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2006.5.23
 
 


ラテンアメリカの胎動をどう見るか…

 2006年5月15日、エクアドル(Pakacio大統領)の軍隊が国内産油施設を接収した。(1)
 ベネズェラが米国への禁輸を図った際には、代替輸出をして米国との友好関係維持を図った国であるが、そんな態度をとっていられなくなったようである。
 要するに、国営化して、政府が収益の過半を握るということである。

 南米第2位の天然ガス埋蔵量のボリビア(Evo Morales大統領)が天然ガスの国有化を宣言したばかりだが、Morales人気沸騰を見て、急いで動かざるを得なくなったのかもしれない。

 こうした動きを見て、これで米国の横暴な姿勢が変わらざるを得ないと考える人もいるようだし、ブッシュ政権を嫌う人は拍手喝采らしいが、そんな単純な問題ではないと思う。
 事態は悪い方向に進む可能性が高いのではないかとさえ思う。

 ラテンアメリカの一番の問題は、世界の債務の約3分の1がここに集中していることにある。投資側の意向に反する動きをすれば、経済は混迷する可能性が高い。
 今回のボリビアでの国有化にしても、EUとブラジルは新規投資を中止した。天然ガスの採掘・輸送には巨大な設備への継続投資が必要であり、こうした動きがどのような影響を与えるか、よく考えるべきだと思う。大衆の耳目を集める人気取り的な方針でなければよいが。

 そもそも、この地域の発展が難しいのは、地下資源を除けば、産業基盤がモノカルチャー型の農業であり、産品によっては米国農業と競争になりかねない点にある。実際、メキシコは、フリー貿易化で、安価な米国産農産品が流入し多数の農民が路頭に迷うことになった。そうなる前に、競争力ある農業に変える必要があるのだが、どの国でも、それは一大社会変革を要する。とても手がつけられないのが実情である。

 従って、素人からすれば、国有化政策は、政権維持の人気取り政策に映るのだが、NewYork Timesに掲載されたのは、WILLIAM POWERSの、ボリビアの国有化を支持する論説だった。(2)
 お蔭で、大いに考えさせられた。

 そもそも、民営化は憲法違反であるとして、選挙を戦って当選したのだから、国有化は正当な行為との主張である。
 資源は外国に奪われ、IMFによる経済立て直しも失敗し、貧困は益々増えているのが現実だ。これを突破する施策を、との国民的合意ができており問題はないという訳だ。
 そして、天然ガス産業への投資についても、利益を確約しているから、国有化で混乱は発生しないと読む。

 確かに、理屈でいえば、その通りかもしれぬが、そんなシナリオが成り立つ気がしない。

 米国は、ラテンアメリカにとっては最大の輸出相手であり、良好な関係無しには経済は上手く回るまい。貧困解消のためには、米国の市場開放と、米国からの支援が不可欠だろう。
 エネルギー価格高騰による収入増だけで、なんとかなるとは思えない。

 しかし、Morales大統領型の動きは、ラテンアメリカでは、広がる一方である。

 良く知られるように、先鞭をつけたのは、ベネズェラのChavez大統領。米国への禁輸を振りかざしたり、ラテンアメリカに天然ガスを供給するとの方針を打ち出し、この地域のリーダーになろうとしているようだ。
 資源輸出だけで国内経済が上手く回る訳はないと思うが、こうした大衆受けする方針がこの地域に広まりつつある。

 この6月には、ペルーでHumala大統領候補の当選が予想される。
 当選すれば、資源の国家管理とFTA見直しに進むのは間違いあるまい。

 そして、7月には、メキシコでもObrador大統領候補が当選する可能性もある。

 要するに、ラテンアメリカは「反ブッシュ」に衣替え中なのである。

 しかし、注意すべきは、この流れの根底に、ナショナリズム運動があるという点である。
 これと一線を画す感じがするのが、アルゼンチンのKirchner大統領とブラジルのLula da Silva大統領。IMFの自由貿易路線には乗らず、発展途上国の発展モデルを模索しているように映る。前者は先進国に嫌われているようだが、後者はそれなりに方針は理解されているようだ。

 ともあれ、ナショナリズム勃興に対しては、どの国もナショナリズムで対応せざるを得なくなる。そうなればグローバル経済は一気に縮小することになろう。その時の最大の被害者とは発展途上国の貧困層である。

 危険な動きが始まっていると言わざるを得まい。

 --- 参照 ---
(1) http://www.cnn.co.jp/business/CNN200605160010.html
(2) WILLIAM POWERS: “All Smoke, No Fire in Bolivia”NewYorkTimes [2006.5.6]
(著作) WILLIAM POWERS: 「Whispering in the Giant's Ear: A Frontline Chronicle from Bolivia’s War on Globalization.」Bloomsbury USA [2006.5][ISBN:1596911034]
http://www.amazon.com/gp/product/1596911034/qid=1147822596/ref=br_lf_b_3/104-3297561-6364724?n=17155&s=books&v=glance

 --- BBC Mundo インタビュー(スペイン語) “Tres visiones de un cambio” ---
Noam Chomsky, Otto Reich[ブッシュ大統領顧問/西半球担当国務次官補の経験者], Eduardo Galeano[ウルグアイの作家]
http://www0.bbc.co.uk/spanish/specials/1342_giro_a_la_izq./


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