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2003.9.29
 
 


交渉技術の重要性…

 論理的説得能力が重要な時代である。
 ところが、日本はこの能力を磨かないできた。そのツケが回ってきたようだ。交渉の場面で、日本の意向が伝わらないことが多い。

 日本では、利害対立に直面すると、両者の言い分の中間点探しばかりする。意見対立の源泉を探り、どのような解決方法があり得るのか、検討することを避ける傾向がある。
 なにをやっても、どうせ埒があかないと最初から決めつけているから、落し所探しに奔走することになる。

 そのため、延々と主張を続けさせる。両者がくたびれたころを見計らって、「調整者」が登場する。落し所を示し、ただただ妥協を迫る。

 日本の社会では、これで通用する。「調整者」に逆らうと、損をすることが多いからだ。
 しかし、グローバルな戦いでは、このような解決方法は稀だ。日本流のやり方は機能しないのである。

 そもそも、解決のための妥協点探しから始める日本の方法は嫌われる。
 「ともかく妥協で解決」との態度で交渉を始めれば、有利な妥協点獲得に向けて、皆が「力」で押しきろうと動く。結局、裏交渉だけで決まることになる。
 このような、不毛な裏交渉を避けたいから、表での議論を重視しているのだ。にもかかわらず、日本だけはその流れに抵抗し続けている。
 相変わらず、裏交渉における人間関係作りに重きをおき、表での論理的説得を軽視しているのだ。

 これから重要になるのは、「妥協点を探る」能力ではない。妥協に近づく第一歩は、「妥協の論理を作る」ことであり、具体的な妥協レベルの設定ではない。論理を踏まえて妥協のレベルが決まった、と言えるような知恵が肝要なのである。
 対立点を解きほぐして、妥協点を探る方法を見つけることが重要なのである。

 政治の世界を見ると、日本の体質がよくわかる。

 第58回国連総会において、川口外相が一般演説(2003年9月23日)のなかで拉致問題をとりあげた。
 すかさず、翌日の一般演説終了後、北朝鮮が答弁権を行使した。そこでの日本と北朝鮮の議論の様子がテレビニュースで流れた。
 ・・・日本代表の対応には、正直、がっかりさせられた。
 [外相は「核問題、ミサイル問題、拉致問題を包括的に解決していきたい」と語った。]
 (http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/15/ekw_0923.html)

 一方、北朝鮮代表の論理はしっかりしていた。
 北朝鮮の主張は、次ぎの流れで、参加者の耳に入ったと思われる。

 1 日本は、過去に大量の朝鮮国民を暴力的に日本に連れ去った。
   この件に関しては、日本と北朝鮮の間で解決していない。
 2 北朝鮮は、敵視政策を続ける日本から、極く少数の日本人を北朝鮮に日本に連れ去った。
 3 北朝鮮政府は、これらの人を日本に帰還させた。
   北朝鮮に戻るとの取り決めで出国したが、約束は守られなかった。
   日本が拘束してしまったからだ。
   お蔭で、北朝鮮に戻って家族と将来の相談もできない状態が続いている。
 4 日本政府は、拉致問題を解決せよと、強硬な態度をとり続けている。

 生の言葉に直せば、「40年間の日本占領下で840万人の朝鮮人が犠牲となり、20万人の朝鮮人女性が慰安婦として働かされ」、「日本の大虐殺は数人の拉致被害者とは比べ物にならない」である。
 (http://www.nikkei.co.jp/kaigai/us/20030925D2M2500T25.html)
 そして、「拉致は日本の先例のない敵視政策の産物」であり、「日本が真に拉致問題を解決したいなら、過去の清算を完全に行わなければならない」と畳み掛けた。
 見事な対応である。

 この論理に対して、日本の対応といえば、外相演説の内容を繰り返したにすぎない。
 [次席大使は「日本政府は拉致問題が解決したとは思っていません」と語っていた。]

 北朝鮮の実像を知らない人なら、日本は北朝鮮に対し反論できない、と感じたのではないだろうか。
 これは、論戦での敗退というより、そもそも反論を放棄した状態といえる。

 反論とは、ひとつひとつの論理に対応し、打ち砕いていくこと作業である。例えば、・・・

 1 過去の問題に関しては、正常な交渉ができる国とは、すでに解決済みである。
   北朝鮮に対しても、日本としては、以前から、できるかぎりのことを行ってきた。
   ところが北朝鮮政府は、国際社会に対し、暴力的な脅しを続けており、交渉する姿勢を見せていない。
 2 北朝鮮の日本人拉致は、現在発生していることであり、過去の問題ではない。
   過去の問題を取り出して、現在の拉致問題をうやむやにしようとしている態度は許しがたい。
   政府機関による拉致は、テロと同義であることを、北朝鮮は再認識すべきである。
   北朝鮮はテロ活動を行っていない、と証明する義務がある。
 3 帰還者は日本人であり、拉致被害者である。
   日本政府が日本人の人権を守るのは当然のことである。
   北朝鮮政府は、先ずは、拉致被害者に対して、補償とお詫びをすべきである。
   拉致被害者は北朝鮮に残された家族を人質と考えている可能性があるから、
   日本政府は北朝鮮に対して当然の要求をしてこなかった。
   北朝鮮は、日本政府が帰還者を拘束しているとの悪意ある主張を行っている。
   拉致被害者と北朝鮮の家族を第三国の国連保護下で、国連担当者が意向を聞く場を設けようではないか。
 4 日本政府は拉致活動を放棄すれば、交渉に入ると繰り返して述べてきた。
   ところが、北朝鮮政府の提供した調査結果には、不審な点が多く、信用し難いものだった。
   拉致活動を放棄したとは見なせないため、日本政府は調査を要求しているのである。
   北朝鮮政府は、日本政府が強硬と考えるなら、
   日本政府は国連機関に拉致調査を委託することに吝かでない。

 日本の報道では、北朝鮮の主張は強硬さを増す一方であり、答弁権行使は異例、という情緒的コメントが目立つ。
 国際社会から孤立しないよう、国連総会で精一杯自国の立場の正当性を訴えている姿が見えないのだろうか。北朝鮮と国交を結んでいる国は多いことを忘れるべきでない。
 残念ながら、日本は、論戦による北朝鮮孤立化のチャンスを逃したのである。


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