← トップ頁へ

2004.9.30



宗教対立を煽るテロリスト…

 2004年8月、イラクでネパール人がテロリストに拉致され、虐殺された。(1)

 ネパールのような小国には政治力はないから、ほとんどなにもできない。そして、他の政府は無視するだけ。もちろん、身代金を払うこともできない。従って、大国の国民のように解放されることはない。

 日本人から見れば、小国の出稼ぎの民への同情を禁じえない。
 しかし、これが世界政治の現実である。

 “イラクは戦場であり安全ではない。しかし、ネパールだって同じではないか。”と語るのは、勇猛でならすグルカ兵だ。(2)
 発展途上国の経済は、実は、こうした人達の稼ぎが支えている。

 イラクで働けば、国では考えられないような高額な給与が得られ、家族が養える。そして、子供達にも、基地内で良い生活をさせることができる。
 仕事をすることは、当人にとって誇りでもあるのだ。(3)

 思想や宗教でイラクに行く訳ではない。しかし、やむなく行く訳でもない。
 一人当たりGDPが248ドルの国である。(4)喜んでイラクに行く人は多い。

 このような状況を知っていると、テロリストによる殺害の根底には、傭兵に対する憎しみがあり、弱体化して追い詰められたテロリストが、弱いネパール出稼ぎ労働者を殺した、と見がちである。

 おそらく、この見方は間違いである。

 これは、宗教対立を煽り、戦乱を世界に広げたいと考えている勢力が仕掛けた周到なテロと見た方がよい。イスラム教信者が、非イスラム教徒に対する憎悪感を持つことを狙って行ったテロと考えるべきである。

 残念ながら、この目論見は、ほぼ成功したといえよう。このテロをきっかけとして、ネパールでイスラム教寺院が襲われれたことが、イスラム圏で広く報道されたからだ。(5)

 イスラム教のテロリストは、国際的視野を持っていることが特徴である。
 忘れている人が多いが、東チモール独立にあたって派遣されたのが、グルカ兵だった。
 言うまでもないが、この独立運動の根源は宗教対立である。独立派のキリスト教徒が、イスラム教政権に徹底的に弾圧されたことが、世界中で知られるようになり(6)、独立が承認されたのである。

 このように、宗教対立は根深い。

 冷戦時代は、共産主義対資本主義という、イデオロギーの対立だったので、宗教対立は抑制されていたのだが、これが解禁されたのである。そして、このチャンスを生かそうと、宗教対立を煽る勢力が跋扈してきた。

 この旗頭が宗教原理主義のテロリスト達である。

 ところが、テロリスト以外にも、対立を好む勢力がいる。しかも、テロリスト撲滅勢力のなかに存在したりする。徹底的にテロリストと戦う姿勢を示すから、支持を集めることもあるが、実は、テロリストとは違う教理の原理主義者に過ぎない、といった可能性があるのだ。

 この結果、下手をすると、血みどろの宗教対決が何時までも続くことになる。

 --- 参照 ---
(1) http://english.aljazeera.net/NR/exeres/67833A12-87BE-467D-8E7E-9D173D9A9915.htm
(2) http://www.nepalnews.com.np/ntimes/issue211/economy_2.htm
(3) http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2004/iraq4/news/0721-1893.html
(4) http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nepal/data.html
(5) http://english.aljazeera.net/NR/exeres/0A0D5270-1C80-4569-9CA0-028686A49F7E.htm
(6) http://www.cbcj.catholic.jp/jpn/doc/cbcj/890814.htm
 
 政治への発言の目次へ

(C) 1999-2004 RandDManagement.com