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2005.4.4
 
 


アジアの平和は終わるのか…

 “アジアでは30年以上も大きな紛争がなく、太平洋の安全保障はサクセス・ストーリーだ。”(1)

 2005年3月にライス国務長官が上智大で行った演説要旨の冒頭に示されているポイントである。誰でもが同意する内容だと思う。

 問題はこの状態が続くかである。
 “21世紀のアジアはむき出しの力ではなく、自由の思想によって形づくられる”とのブッシュ政権のメッセージが奏功するだろうか。

 最近の動きを見ていると、緊張が急速に高まっているようだ。
 北朝鮮問題ではない。中国・台湾間が妙にきな臭い。
 EUは好機とばかりに、中国への武器輸出をしかけたり、緊張を高めようと画策している。

 “言葉であろうが行動であろうが、現状を一方的に変えることに反対する。”というのが中・台関係についての米国の考えだが、自由の思想を鼓舞するのだから、台湾住民が独立の意志を示す可能性は否定できない。

 そうなった時、中国の共産党政権は座視していられまい。なんらかの手を打つ。
 この時、「一つの中国」政策を確約している米国政府が、この紛争の仲立ち役になれるだろうか。

 おそらく無理である。米国世論は「自由の思想」を支持しているからだ。しかも今もって天安門事件を忘れていない。
 台湾で圧倒的な民意が示されれば、世論は独立支持に回るだろう。この世論を敵に回して、大統領が台湾独立の動きを抑えることはできまい。強行すれば、辞任に追い込まれかねまい。

 紛争解決は難しいのである。
 最終的には、中国との軍事バランスを図るために駐留している沖縄米軍が出動するしかなくなる。

 ・・・と最悪のシナリオを考えてしまったのは、シンガポールのLEE Kuan Yew元首相の語った数字が気になるからだ。

 “a 40% probability of war between China and Taiwan at some point over the next 10 years”(2)

 外務省の紹介(3)では一寸読み取りにくいが、LEE Kuan Yewは華人で、シンガポールの独裁者である。引退を宣言して、14年間トップの座を明け渡していたが、結局、2004年8月に長男をトップに据えて、シニアの首相として活動し始めた。
 国際状況を読み取り、機敏に動き、シンガポールを繁栄に導いてきた政治の達人である。
 しかも、中・台関係正常化のきっかけを作った。
 その人の発言である。

 これだけの説明では、LEE Kuan Yewを注目する理由がわかりずらいかもしれない。

 シンガポールといえば、たいていは貿易問題の話になる。お陰で、小国で経済発展に注力しているイメージが強い。しかし、もう一つの顔を忘れるべきでない。
 この国は徴兵制の軍事国家だ。6万人の常備軍と最新装備に加え、非常時に大量動員できる体制を構築している。軍事予算は歳出の28%。(4)
 この力があるから、ASEANの臍として動けるのだ。こんなことができたのは、軍事に関しては、台湾と密接な関係があったからである。
 その一方で、中国共産党との外交も推進してきた。

 中・台それぞれがどのように動くか、一番読める人だろう。

 その人が、香港でも、警告した。
 余計なことはするなと語ったらしい。ビジネスだけしてろと言うのだ。

 “Hong Kong people should not push Beijing to change the existing system in the former British colony. ”(5)

 ブッシュ政権の「自由の思想」運動は、アジアの平和サクセス・ストーリーの終焉に繋がるのかもしれない。

 --- 参照 ---
(1) http://www.topics.or.jp/Gnews/news.php?id=CN2005031901001150&gid=G15
(2) http://www.guardian.co.uk/comment/story/0,,1444400,00.html
(3) http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/singapore/cv/r_kuanyew.html
(4) http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/singapore/data.html
(5) 2005年3月30日21:47香港発 Kyodo


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