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2005.12.21
 
 


コーヒーから見える政治状況…

 ニューヨーク市場のコーヒー先物市場開設は1972年のことだが、最安値はポンド当たり42.50セント(2001年10月22日)である。
 当時、確か、生産コストは倍近いと言われていた。生産国は危機的状況に直面したのである。

 最近は、価格が持ち直してきたが、基本的に状況が変わった訳ではない。
 2005年9月には、ICO(International Coffee Organization(1))が国連総会にこの問題を提起(2)したが、解決の見通しは全く立っていない。

 グローバル化反対勢力が問題にする南の貧困化の典型例である。

 南の諸国は栽培するだけ、先進国は消費するだけ、という分化した構図。ここに自由市場のコンセプトを組み込むから、南で貧困が進む。米国はけしからんという論旨である。

 しかし、コーヒー協定の歴史(3)を良く見ると、大きな流れのなかで、そんな批判をしたところで、どうにもならない気がする。

 歴史の歯車がどのように動いているか、一寸眺めてみよう。
 もともと、ICOをつくり、1962年協定(1963.12.27〜1968.9.30)で価格安定を図った理由は単純だと思う。冷戦下で、ソ連圏の影響を削ぐために、中南米の国々の経済安定化を優先したにすぎない。

 農産物価格安定というより、米国主導で、コーヒー生産国への経済援助がなされたというのが実態だろう。

 ただ、この政策が奏功したとは思えない。
 この協定の非加入国から安価なコーヒーを輸入する協定破り業者が横行したからだ。つまり、社会主義国への資金援助役を果たした協定でもあった。
 一方、生産国の政権は、コーヒー貿易の利権で権力を支える仕組みをつくる。要するに、腐敗の構造ができあがる訳だ。

 そして、儲かる商品だから、生産国はこぞって生産能力を増強する。当然、需要と供給のバランスは崩れ始める。
 にもかかわらず、生産国は常に価格上昇を目指す。そのため、消費国の国内では、価格低下要求が高まる。南北対立は次第に深まることになる。

 とはいえ、1968年協定(1968.10.1〜1973.9.30)までは、なんとか体制は保てた。
 この間、ブラジルで大霜害が発生して価格が高騰したり、インフレによる国際価格上昇も加わり、価格は高止まりした。
 そのため、1973年協定からは、輸出割当制度が削除された。(1973.10.1〜1976.9.30)
 協定の骨格が崩壊し始めたのである。

 そして、1976年協定(1976.10.1〜1983.9.30)へと続く。1980年には「相場が高くなれば輸出割当制度を停止し、下がれば再導入する」割り当て制度が導入される。

 ところが、1983年協定(1983.10.1〜1989.9.30)の期間中に、価格水準が割り当て停止水準を越える事態を迎える。
 ついに、大暴騰である。
 当然ながら、暴騰を抑えるために、生産を増強するが 、その後、商品過剰になる。まさに、不安定な商品市況になってしまったのである。
 特に、1987年の大暴騰で、消費国は問題の深刻さを思い知らされた。

 この事態で、米国は、今までの体制を続ける気力を失ったと言えよう。
 生産国は市場シェア向上を図るし、消費国は価格低下圧力をかけるだけ、という解決の糸口なき状況に陥ったのである。
 その上、米国から見れば、コーヒー価格高騰とは、中南米の左翼政権や腐敗するカルテル組織の経済基盤を強化するだけの動きに映る。しかも、社会主義国から安価なコーヒーを輸入する業者を締め出せないのだから、まさに社会主義勢力援助のためのカルテルと断じたと言ってよい。価格高止まり協定を壊す必要がでてきた訳だ。
 ICO設立時とは、まさに全く逆方向である。

 そもそも、当時の最大関心事項は、米銀が抱える中南米の不良債権問題。しかも、主要債務国では、コーヒー産業に戦略的な重要性などない。

 簡単に言えば、暴騰を全く防げない上、社会主義国を援助している協定に、米国は意義を見出せなくなったのである。

 1989年、コーヒー貿易を統制する枠組みは消滅したと言ってよい。

 こんな状態で、ブラジルがシェアを高めるために、コーヒー産業の強化策をうつ。気候変動の影響を無くすと共に、生産能力を増強したのである。
 そして世銀のプロジェクトで、ベトナムもコーヒー生産能力を一気に高める。

コーヒー生産 [万袋](4)
1995/96年 2005/06年
ブラジル 157 342
ベトナム 39 117
コロンビア 129 117
インドネシア 64 75
世界計  881 1,116
 要するに、競争力があるコーヒー生産国は、ブラジル、ベトナム、コロンビア、インドネシアだけになったと言ってもよいだろう。
 先進国の産業なら、競争力なき企業は撤退するしかないが、ここではそのような動きは発生しない。弱体でも、売れるものはコーヒーしかない国が多いからである。といって、世界的な生産調整も難しい。貧国政府には資力が無いから現実的ではないし、生産国の利害は一致していないからだ。

 その上、消費は沈滞の方向だ。

 そんな折、アメリカが12年ぶりに国際コーヒー協定に復帰した。しかし、この産業は、すでに、生産国v.s.消費国という単純な対立構造ではない。

 生産国同士の対立は厳しいし、消費国同士も内部対立がある。とてもまとまる状況に無い。解決は期待薄と考えて方がよい。

 インスタントコーヒー分野では、成分や香の抽出技術は格段に進歩しており、安価な原料でも十分美味しいものが作れるようになった。
 購入側はリスクを避けるため、JIT型購入へと邁進している。(5)

 生産者のバーゲニングパワーは益々弱まっている。

 しかも、この状態で、商品市場に年金基金が入ってきた。分散投資を図る組織としては当然の動きだ。
 同時に、コーヒー産業に係る企業への株式投資も行うことになろう。
 株主からのプレッシャーで、企業は、さらなる利益追求へと進まざるを得ない。

 グローバル化反対勢力は、フェアトレード運動を繰り広げているが、まともに機能するのだろうか。
 現地は利権屋政治屋が支配する世界だし、その周りにはルール破りの貿易業者が群がっているのだ。彼らが、どうして、このような活動を許しているのか、考えた方がよい。

 世の中、単純に解決できる問題は少ない。錯綜しており、問題の本質を捉えて対処しないと、解決どころか、問題は深刻化しかねない。

 --- 参照 ---
(1) http://www.ico.org/
(2) http://dev.ico.org/electdocs/archives/cy2004-05/English/ed/ed1966e.pdf
(3) http://coffee.ajca.or.jp/siryo/11kyotei.htm
(4) http://coffee.ajca.or.jp/knew/knews248-1.htm
(5) http://coffee.ajca.or.jp/knew/knews187.htm


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