↑ トップ頁へ

2005.5.18
 
 


中国の危険性とは…

 中国の反日騒動も一段落したようだから、ちょっと振りかえってみよう。

 結果的には落ち着くところに落ちついたとの印象だが、日本政府の対応で胡錦涛政権が動いた訳ではなく、海外メディアが取り上げたので対応せざるをえなかったように映る。

 国際経済メディアによる、「中国危険」論の影響は思った以上だった。(1)
 (但し、海外メディアに登場した日本人は少なかった。(2))

 簡単に言えば、日本は危険ではないが、中国は危険だという論旨である。中国は、国内では厳格な情報管理を行い、表立った論争を一切認めていない。その上、海外に対しては軍事圧力とナショナリズムを仕掛け、脅す。国際社会にとっては、ただならない危険な国家だという訳だ。

 こんな論調はたいして珍しいものではないが、中国にとって、今、「中国危険」と経済メディアに語られることほど怖いことはない。中国経済はまだ自立した成長を続けるだけの力はないからだ。海外からの資本流入で謳歌しているにすぎず、この資金流入が止まった瞬間、国内経済はガタガタになる。かつての東南アジア通貨危機同様の事態に見舞われるだろう。元切り上げどころの話ではない。
 当然、政権も大きく揺らぎ、政治的不安定化は避けられない。政治と経済が一体化しているから、国家分裂の危機に至る可能性さえある。
 もちろん、国際経済も大混乱だ。

 こんなことは、エンジニア達が集まる、胡錦涛政権は知り尽くしていた筈である。
 例えば、グローバル市場で独占的地位を占めている日本製材料が輸入できなくなれば、どの国だろうが、戦略的に最重要である半導体産業は稼動できなくなる。さらに、日本製電子部品や機構部品を入手できなくなれば即座に生産がストップする基幹工場だらけである。
 そんなリスクをおかしてまで、日中の経済的な紐帯を切るとは思えない。毛沢東時代に逆戻りするつもりがない限り、反日を続ければ大損なのは自明である。
 (但し、スターリン批判とは違い、毛沢東批判は一部の誤謬に留まっている。未だに特別扱いであり、その思想を否定した訳ではない。)

 もともと、胡錦涛政権は江沢民政権の反日政策から徐々に転換を図ってきていると思う。おそらく、反日愛国政策にたいしたメリットはなかったと総括している。

 にもかかわらず、暴動が発生した。
 毛沢東が操った紅衛兵活動でわかるように、反日暴動が発生したということは、権力中枢において深刻な政策上の対立が発生したことを物語る。民意を反映する仕組みが無いから、方針対立が発生すればこうならざるを得ないのである。

 問題は、どのような政策的対立があるかだ。中枢における議論の一端も外部に漏らさない厳格な情報統制国だから、論評は難しいだろうが、そのための専門家だ。もっと意見を述べて欲しい。

 こうした点に関する肝心な情報は流れない一方で、あちらこちらから表層的な情報は大量に入ってくる。具体的で面白いものが多いが、様々な話が錯綜しており、さっぱりわからない。中国は広大であり、地域格差は大きく、益々その差は開いている。細かな話をいくら集めても全体像は見えない。

 こんな状態に慣れてしまうと、感受性は鈍ってしまう。

 なにせ、未だに、戒厳令が敷かれる国である。(3)
 チベットなどは、どう見たところで植民地としか思えまい。混乱発生もたまらないから、皆、知らん顔をしているだけの話である。こんな制度が生き残っている国であることを前提として中国を見る必要があろう。

 こんな話をすると、インターネットで情報が駆け巡る時代が来ていると話す人がいるが、これは誤認だろう。中国国内では、通信監視が行き届いているからだ。政権に都合の悪いサイトへのアクセスは遮断される。
 政治的な発言を見かけたら、それは必ずなんらかの形で権力中枢と繋がっているか、黙認されたものと考えるべきである。自発的な政治運動などあるとは思えない。

 そんな国で発生したのが、今回の騒動だ。
 かなり深刻な路線対立問題が発生したのではないだろうか。

 少し考えてみよう。

 言うまでもないが、共産党独裁体制を支えているのは、人民解放軍である。
 胡錦涛体制になってから、軍もかなりオープン(4)になってきたものの、もともと軍閥的体質が濃厚な組織であるから、どうなっているかわかったものではない。
 反日騒動とは、江沢民政権を支えていた、この組織の一部が動いたと見てよいだろう。

 そうだとすると危険な兆候である。
 反日の姿勢を言っているのではない。

 胡錦涛国家主席は国家中央軍事委員会主席に就任しているが、統帥権が万全とは限らないからだ。今まで人民解放軍を動してきた指導者とは、カリスマか建国時に功労があった老人達である。ポーカーフェースのテクノクラートが完全に権力を把握できるとは限らない。と言うより、軍の統制はとれていないと言った方が当たっていると思う。
 人民解放軍は政府に属している訳ではない。党中央の指導に従うことになっている。カリスマ的な中央が存在しないと、指導が徹底できるか怪しいものがある。

 日本から見れば、中国の発展は著しいから「凄い」ということになるが、「中華」思想から見ると閉塞感は否めない。中国から見れば、日本を傘下に従えた米国と、大欧州の2大ブロックに囲まれてしまったということになろう。この包囲網のなかで、最後まで残っている軍事独裁政権という感覚だろう。
 共産党政権維持の危機感が生まれて当然の状況である。

 NATOはついにロシアを巻き込んで、大欧州に進みつつある。そして、米国を囲んで、G8で世界の方針が議論される。
 中国は、この中には入れないにもかかわらず、テロ対策では、米国と同調せざるを得なかった。他国と同じように、米国の動きを睨みながら動くしかないのだ。ところが、蚊帳の外におかれている。
 大国としての面子を保てる独自な動きは、ASEANとのFTO位しかない。WTOに加盟し、グローバル経済化の道を躍進しているが、政治の面での実態は、冷戦封じ込め時代とたいしてかわらない。
 紅衛兵を熱烈に支持していた軍隊である。このまま進めば、共産党滅亡につながるとの不安を抱く層がいてもおかしくない。

 日中関係を経済重視型へと変えようとの方針転換だけでも、反対勢力は簡単にその力を誇示できるのだ。

 このことは、北朝鮮問題や台湾問題でも、人民解放軍の一部が暴走する可能性があると言えるのではなかろうか。

 --- 参照 ---
(1) 経済誌の典型例:“History, riots and trade rows”The Economist 2005年4月21日
  http://www.economist.com/opinion/displayStory.cfm?story_id=3888043
  日本からの発言で掲載されたのもの:Shintaro Ishihara:“Questions about the rising giant”
(2) 日本からの主張例: http://www.iht.com/articles/2005/04/22/opinion/edishihara.php
(3) http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A15032-2004Nov1.html
(4) http://english.people.com.cn/zhuanti/Zhuanti_440.html
 

 政治への発言の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2005 RandDManagement.com