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2005.5.25 |
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騒乱の時代…Kissinger氏がthe International Herald Tribune紙に寄稿している。(1)ニュースを眺めていると、国政選挙(アフガニスタン、イラク、ウクライナ、パレスチナ)、地方選挙(サウジアラビア)、シリアのレバノン撤退、エジプトの大統領選挙、キルギスタンの専制政治への抵抗と、世界が民主主義に流れ始めた印象を受けるが、理想が現実化していると単純に考えるべきでない、というもの。 要するに、自由を目指す政治は結構だが、米国国内での考え方を直接国外に適応するな、と主張しているのである。 当たり前だが、自由選挙など民主化のほんの一歩にすぎず、実現までには遠い道のりがある。選ばれた議員が民主主義を否定する非寛容的なイデオロギーで固まってくる可能性もあり、前に進んでいると断言もできない。 特に、ロシアや中国のような大国になると、単純な民主化を進めたりすると大混乱を招きかねない。 忘れてならないのは、この両国が第二次世界大戦で果たした役割である。日本とドイツが戦争で疲弊して、最後まで戦わざるを得なくなり、米国の完全勝利で終わったのは、自国焦土化ももろともせず、国民の数割の死傷者をも省みず、弱体な兵力にもかかわらず降伏せずに徹底的に戦い抜いたからに他ならない。 人々の命より、大国としての面子が重要なのだ。 こんな国に、民主化の理想論が通用するとは思えない。大国維持には独裁不可避と考えたなら、なにがあろうと独裁を止める筈がない。。 ブッシュ政権が理想論を追い求めると世界は混乱に見舞われかねないと、Kissinger氏が危惧の念を抱くのも当然だろう。 イラクを考えればわかる筈だと思うのだが。 2005年5月12日公表されたUNDPのレポートはイラクの実態をはっきり示している。未だに85%は電気が使えないし、水道も約半分が通じていない。こんな基本的なことさえ未だにできないのである。 イラクはもともと中東では珍しく水資源が豊富であり、石油収入で潤っていたから、教育も行き届いていた。中東にしては、政治以外の自由度は大きく、極めて世俗的な国だった。キリスト教徒も共存できた国である。 それが今や壊滅状態である。 ところが、米国国内の目から見れば、そう映らない。2005年1月30日にイラクで始めての国民議会選挙が行われたから、将来は薔薇色という訳だ。ついに専制政治が終焉し、民主政治が始まる訳だから、偉大な一歩を踏み出したと評価するのである。 しかし、道遠しである。 と言うより、議会が機能することはないと思う。 誰でも知っている民族対立(2割弱のクルド民族と8割弱のアラブ人)と宗教対立(3割強のスンニ派と6割強のシーア派)を解決する仕組みができた訳では無いからだ。 議会といっても、米軍の傘の下で各派の代表が集まっただけの話である。世俗的な政治勢力の力は弱く、実態は各派が取り仕切る連邦制に近い。 これでは、早晩、破綻せざるを得まい。 連邦制が機能するのは、ソ連のように無茶苦茶な強制移転で人種宗教を混合させた「州」や、米国のように人種に無関係に地域毎の歴史に基づいた「州」から構成されている場合である。 イラクのように「州」が人種や宗教で定義されてしまうと、「州」が力を持てば必ず独立運動に走る。連邦共和国といっても、現実には複数の国が見かけ上1つの国を作っているだけになってしまう。中央政府の軍事力で分裂を抑えているに過ぎない。 もしも、徹底的に「州」の独立を抑えれば、民兵を抱える部族軍閥が跋扈することになろう。統一とは名目だけだ。 素人が見ても、アラブの歴史とはそのようなものだろう。 ヨルダンの政権の姿勢を見ればこの地域で生き残る知恵がどんなものかよくわかる。湾岸戦争でシリアは反フセインの立場をとったが、ヨルダンはそうできない。力関係を判断しながら利を得るのがこの地域の政治である。 まともな産業が育ってないから、魅力的な仕事は軍隊か宗教団体しか提供できない。力の政治にならざるを得ないのである。 米国政治は、こうしたアラブの現実を見ず、国内受けを狙う体質が目立つ。しかも、単純な勧善懲悪がお好きなようだ。 こまったものである。 2005年5月12日に米上院が行った英国のGalloway下院議員の証人喚問のハイライトシーン見て、その感を深くした。 他国の政治文化が全く違うことがわかっていない。お陰で、どちらが追求されているのかわからないとんでもない喚問になってしまった。・・・ “Senator, in everything I said about Iraq I turned out to be right and you turned out to be wrong - and 100,000 have paid with their lives, 1,600 of them American soldiers sent to their deaths on a pack of lies, I was an opponent of Saddam Hussein when the British and American governments and businessmen were selling him guns and gas, I have a better record of opposition to Saddam Hussein than you do.”(3) “世界の民主化路線”は国内で支持されているようだから、Bush政権は、あくまでも果敢に突き進むだろう。(4) お陰で、世界の至るところで騒乱が発生することになろう。 --- 参照 --- (1) Henry A. Kissinger 「Realists vs. idealists」[2005年5月12日] http://www.iht.com/articles/2005/05/11/opinion/edkissinger.php (2) 「Report on Iraqi living conditions released in Baghdad today」 http://www.undp.org/dpa/pressrelease/releases/2005/may/pr12may05.html レポート:http://www.iq.undp.org/ILCS/overview.htm (3) http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,,1486025,00.html (4) Bush大統領演説[2005年5月18日] http://www.whitehouse.gov/news/releases/2005/05/20050518-2.html 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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