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2005.1.14
 
 


朝鮮半島の不安定化…

 2期目のBush 政権が始まった。
 1期目同様、アラブ地域とその周囲の民主化と、テロリストネットワーク壊滅を最優先課題に設定しているようだ。お蔭で、北朝鮮問題解決の優先順位は高くない。
 (White House のホームページを見ても、北朝鮮問題が存在している感じさえしない。)

 こんな状況を見計らったように、2004年から、韓国大統領が北朝鮮金政権支持策を次々と打ち出している。これが、地域の安定を脅かさないか、危惧の念を抱かざるを得ない。
 国際政治、特に安全保障を考えるなら、まずはリアリズムに基づいた現状認識から出発すべきだと思うが、韓国の方針は、リアリティから離れ、理想論や希望的観測で打ち出した印象が強いからである。

 先ず、はっきりさせておかなければならないのは、この地域は米国の軍事力により辛うじて安定が保たれてきた、という点だ。基本的に、不安定な状況は変わっていない。
 その一方で、地域経済圏としての発展が著しく、国家間の相互依存化が急速に進んでいる。地域が不安定化すればどの国も、とてつもない悪影響を被りかねない状況にある。従って、地域の安定は、北朝鮮を除き、どの国の政権にとっても最重要課題であることは間違いない。

 そのため、北朝鮮問題を沈静化させれば、問題が解決するとの印象を持ってしまう。
 しかし、問題は、それほど単純ではないと思う。

 自由主義圏の韓国や台湾にしても、自由選挙実施は最近のことだ。
 経済が低迷すれば、政情不安に直結する可能性は高い。

 中国に至っては、膨大な餓死者が出たと言われている大躍進政策や、大規模な粛清が行われた文化大革命を推進した政党による独裁が今も続いている。しかも、経済と軍事の両面で覇権国化の道を歩んでいる。現時点では極めて安定しているとはいえ、いつどこで国内問題が発生してもおかしくない。

 どこを見ても、国を揺るがしかねない内部矛盾を抱えながら、とりあえず経済的発展を実現することで、問題の表面化を抑えているに過ぎない。もしも、内部矛盾が爆発しそうになれば、各国政権は対外矛盾に問題を転嫁しかねない。
 爆弾を抱えている状況とは言えまいか。
6者協議での各国の基本的立場(1)
北朝鮮 米国が
敵視政策を転換すれば
核開発計画の放棄が可能
米朝双方が問題解決措置を同時実施
米国 まず先に北朝鮮が
検証可能・不可逆的な形で
核開発を放棄
核問題が解決したら経済支援を検討
日本 北朝鮮が
検証可能・不可逆的な核開発放棄
拉致問題の解決
韓国 対話による平和的解決
南北交流の促進
中国
ロシア
朝鮮半島の非核化
対話による平和的解決
北朝鮮の安全保証

 そう考えると、本来は、北朝鮮問題の6者協議を追求する前に、北朝鮮を除外して、地域安定のための5ヶ国協議を行うのが筋ではなかろうか。北朝鮮問題とは、そのなかの1問題に過ぎない。
 今の、6者協議を見ていると、現実認識も違うし、思惑もバラバラであり、まとめようがないように見える。このような交渉で、成果が上がるとは思えない。

 そもそも米国大統領は、金政権を信用していないのだから、本気で、交渉による解決を図るとは思えない。「North Korea Human Rights Act of 2004」の成立過程を見ても、米国議会も交渉の成果を疑問視しているようだ。
 交渉の切り札になりそうな策は、どれも期待できそうにないから当然の態度かもしれない。(2)
 (1) 賄賂で核放棄→騙されかねない(1994年交渉同様)
 (2) 先制軍事侵攻→朝鮮半島での戦乱に繋がる
 (3) 新たな経済制裁→すでに孤立経済化しており、効果は疑問だ

 そうなると、日韓の核武装化を容認し、北朝鮮政権の崩壊を加速させたらよい、との意見に耳をかす人も増えるかもしれない。
Foreign Military Sales Agreements
FY 2003 [億ドル](3)
東アジア/パシフィック
(日本)
(韓国)
(台湾)
(豪)
(シンガポール)
24.4
(7.3)
(4.8)
(4.6)
(4.5)
(1.7)
近東/南アジア
(エジプト)
(サウジアラビア)
(イスラエル)
(クエート)
(パキスタン)
(ヨルダン)
(UAE)
31.8
(9.3)
(6.9)
(5.0)
(3.2)
(1.7)
(1.5)
(1.4)
欧州
(ポーランド)
(英国)
(トルコ)
(独)
(伊)
(西)
(ノルウェー)
57.6
(35.7)
(4.6)
(4.4)
(3.2)
(1.5)
(1.2)
(1.1)
アフリカ 0.4
西半球
(カナダ)
3.5
(2.6)
非地域 9.8
合計 128.0

 こんな状況では、米国は、核が第3者に渡らない算段だけに注力しかねまい。
 それは、米国にとって魅力的な展開でもある。

 というのは、最重要な中東地域に軍事資源を集中できるし、これに合わせてアジア・パシフィック地域の米軍再配置を行えるからだ。さらに、北朝鮮の核武装化問題をタネに、同盟国(FMSに登場する主要国)とミサイル防衛網構築を練ることも可能になる。

 米国の世界戦略にとっては好都合かもしれないが、この地域の国々にとっては、頭痛のタネになりかねない動きである。
 下手をすると、米国が朝鮮半島安定の責任を負うべきでないとの考え方が広まりかねないからだ。
 もしそうなれば、地域全体が一気に不安定化するだろう。これではたまったものではない。

 中国にとって、これは覇権拡大のチャンスと言えないこともないが、日韓の軍事力強化を招くことになる。中国が、そのようなリスクを放置するとは思えない。
 そうなると、北朝鮮での傀儡政権樹立に手を染めかねまい。朝鮮半島不安定化が避けられないなら、先手を打つしかなかろう。

 こんな状況が見えているのに、韓国大統領は北朝鮮金政権への支援を進める。
 平和路線の心意気はわからないでもないが、米国の役割放棄をそそのかすような施策でもある。
 平和どころか、不安定状況を生み出しかねない方針と言えよう。

 --- 参照 ---
(1) 公安調査庁 平成16年版「内外情勢の回顧と展望」
  http://www.moj.go.jp/PRESS/031224-1/031224-1-3.html#01
(2) Ted Carpenter & Doug Bandow: 「The Korean Conundrum America's Troubled Relations with North and South Korea」2004年12月
  http://www.palgrave-usa.com/Catalog/product.aspx?isbn=1403965455
  T. Carpenter:“Options for Dealing with North Korea”2003年1月6日
  http://www.cato.org/pubs/fpbriefs/fpb-073es.html
(3) http://www.dsca.osd.mil/programs/biz-ops/2003_facts/Facts_Book_2003_Oct04_FINAL.pdf


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