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2006.8.6
 
 


止めようがないイスラエルの戦争…

 先日、ABC NIGHTLINE(NKHの録画放送)を視聴していたら、Evangelical 系集会でのインタビューが流れた。(1)

 イスラエル-ヒズボラの戦闘が本格戦争の火蓋を切り、ユダヤ教もイスラム教といった対立がない世界が来る、といったトーンの発言が続く。
 イスラエルの戦線拡大こそ、ヨハネ黙示録の救世主再臨につながる“最終戦争”を意味すると、感激している様子が映しだされた。いよいよ、千年王国が実現すると、期待が膨らんでいるようだ。

 そのまま引用すれば・・・
 “What is happening in Israel today with their neighbors is prophesied in the Bible.
  The whole world should understand the reason for the conflict in the Middle East,”
 “we know that we pray for peace,
  but we also know that peace probably won't happen until Jesus comes again.”

 う〜む。

 これを見ていると、親ユダヤの伝統から、イスラエルを支持している訳ではないことがよくわかる。

 米国内のユダヤ系勢力は、多分、イスラエルの戦線拡大を一番恐れている。もともと、イスラエル移住など考えていないから、ヒズボラを適度に叩いて、早く停戦して欲しい筈だ。  世界的に、反ユダヤの動きでも発生したら一大事だからである。
 リアリズムに徹すれば、そうならざるを得ないと思う。

 そもそも、膨大な人口のイスラム教徒が住む地域のただなかに、ぽつんと異教徒の小人口の国家が存立できる筈はない。圧倒的な軍事力で、生き抜くしかないのは明らかである。平和共存など、もともと理想論でしかない。
 従って、軍事的な脅威は、早いうちに摘み取り、国際社会を巻き込んで、戦闘を沈静化させて、見かけの平穏をつくりだして欲しい筈だ。イスラエルは、イスラム圏全体から敵視されないように考えて、立ち回ってくれということだ。

 ところが、こんな考え方が、まったく通用しなくなったようである。

 おそらく、“和平に向けた外交努力がうまくいかないのは、アメリカがイスラエルの戦争遂行に賛成し続けているから”ではない。
 この戦争は、米国の戦争でもあるのだ。イスラエルは米国の代理にすぎない。米国にとって、イスラエルの存亡など本題ではなく、一番の課題は、ヒズボラ潰しである。ヒズボラ潰し無くして“平和”無しとの考え方と言ってよいだろう。

 米国は、どうして、ここまで変わったのか、考えて見る必要がありそうだ。

 それには、社会の底流で、evangelicalism が力を持って来た理由を考えるとよさそうだ。

 ちょっと考えてみよう。

 米国では、宗教は日々の生活に組み込まれている。過半の人は、教会での礼拝に参列する習慣を守り続けている。
 ベトナム反戦運動華やかで、ヒッピーが謳歌していた時も、同じことだ。ヒッピー文化など、米国退潮の元と考えた人が大多数の社会であるのは間違いない。
 ただ、昔は、米国のEvangelical は、もっぱら田舎で支持されている宗教と言われていた。と言っても、全米最多とされてはいたが。
 Evangelical と言っても、様々な宗派があるそうだが(2)、“born again”/信仰復興運動を通じて、教派の違いを越え、着々と支持者を増やしていったようだ。

 2005年のTIME誌の特集記事がその影響力の大きさを物語る。
 “American evangelicalism seems to defy unity, let alone hierarchy.”(3)ということ。
 しかも、Bush 大統領の宗教観はEvangelical の“born again”に近い。(4)

 このことは、“悲惨な戦争を止めよ”型で米国に迫ると、状況は悪化しかねないということでもある。
 “evangelicalism”式発想で見れば、対処療法的な戦闘停止は、悲惨な戦争を長引かせる元凶に映るからだ。千年王国を標榜するスターリン主義国家、ソ連に対峙していた時代とは、状況が違うのである。

 米国は移民国家だ。将来を見据えた、国としての存在意義は不可欠である。
 そして、そのようなものとして、9.11以後は、対テロリスト戦争に邁進することにした。これは、建前ではない。決めたことは、必ず実現のために、奮闘する国である。

 米国は、ヒズボラもハマスも、テロリスト組織と認定した。
 テロリストと戦争を繰り広げると決めた国が、イスラエルの対ヒズボラ戦闘を抑える道理などあり得まい。

 ・・・と思っていたら、米仏が安保理に停戦決議案を提出するとのニュースが流れた。
 戦闘が始まったのが、7月12日(水)だから、4週間目で、ようやく、決議にこぎつけることになる。
 しかし、内容(5)を見ると、ヒズボラ武装解除の完全履行を掲げており、イスラエルの自衛的作戦による反撃は容認するというもの。
 ヒズボラは国家ではない。この組織が諦めない限り、この戦争が終わることはあるまい。

 --- 参照 ---
(1) JAKE TAPPER and DAN MORRIS: “Save Israel, for Jesus?” ABC NIGHTLINE [2006.7.31]
  “Evangelical Christians Rally Support, Lobby Washington With Biblical Motivation”
  http://abcnews.go.com/Nightline/story?id=2258864&page=1
(2) Richard Quebedeaux:「現代福音派の主要な潮流」
  http://www.aguro.jp/file/e/eth41.htm
(3) David Van Biema: “The 25 Most Influential Evangelicals in America”TIME Magazine [2005.2.7]
  http://www.time.com/time/covers/1101050207/photoessay/
(4) Alan Cooperman: “Openly Religious, to a Point  Bush Leaves the Specifics of His Faith to Speculation”Washingtonpost [2004.9.16]
  http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A24634-2004Sep15?language=printer
(5) 「米仏が国連安保理に提出したレバノン停戦決議案要旨」 産経新聞 [2006.8.6]
  http://www.sankei.co.jp/news/060806/kok042.htm


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