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2006.3.8 |
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錯綜する社会の2極化論議…社会の2極化論争が仕掛けられているようだ。しかし、論議は錯綜しており、結構いい加減なものもある。そのため、政策論争の態をなしていない。 そもそも、経済が発展すれば、バブルも生まれるし、所得格差も広がるものだ。それが現実である。 良く引用されるジニ係数で見ても、1981年から一貫して上昇基調。ただ、1980年代は0.4以下だったから、どの頃は問題視されていなかっただけのことである。 もともと、人口がピラミッド構造の時代から、高齢層が重くのしかかる状況になれば、数字が大きく変わるのは当然である。 高齢者で、貧富の差が大きく出るのは、いかんともしがたいからだ。 もともとお金持ちの家系の人や、IPO長者、芸能・スポーツ関連は特別だが、それ以外のそこそこの小金持ちが結構増えている。絶対数ではそれほど大きいものではないが、増加基調になるのは間違いなかろう。 年収がサラリーマンの倍以上の専門的な職業も増えているし、成功した小企業のオーナーなら十分蓄えができる筈だ。 そこに、大企業のサラリーマン退職者が加わってきた。共働きで、すでにそこそこの貯金があり、これに、企業の退職金と遺産相続が加われば、すぐに億円を越す資産になる。(1) 日本に、アッパーミドルクラスができつつあるのだ。 一方、財産がなく、基礎年金以下の収入しかない退職者も確実に増える。こちらの生計はかなり苦しいと思う。特に、一人世帯だと大変だ。貧困状態と見なせる状態かもしれない。 この両者が増えるだけでも、2極化はかなり進む。 こうした貧富の差を解消したいなら、すべての年金を一元化して大胆に再配分するしか手はないだろう。 もともと、日本の、マクロでの再配分の問題は、票を多く持つ高齢者に手厚くする姿勢にある。過度だと思う。若年層がこの再配分の仕組みに耐え続けられるかは、はなはだ疑問だからである。 よく聞かされる話は、貯蓄を保有していない単身世帯が41.1%も生じているとのデータ(2)である。事実を指摘するのは結構だが、先ずは、高齢者の問題をどう考えるのか、はっきりさせて欲しいものである。 しかしながら、今、徹底的に議論すべきは、働く世代の問題だろう。こちらは、実態がよくつかめないからだ。 成熟化した社会では、2極化発生は避けられない。言うまでもなく、個人の意思決定に係わる話である。 例えば、勤労観が違う。 ▼そこそこ働いて生活が送れるならそれがベストだ。 △一生懸命働いて素敵な生活を実現したい。 そして、挑戦とリスクの考え方も対極的になる。 ▼安定してのんびりした生活が好きだ。 △新しいことに挑戦して富をつくりたい。 要は、価値観が多様化するのである。結構なことである。 しかしながら、それは富める社会だけに許される特権である。 忘れてはならないのは、経済を発展させるのは△派という点である。経済が不調で行方が見えない時に、▼派に闊歩されたのではたまったものではない。 経済の現状を考えると、△派が活動し易い仕組みを揃えるしかないのである。 とはいえ、雇用状況の実感から言えば、個人の意思決定というより、産業界の状況で、2極化が進んだと見るべきだろう。 労働市場を柔軟にしたから、20才代で大量の非正社員が生まれており、この層が低所得であるのはまぎれもない事実である。 しかし、日本は、他の道を取れるほど豊かで、経済も安定している訳ではない。 90年代は、雇用が縮小しかねない状況だったのである。高齢層優遇社会なのだから、非正社員化を避ければ経済はますます低迷することになる。柔軟な労働市場の確立なくしては、経済の牽引役たる企業が成長できる状況にはなかったのが実態だろう。 したがって、非正社員化を問題にしたところで、不毛な論争で終わりかねない。 問題をとらえかえす必要があろう。 例えば、△派になりたくても、その機会が少なくなる一方だとか、スキルを磨くための教育を受けたくてもできない、といった閉塞感が生まれていないか、に注意を払えばよいのである。 ところが、こうした議論は低調だ。 おそらく、2極化を憂える人に限って、現状維持派だったりするからだろう。 本当に挑戦を呼び込みたいなら、変化を喜びそうなものだが、そうではないのだ。本来なら、規制を撤廃し、公的機関の業務を民間に渡す施策を提起しそうなものだが、そんなことはまずない。既得権益を失い低落する層をつくりたくないのである。 安定して働く場を作り、真面目に働けば、楽に生活できるような仕組みにせよ、と主張するだけとも言える。 そんなことができるなら、誰も苦労しない。残念ながら、無理なのである。 よく考えれば、日本の一番の特徴とは、変化を嫌う地方の既得権益者を最恵待遇することにある。この人達に、都会で稼いだお金を再配分する仕組みが続いているのである。 こんなところが、2極化問題のポイントだろう。 但し、このような議論で無視されている点が一つある。本当の貧困層をどう救うかである。 ほとんど財政破綻状態のなかでは、社会保障費増額など無理である。その一方で、増税は消費税になる。低所得者はどんどん苦しくなる。反対したところで、経済原則を考えれば、無理筋である。 それではどうすべきか。 生活の基本コストを徹底的に下げるしかあるまい。そのためには、競争政策とカルテル打破に進むしかない。 しかし、この方向は、既得権益層の没落を意味するから、避けたい人だらけ。 2極化を憂えるのは結構だが、一体何をするつもりか、よく整理して議論して欲しい。 変な方向に進めば、経済低迷で皆の生活が苦しくなりかねない。そして、一番苦しむのは底辺の人達である。 --- 参照 --- (1) http://www.nri.co.jp/publicity/n_letter/2005/pdf/nl20051001.pdf (2) 金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」[2005-11-2] http://www.saveinfo.or.jp/kinyu/yoron/2005/yoron05.pdf 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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