTOが破綻し、グローバル交渉の場を無くすことが、貧困解消に繋がるだろうか。
 多国間交渉の場が無くなれば、1対1の交易交渉が始まる。何の力も持たない国は不利な条件をのむしかなかろう。事態は間違いなく悪化する。WTOでルールを作る以外に、貧困解決の道などないのだ。

 にもかかわらず、最貧国支援と称して、この仕組みを破壊したい勢力が多い。
 反対論者は、実践論でなく、ドグマで動くのだろうか。

 言うまでもなく、先進国の最優先事項は、グローバル企業の活躍の場を保証する仕組み作りである。WTOは、企業活動の障害を取り除くための貿易と投資のルール作りの場でしかない。そのなかで、発展途上国にも恩恵を与えるよう、妥協が行われているにすぎない。
 従って、発展途上国が適当なレベルで妥協を図らなければ、WTOは破綻する。これが現実である。

 今や、WTOは分水嶺にさしかかっている。動きが速い時代だから、じっくり検討することなどできない。おそらく、ここ1年程度での農業交渉の成否で、今後の世界経済の基本構造が決まることになろう。

 途上国連合は、中国、インド、ブラジルが核となり、農産物各論での開放ではなく、先進国の農業補助金外しに力を入れている。途上国の農業保護では、途上国連合内でも意見がわかれるものの、これから経済発展が予想される地域が一体となって動けば、事態は変わるかもしれない。

 もし、これに失敗すれば、グローバル交渉の場は消え去ることになろう。・・・もっとも、日本政府は、国内農業保護を続け、ブロック経済への道を選択するつもりのようだが。しかし、どのようなブロックを考えているかは定かでない。


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