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2005.11.17
 
 


米国の方針転換はあるか…

 米軍の戦死者が2,000人を越えてから、米国のマスコにイラクへの関与に疑問をなげかける論調が増えている感じがする。
 憲法国民投票も済んだし、かつての独裁者を法で裁くこともできるようになった。こうなれば、何時撤退してもかまわない。どうせなら、早く意思決定した方がよい、といった感覚が生れているのではないか。

 大統領がイラクへの米軍駐留を続けると言明しているから、日本では、この辺りの報道が少ないが、流れを見誤らなければよいが。
 過去を見ると、米国政治はダイナミックに動く。今回も、突然変わり始めるかもしれない。よく注意すべきだと思う。

 先ずは、米軍がイラク駐留を続ける意味を、米国の立場に立って、冷静に分析して見る必要があろう。

 少なくとも、はっきりしているのは、米軍が駐留し続けたところで、テロ撲滅は進まないという点だ。

 これは、米軍特有の問題ではない。
 一般に、軍隊は、軍事勢力に対しては威力が発揮できるが、民衆とテロリストが区別できない状態になると、戒厳令を敷いた時を除き、ほとんど力は発揮できない。
 テロとまともに戦えるのは、生活基盤が自立している軍隊ではなく、民衆内で日々生活している人達からなる警察組織である。警察なら、民衆の反テロ意識に乗って、民衆の中で動けるから、テロと戦えるのだ。
 当然ながら、軍隊が警察官の教育を行っても、道具の使い方を教える以上のことはできない。行動原理が全く違うからである。

 要するに、イラク政権が、一部の勢力に権力奪取される可能性が薄いなら、米軍駐在の意味など無いのである。

 軍隊に限らない。米国政府は、現地を知らない人達が作った非効率な復興プランしか用意していなかった。米国が助力すると復興が促進されるとは思えまい。
 こんな状況では、イラクの石油資源を上手く利用することなど、望み薄と言わざるを得まい。

 とはいえ、米軍が撤退すれば、武装勢力が表立って登場したり、内戦が勃発する可能性は高い。連邦制が機能するとは思えない。従って、駐留やむなしとの考え方も一理あるとされる訳だ。

 しかし、永遠に駐留するつもりなら別だが、このリスクは独裁体制を壊せば必然的に生まれる類のものである。駐留が長いからといって、リスクが減ることには繋がらない。

 早い話、米国にとって、イラク戦争のメリットは何もなくなってしまった。せいぜいが、イスラエルへの脅威の源泉が消えた位のものだろう。
 米国は大失敗したのである。

 駐留を続けても、好転する可能性はない。ずるずると悪化するだろう。さりとて、撤退すれば混乱必至だ。

 このような時に、識者の発言を聞くと勉強になる。
 どちらの方針を採用したところで、展望が開けない時に、どのような意思決定をすべきかという観点で、論理展開を学ぶことができるからだ。

 特に、駐留継続論者の話は貴重である。
 現状追認で問題を先送りすれば、禍根を残すのがわかっていても、続けるべしという理屈を作るのはそう簡単ではない。論客はどのような論理を展開するのか、よく見ておくとよい。

 もっとも、こんなことより、米国政府の最近の動きを見て、じっくり考えることの方が重要ではある。米国が方針を転換し始めた感じを受けるからだ。

 例えば、北朝鮮問題でとった態度。

 これは、米国本土攻撃ミサイルの撤去確認さえできれば、後は、基本的に中国にまかせるという意味ではないのか。
 もしかすると、米国は、地域安定と称して、中国への武器輸出を始めるつもりかもしれない。

 独裁政権の民主化方針は、現実には混乱しかもたらさないから、米国政権に協力して適度にお茶を濁す対応がとれるなら、独裁政権であっても、喜んで支援するという方針に変わった印象を与える動きである。

 すでに、米国軍事産業は、2006年頃からの、市場縮小を見込んでいるようで、民間需要に対応できるように、注力分野を大きく変えつつある。

 保護主義者と軍事優先勢力は、胡錦涛主席の訪米を阻止し、さらに中国叩きにまで歩を進めたいようだが、ブッシュ政権は経済優先の現実主義へと舵を切り返すかもしれない。

 もっとも、そんな見方は無理筋かもしれない。

 米政府高官が次々と北京しても、安全保障とアジアに於ける勢力バランスを考えると、米中蜜月は簡単ではないというのが、一般的見方のようだ。
 ポピュリズム政治から逃れようがない仕組みの米国では、政治家にとっては中国叩きは避けられないのかもしれぬ。

参考になる意見としては、例えば・・・
Geoffrey Garrett:“Painting a bull's-eye on China hurts U.S.”LATimes October 16, 2005
 著者は president of the Pacific Council on International Policy,
  professor of international relations and business administration and law at USC
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-garrett16oct16,0,7864655.story?coll=la-news-comment-opinions

イラク撤退を考えておくべきとの意見・・・
Melvin R. Laird:“Iraq: Learning the Lessons of Vietnam” Foreign Affairs November/December 2005
 著者は ニクソン政権元国防長官
http://www.foreignaffairs.org/20051101faessay84604/melvin-r-laird/iraq-learning-the-lessons-of-vietnam.html


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