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2006.2.6
 
 


フランス政治の危険性…

 フランスの国旗は青、白、赤の縦三色旗(Tricolore)である。
 1789年の革命を率いたパリ市民軍の青と赤の帽章に、王家の白が加わったものだと言われている。その後、共和国憲法で人権宣言からの伝統を示す標語「自由、平等、博愛」が規定されたため、3色がこの言葉を示すとされたようだ。
 お陰で、三色旗は民主主義の守護神のように写るが、実体は、他国同様、民族主義を鼓舞するための象徴にすぎない。
 フランスは、美しい飾り言葉がお好きのようである。

 郊外団地で発生した暴動は、このフランス型民族主義の本質を見せることになった。

 団地は貧民の住居化しつつあるそうだ。
 ここは、もともとは、旧植民地から移住してきた工場労働者向けの大団地だったという。労働力不足を解決するために、お気軽な移民政策を進めたと言えなくもなさそうだ。
 ここだけ見れば、奏功した訳だが、時代が変わり、工場は消えていく。しかし、工場労働者が故国に戻ることはない上、2世人口が増える。といって、肌の色とアラブ系の名前ということで、職にもつけないから、福祉手当で暮らすしかなくなる。
 いかにも、既存の都会住民との交流がしにくい設定の団地だから、今後も、雇用は期待薄だろう。貧困からの脱出の機会が提供できるとは思えない。そんな環境では、人がすさんでくるのも無理からぬところだろう。

 しかし、フランス型民族主義の正当性を信じる人は多い。

 暴動が発生したところで、“フランスの同化政策という原則に変わりはありません。フランスでは国籍を取得した誰もが国民として、全て共通の権利を有すると考えます。ですが、宗教、民族、地域に関する特権は存在しません。つまり、マイノリティに特権を与える「多文化併存」を受け入れてはいないのです。” (1)

 要するに、人種や宗教にかかわらず、フランスの学校に通ってフランスの教育さえ受ければフランス人とみなすのが、フランス型民族主義の原点なのである。同化政策は金科玉条のごとく守り続けるべきものらしい。
 しかし、この“原則と現実の間には大きな隔たり”がある。
 まさしく完璧な理想論なのだ。わかっていても、この原則を崩すつもりはない。

 フランスのサッカーチームもこの原則を喧伝してきた。大勢のアフリカ人選手をチームに受け入れており、「黒、白、アラブ(Black, Blanc, Beur)」融合の成功例と主張しているのである。(2)

 だが、このような例では、成功か失敗かは全くわからない。一番の問題は、宗教の壁を突破できるかという点だからである。

 イスラム教人口は6%(3)とされている。約1割ということらしい。
 理屈では、100%信仰の自由が保証されるのだが、フランスの場合は、イスラム教信仰者は問題を孕む。簡単に言えば、フランス人としてではなく、イスラム独自の価値観で生活を続けているように映るからだ。
 イスラム教信仰者は、フランス伝統社会の考え方を理解する気がない、と言われかねないのである。

 そんな状態で、政府が雇用や福祉を提供しているのだから、移住者に対する不快感が広範に広がっている訳だ。

 そして、この暴動問題解決の方向が見えないうちに、デンマーク新聞が掲載した風刺画騒動が勃発した。イスラム政治勢力が係わってきたから、混乱が一気に拡大したのである。

 フランスは、革命以来、政教分離主義(Laicite)の大原則を貫いてきた。この原則を崩すものに対しては、伝統勢力は黙っていられない。ことは、単純な「表現の自由」を超えた大問題だからである。政教一致勢力に妥協する訳にはいかない。

 英米式の多民族同居路線なら、宗教や価値観の違いを容認できるが、フランス式ではそうはいかないのである。
 それは、スカーフ着用問題で沸騰した議論を見ればよくわかる。(4)

 この時は、スカーフ禁止措置批判を行った外部政治勢力に対して、フランス国内のイスラム教勢力が内政干渉との態度を示したから、どうやら民族国家としての体裁を維持できたが、一触即発になりかねない問題だった。

 今回も、同じだ。Le Mondeは風刺漫画掲載に踏み切らざるを得なかった。妥協できる訳がない。
 しかし、スカーフ問題のようには進まなかった。イスラム教の根本的なところを突いたからである。

 Annan国連事務総長が信仰尊重を呼びかけるのも無理はない。(5)
 ついに、世俗国家派と政教一致イスラム勢力の対立は、臨界点を超えたのである。

 国連が動くもの無理はない、経済のグローバル化と同時に、政治もグローバル化しているからだ。国外政治を活用して、政教一致イスラム勢力が国内政治で主導権を握ろうと図る傾向が顕著である。

 Le Mondeのスクープによると、イスラム原理主義派と見なせるフランス国内のモスクが相当な割合に達している。このような勢力に対して、世俗国家派が、どのように対応するかが問われ始めているのである。
 これは、フランスの国内問題に見えるが、世界の政治を変えるインパクトがありそうだ。

 ここで、一歩間違えると、最悪の道に進んでしまいかねない。

 イスラム原理主義の浸透を抑えようとする動きが、対立に火を放つ可能性が高いからである。破滅的結果に繋がる危険性さえある。
 イスラム教全体への宗教弾圧と見なされると、宗教間の全面対決になりかねないからだ。原理主義者がもくろんでいるシナリオである。
 しかも、この仕掛けは成功裏に進んでいるようだ。

 そして、こうしたイスラム原理主義者のシナリオを共有する、非イスラム勢力が存在している。
 ここが、フランスの一番の問題ではないだろうか。

 2002年には、ネオナチ候補が大統領決選投票に登場したが、次回は、その程度では収まらないかもしれない。
 それは、他国にも飛び火していく。

 普遍的な民族主義を掲げる理想論の政治は、偏狭な民族主義を勃興させるのである。

 --- 参照 ---
(1) Montferrand 駐日フランス大使のブログ「“多文化併存”は受け入れない」[2005-11-16]
  http://d.hatena.ne.jp/Montferrand/20051116
(2) 確かに、アフリカ系選手は多い。 http://www.lequipe.fr/Football/HOME_D1.html
(3) http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/france/data.html
(4) Dominique Vidal「イスラムのスカーフに対するヨーロッパ諸国の姿勢」Le Monde diplomatique 2004-2
  邦訳版 http://www.diplo.jp/articles04/0402.html (5) http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=17387&Cr=islam&Cr1=


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