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2005.1.21
 
 


人種・民族ビジネスの危うさ…

 フランスでは、少数民族の承認と自治権の要求といった政治的な動きを利用したビジネスが盛んなようだ。

 フランス領コルシカ島は分離独立運動が盛んなことでよく知られている。
 1998年には知事が暗殺され、これに対抗した民族主義者狩りも行われた。こんな酷い状況下で、民族主義高揚のムードに乗り、1996年に、島内初の醸造所Pietra Brewery を設立し、ビール事業を始めたビジネスマンがいる。これだけなら地場産業勃興の動きに映るが、同時に、米国文化を象徴する商品「コーラ」の製造販売も始めたのである。ブランドは「Corsica Cola」(1)だ。

 赤の地色に白字のラベルの瓶という、コーラの定番デザインを踏襲しているが、右上に鉢巻をしたコルシカ独立のシンボル女性像を入れている。(2)米国企業製品ではなく、地場企業品を飲もうと呼びかけているのである。情報不足なのではっきりしないが、ビジネスとしては成功したようだ。

 ブルターニュで生まれた商品「Breizh Cola」(3)も、地場品だ。しかし、地場というより、グローバリゼーション対抗の思想としての“la bio-diversite”をウリにしているようだ。

 アルザス地方にも、地元の水や糖を原料にした同様な製品がある。地元を象徴する女性をラベルに載せた「Elsass Cola」(4)だ。

 北部(Nord)でも、「Chtila Cola」(5)が売られている。

 当然ながら、隣国でも同様な動きがある。カタロニアの「Alter Cola」は“Catalan Libre”を明確に打ち出すプレミアムコーラである。

 フランスでは、今もって、“Coca-Cola”“PepsiCo”は米国の手先といったスローガンが有効なようだ。
 このようなムードだけで敵対心を煽る文化が続く限り、平和はいつまでたっても実現できないだろう。

 コーラは世界中で飲まれており、市場も大きい。おそらく、最初は、富める国の文化に対する憧れから浸透が進んだのだろう。
 米国文化を嫌うなら、コーラを飲まなければよさそうなものだが、そうではない。飲む習慣は続けておいて、米国企業がコーラを販売するのが「けしからぬ」というのだ。

 公正な競争が行われず米国企業が成功しているというなら、そこを正すべきだが、ともかく米国企業の製品購入をボイコットしようというのだ。論理に飛躍がある。
 経済孤立化を図るつもりなのであろうか。そうでなければ、ともかく秩序を壊すことを目的とした動きとしか思えない。

 ところが、こうした風潮を利用したビジネスが続々と生まれている。

 回教徒は、米国企業の製品を飲むべきではないというムードを生み出し、コーラ市場でシェア獲得を図るビジネスが散見されるようになってきたからだ。しかも、収益から政治活動助成金を支払う仕組みを取り入れたりしており、一過性の動きではなくなってきたようである。

 例えば、「Mecca-Cola(6)」はフランス国内を中心とした米国製品ボイコット運動に乗って、チュニジア出身の仏国籍のビジネスマンが生み出した製品だが、海外でも人気があるらしい。
 この機会を逃すなとばかり、UAEでも「Star Cola」が伸びたようだし、イランの「ZamZam(7)」、「Muslim-UP(8)」、「Qibla-Cola(9)」、「Arab-Cola(10)」と回教徒向け製品が次々と登場している。

 これらの企業は経営内容がさっぱりわからないから、曖昧な伝聞情報で判断するしかないが、大手2社の競争の蔭で、それなりの成功を収めているようである。(11)

 反米というスローガンだけのコピー商品の購入を勧める運動に、危険性を感じないのだろうか。
 少し考えればわかると思うのだが。

 そもそも、米国文化の象徴コーラを一生懸命販売する目的がわからない。

 しかも、どの位の利益が出て、それをどう分配しているのか、わからない企業を応援するというのだ。どうして信頼できるのだろう。

 反米なら、ビジネスのルールはどうでもよいのだろうか。米国企業のコピー商品を販売しても、倫理的にかまわないのだろうか。

 飲料ビジネスはブランド/マーケティングだけで成り立つものではない。消費地でのボトリング(製造)と効率的な物流を構築する必要がある。
 世界を席巻している大企業は、こうしたインフラを世界中に作ってきたのであり、現地での雇用を生み出してきたともいえる。
 それが、技術やノウハウを現地に伝え、より高付加価値のビジネスが生まれるタネとなる。

 他国からの資本導入を嫌えば、豊かさの実現から遠のくだけの話ではないのか。そして、貧しさが続き、一部の人が民族の旗の下で大儲けできる構造ができあがる。他国の物真似だけで十分儲かるから、新しいビジネスは生まれない。

 そんな道を歩みたい人が多いとは思えないのだが。

 --- 参照 ---
(1) http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/3046162.stm
(2) http://rdlm.photos.free.fr/gr20/IMG_4849.html
(3) http://www.breizhcola.fr/
(4) http://www.atypic-prod.fr/pubs/elsass.htm
(5) http://www.chtila.fr/
(6) http://www.mecca-cola.com/en/cola.php
(7) http://zamzamgroup.com/EN/prdmaster.asp?Codekind=1&pic=PRDLargePicCola.jpg&Osare=1&Nosare=Cola&NKind=Drinks
(8) http://www.muslim-up.com/co/index.php?page=prod&ln=en
(9) http://www.qibla-cola.com/download/poster.pdf
(10) http://www.arab-cola.com/produits/cola.php
(11) http://www.ameinfo.com/news/Detailed/37492.html


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