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2004.5.26
catastropheに繋がらなければよいが…
米国はイラク戦争で敗退の道を歩み始めたのだろうか。
バスラの石油パイプラインや積み出し施設が爆破されたところを見ても、治安維持はできかねるようだ。経済の生命線を守れないのだから、復興どころの話しではなかろう。しかも、ついに反米派民兵が対戦相手になってしまった。テロなら、育成したイラク警察官で対処できるが、民兵との戦闘が発生すればとても無理である。
この状況は、国連に管轄を移行しても変わるとは思えない。国連自身が、フセイン政権に、経済制裁と賠償金を課した当事者だから、反米派が態度を変えることはあるまい。イラク内部から、ゲリラ戦抑制のリーダーシップを発揮できる勢力が現れない限り、さらなる泥沼化必至だろう。
開戦直後は、精密攻撃、迅速行動、リアルタイムの情報力で、新しい軍事システムの圧倒的な力を見せつけたが、最終的な地上接近戦では、最新の仕組みは機能しないことがわかってしまった。特に、陸軍は1990年代にたいした新兵器を導入してこなかったから、市街戦能力は昔とそれほど変わっていない。十分な地上兵力投入せずに安定は無理、と退役軍人が主張していた通りになりつつあるようだ。
しかし、今から増強のための兵力派遣はできない。無い袖はふれないからだ。
結局のところ、米軍はイラクで、これ以上何もできずに終わるのかもしれない。しかし、イラクから撤退すれば、イラク内戦勃発に繋がりかねない。そうなれば、サウジアラビアも動揺することになろう。ドミノ倒しで、中東一帯が動乱に巻き込まれる可能性さえある。
撤退もできないが、事態が好転もすることもない、という最悪のパターンに引きこまれるのかもしれない。
ブッシュ政権が初めて手をつけた、冷戦後の新軍事体制は機能しそうにない。
イラクは新体制のテストでもあった。2つ(サウジとトルコ)の主要基地(MOB)と、5つの(バーレーン、クエート、カタール、オマーン、UAE)前線基地(FOB)でこの空域を管掌してきたのである。(1)
イラク安定を目的に、さらに旧ソ連圏にも前線基地を広げたから、一見、上手く進んでいるように見えたのだが、結局のところ、地域の不安定化が進んだだけかもしれない。
地域安定のためには、冷戦時代のように、ロシアとの分担統治を復活するしかないようにも思える。
おそらく、これは中東だけに当てはまる問題ではない。米国の地域紛争火消し役構想に、ほころびが見えてきたのである。
にもかかわらず、米国はこうした新軍事体制移行を続けるつもりだ。
もちろん、新軍事体制の核は空軍だ。この圧倒的な力を見せつけることで紛争を抑止するとともに、発生しても初期段階で芽をつもうとの考えだ。空軍力と同時に、陸上部隊も、緊急対応性が要求されることになる。
従って、基本的には、
・主要基地(MOB)の維持(独、英、伊、トルコ、サウジアラビア、クエート、韓、日)
・世界に少数の支援拠点(FSL)をハブとして設置(Alaska, Puerto Rico, UK, Guam, Diego Garcia)
・安全保証パートナーを設定しその役割を強化
という流れになる。既存MOBの肥大化部分を縮小し、MOBの数を増やすことで、全域をカバーし、機動性を高めるのだ。
しかし、イラクの例ではっきりしたように、空軍力は結局のところ決定的な力とはいえそうにない。そうなると、パートナーの力を重視するしかないだろう。
このことは、アジア地区では、米国のパートナー日本が、この地域の安全保障に、今まで以上に深くかかわることを意味しそうだ。といって、軍隊派遣はできないから、この地域に派遣できる米軍部隊を日本が面倒を見ることになるのだろう。
その一方で、韓国の米軍地上部隊は大幅削減されることになる。
日本はこれまでも、実質的に、世界最大の米軍を擁する、東アジアの「不沈艦」だった。
陸上勢力は韓国の規模を越えていたし、海軍は世界最大の駐屯地であり、なかでも海兵隊の存在は目だっていた。おそらく、日本の「不沈艦」としての役割はさらに強化される。
冷戦構造下では、それなりに機能した安全保障体制と言えないこともないが、これからは重いコスト負担と、ハイリスク化は避けられそうにない。
・・・などと、のんびり構えていられるかはわからない。
FinantialTimesコラムニストPhilip Stephens 氏が描くように、僅かとは思うが、米国が孤立化して世界がcatastropheに進む可能性もあるからだ。
--- 参照 ---
(1) http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A32331-2003Jun8?language=printer
(2) 「The looming catastrophe」http://news.ft.com/comment/columnists/philipstephens 2004年5月13日有料
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