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2005.10.3
 
 


ドイツ年最大の行事を眺めて…

 ドイツ政府はドイツ年行事を進めているが、日本の人々の関心を一番ひきつけたのは、2005年9月18日に行われた総選挙結果のニュースではなかろうか。
  → 「日本におけるドイツ2005/2006」 (2005年4月〜2006年3月開催)

 と言っても、もともとドイツ政治への関心は薄いから、盛り上がっているとは言い難いが。

 この国も構造改革を先送りし続けていることで有名である。国民全体として、変化を嫌っており、日本とよく似ている。
 要するに、産業保護的な政策が支持され続けてきたのである。

 とはいえ、流石に、Schroder政権も、改革方針(“Agenda 2010”)を打ち出し、労働政策でも柔軟性を見せざるを得なくなった。(2003年12月には法案成立)
 そうでもしなければ、企業が競争力を失い、雇用維持どころではなくなるから当然といえよう。そのお陰で、どうやら企業の収益力が回復してきたというのが現時点の状況だろう。

 しかしながら、失業者は500万人を超え、惨憺たる状態だ。良くなる兆候も無い。

 ここまで悪化すれば、政権与党がいつ沈没してもおかしくない。そこで起死回生の総選挙に突入したのである。

 どこでも書いてあるが、政治状況をまとめておこう。

 与党は、SPD(1)と、Bundnis 90/Gruene(2)
 SPDは、古い産業都市で支持者が多い労働組合ベースの党。
 後者は、環境保護をモットーとし都市部で一定の支持層を持つGrueneと、教育水準が高い層に人気がある旧東ドイツ民主化の市民運動連合体Bundnis 90の合体勢力。

 一方、これに対抗するのが、非都市部で強く、東独出身のAngela Merkel党首が率いるCDU(3)/CSU(4)である。変わりつつあるとされるが、古い体質から脱皮する気がなさそうな党に映る。
 こちらは、お金持ちや旧インテリ層が支持するFDP(5)が連立相手となる。
 Grueneが登場するまでは、CDU/CSUとSPDの二大政党のどちらかと、小党FDPの連立が構図だったから、FDPがキャスティング・ヴォートを握っていた。
 (今回の選挙では、が過半数を制することができなかったが、流石にの 交通信号連立政権樹立は避けるようだ。)

 こうして書いて見ると、日本の状況とダブってくる。

 労働組合と市民運動などが渾然と集まった勢力 v.s. 伝統の資本主義政党と宗教色中道政党が協定する勢力、という構図なのである。
 この2つのグループが政権を巡って選挙戦を繰り広げるのである。

 このなかで、Grueneの人気が若干落ち、FDPの支持が拡大している流れはありそうだ。
 Grueneの停滞は、連立政権崩壊を嫌って、アフガニスタン派兵反対を表明していた議員がしかたなく法案に賛成したためとの話もきくが、もっと根深いものがあろう。
 9.11で社会情勢は一変したとの認識が広がっているし、失業だらけの状態だから、高邁な環境問題を進めている場合ではないということだろう。

 又、若年層はFDPの主張の方に魅力を感じると思う。キャリアに関心があり、成果主義を当然と見なし、自己責任で進もうと考えているからだ。
 もっとも、選挙結果を見る限り、この流れは見えてこないし、全体の状況を変えるようなものではなさそうだ。
 Grueneも、FDPも、特徴としては、経済停滞への危機感が薄いという点にありそうだ。

 ところで、日本とは大きく違うのが、政権争奪戦に関与できない政党の姿勢である。もちろん、左右の両勢力である。
  (尚、ドイツの制度では、議席獲得には、比例で5%以上か、3つ以上の選挙区を制覇の要件がある。)
  (大政党は比例が重要だが、5%到達が難しい政党は小選挙区での戦いが重要になる。)

 先ず右の方だが、日本では極右は裏社会と微妙に絡みあう存在で、どうなっているのかわかりづらく、異端のイメージが強い。最近は、選挙宣伝もしなくなったようだ。
 一方、ドイツでは、外国人排斥を訴え、一定の支持基盤を作り上げているようだ。

 左の方は、左翼[新]党(Linkspartei)。正真正銘の社会主義政権を目指す勢力である。

 この勢力は、SPD脱党組のWASG(代替)(6)とDie Linke.PDS(左翼党-民主社会党)(7)の連合体である。
 PDS(民主社会党)とは、言うまでもなく、東ドイツを支配していたSED(社会主義統一党)の力を継承している党だ。しかし、2002年の総選挙ではミニ政党の地位に陥り、一部の地方政治で力を持つだけの地位になってしまった。
 ところが、2005年、SPD党内左派のOskar Lafontaine蔵相が職を辞し、WASGの運動を進める。そして、比例で5%以上の得票を得るために、PDS陣営と手を組んだのである。
 改革路線が一歩も進まないから、Gerhard Schroder首相が左派を切り捨てた訳だが、実態は、政権延命のためのアピールともいえそうだ。失業者はさらに溢れかえり、社会には不満が溜まってしまった。

 Lafontaine側は、この流れを見て、左翼の合同を図り、この不満の渦に乗るべく動いているのだ。
 この展開が、一大波乱をもたらしている。

 見方によっては、西独社民勢力左派と東独旧共産党のご都合主義的な野合だが、両者が連合して主張が様変わりした。反グローバリズム勢力を集め、既存体制打倒に動いていると言ってよいだろう。既成政党はなにもできないと苛立つ大衆を引きつけようと過激な主張を繰り広げている。
 分かりやすく言えば、左翼との看板はつけているが、右翼とよく似たトーンで動いているのだ。

 まさに、ドイツの過去の歴史を彷彿させるような国粋的な流れだ。失業者が街に溢れ、リーダーシップが発揮できない政治状況が続けば、こうした流れが主流となりかねまい。

 今までは、ナチスの紐帯といえば、古い組織であるCDU/CSUの国粋的な臭いとされていたが、これが完全に吹きとんでしまった。

 要するに、不満が高まりつつあるのだ。(8)
 その一方で、できるなら、このままでいて欲しいと考える人が多いのが現実といえよう。労働組合の主張を聞かず、増税や医療費値上げを真っ正直に提起すれば、選挙での勝利はおぼつかないのだ。

 改革を避けたい人々を支持基盤に抱えている既存政党は、これでは、この先も改革には動けまい。主張や政策とは無関係に、数合わせで政権樹立を図り、適当なところでお茶を濁す政治が流行る訳だ。当然ながら、誰が政権を樹立したところで、たいしたことはできない。
 結局のところ、手詰まりで、連立崩壊に終わろう。
 その後は、・・・・。

 悪夢である。今後、何がおきてもおかしくない。

 そんなことを避けるには、抜本的な改革を急いで進めるしかない。この合意ができるかで将来が決まってしまうのではないか。
 ポイントは3点だと思う。
  ・Walfare to Work施策(雇用積極拡大型労働政策, 雇用維持ではなく新規雇用創出)
  ・税制の簡素化
  ・産業全体を研究開発志向に転換→註

 言うまでもないが、保護主義と反米政策からの転換は前提である。
 これなくして経済を立て直すアイデアがあるなら別だが。

 という訳で、ドイツ政治の動きから目が離せない。

 日本は親米で違うとはいえ、全体としては、ドイツと同じような道を歩んでいるとも言える。そこに、ドイツは、反面教師役として、絶好の題材を提供してくれたのである。
 これこそドイツ年の最大の意義と言えよう。

 --- 参照 ---
(1) ドイツ社会民主党 http://kampagne.spd.de/
(2) 緑の党 http://www.gruene.de/index.htm
(3) ドイツキリスト教民主同盟[Bayern州を除く全国政党] http://www.cdu.de/
(4) キリスト教社会同盟[Bayern州の地域政党]http://www.csu.de/
(5) 自由民主党 http://www.csu.de/
(6) http://www.w-asg.de/
(7) http://sozialisten.de/
(8) http://www.welt.de/z/wahlspezial/index.php
  Die Linke.はBerlin86・87区制覇の上, 比例で躍進. FDPは微増. 色分けは相変わらず.

 --- 註 ---
 2002年には、ベンチャー株式市場“Neuer Markt”が閉鎖された。制度の不備の問題ではない。保護主義的な国で、新興市場が栄える訳がなかろう。
 1997年〜2000年にかけてバイオベンチャーが雨後の筍のように登場したため、日本でも褒め称えていた人が多かったが、思った通り、完全な失敗に終わった。おそらく、ベンチャーキャピタルもドイツを見限っているだろう。その後、特段の新産業促進策も聞いたことがないから、ドイツでの起業は減る一方だろう。
 (そもそも、バイオハイテクベンチャーの、国内の一般労働者雇用増進への寄与など期待できる訳がない。何のための新興市場なのだろう。)
 尚、EUは研究開発費投入目標をGDPの3%に設定しているが、雇用や年金といった緊急課題があるから、財源をこちらに回すのは困難だと思われる。しかも、研究開発費の配分についても、緑の党が主張する重点分野からの変更も難しそうだ。バイオ研究の規制緩和も望み薄だから、この分野で先頭を走ることは無理と言わざるを得まい。


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