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2006.9.20
 
 


Al-Qaedaの失敗…

 インターネットのお蔭で、個人のポケットマネー程度で世界中のメディアに目を通すことができるようになった。これで、世界情勢に関して、洞察力が高まると思っていたが、日本語サイトを見ていると、逆方向に進んでいるようだ。
 同じような主張が文字通り五万。たまに違った意見に見えても、表現が違うだけだったりする。じっくり考えるのは面倒で面白くないから、皆と同じ単純な話をして盛り上がることが愉しいのかも知れぬ。
 インターネットは、知的貧困を進める効果もありそうだ。

 一例をあげて説明しておこう。
 Bush 大統領を独裁者のように扱う論調は驚くほど多い。単独行動主義に対する風刺としては、面白いが、将来どうなるか考えるのに役に立ちそうなものは稀。
 騎士道物語を読み過ぎ、現実と物語の区別がつかなくなり、世の中の不正を正す戦いを始めるドンキホーテ型発想に近いものも少なくない。

 典型は、9.11はBush 政権自ら仕掛けた可能性もゼロではなく、Al-Qaedaという組織も本当に存在しているのか疑問と言う類。
 こうした見方が生まれるのは、反Bush で凝り固まっているからではない。Al-Qaedaが何を考えているか、アラブはどう対応しているのか、全く分析しようとしない、怠惰な点にあると思う。
 イカレタ大統領が世界を大混乱に陥れていると主張するだけでは、思考停止状態に近い。これでは、世界の流れを読むどころではない。

 どうしてこうなるかといえば、説明し易い事象を集めて意見を述べるからである。Bush 政権の単独行動主義は簡潔明瞭。独善的な行動がおこした問題など、いくらでも集めることができる。
 しかも、9.11以降の米国の戦争は、今までの戦争の範疇に当てはまらないものだ。米国政府は、テロ攻撃を受け、手を拱いて見ている訳にはいかないから、テロ勢力に対して“攻撃的”な行動を起こさざるを得ない。当然、ジュネーブ条約適応外の戦争になる。ならず者米国という批判は、ここだけ見れば当たっている。
 早い話、米国政府は、国の後ろ盾が無いテロ攻撃が世界を揺るがすとは考えておらず、予防も怠っていたし、打ち手も用意していなかったということ。泥縄式な対応しかできなければ、こうなるという見本だ。

 Bush 政権のこうした動きについては、様々な情報が得られるのに対し、Al-Qaeda に関する情報はいたって少ない。アラブ通の解説もわざとわかりにくくしているようなものが多い。そこで、Al-Qaeda を反米民族抵抗運動の一種と“適当に”位置づけてしまう人が多いようだ。思考回路としては最低の部類に属すが、情報が無いのだから、それ以外にどうしようもないようだ。

 Bush 政権が、何故、そんな姿勢をとらざるを得ないのか、どうすると変えることができそうか、多少でも示唆してくれればよいのだが。

 ・・・と批判しても、こちらもたいした内容を提供できる訳でもないが。

 ともあれ、Al-Qaeda をどう見るか、素人でもわかることをまとめてみた方が余程役に立つと思う。情報が欠乏しているから、正しいかどうかはわからない。だが、冷静にリアリズムに徹して眺めると、こうも読めるという程度のものなら書ける。

 先に、結論を言おう。
 結局のところ、Al-Qaeda の動きは失敗に終わった。
 但し、世界のパワーバランスを変えるきっかけを提供したから、世界規模の地殻変動は避けられそうにない。

 このポイントは、Al-Qaeda の狙い目が米国打倒ではないという点。

 Al-Qaeda の発祥はアフガニスタンのイスラム義勇兵。(傭兵ではない。)ところが、不思議なことに、この義勇兵をアラブの政府は支援しない。ここが肝要な点である。
 どう見ても、反政府勢力になりかねない国内のBest and the Brightest を厄介払いしたのだ。
 つまり、Al-Qaeda とは、土着の原理主義勢力とは全く違うのである。戦略的に考えることができ、米国流の合理主義を身に着けたグローバルに活動できる勢力なのだ。

 この情報だけで、Al-Qaeda の目標が想定できるではないか。
 打倒したいのは米国ではなく、アラブの現政権である。米国の傘の下で栄華を誇るイスラム穏健派と呼ばれる政権と、ナセル時代から連綿と続く、社会主義的な民族派独裁軍事政権を、民衆の力で倒したいのだ。そのために何をすべきか考え抜いたのだと思う。
 Best and the Brightest であるから視野は広いし、米国社会やその政治構造も理解しており、先を読む能力は優れている筈だ。

 従って、テロで米国を没落させることができるとは思わないだろうが、自爆テロで世界を変えるシナリオを描いたに違いない。・・・米国など、原住民の土地を奪い、数百年かかって覇権をとったにすぎないし、イスラエルに至っては、2000年かかってなんとか国を作っだけ。
 イスラムよ、立ち上がれ、と考えたに違いあるまい。

 当然ながら、3ステップの戦略展開を仕掛けることになろう。
 (1) イスラムは負け犬ではなく、立ち上がれば勝てるとの気分を盛り上げる。
 (2) 穏健派政権を支えている米国を、アラブ現地のゲリラ戦に引き込む。
 (3) 反米抗争を広く立ち上げ、この過程でアラブの現政権を打倒する。

 最初の観点からいえば、覇権国が右往左往したり、手がおえないから撤退するシーンを民衆に見せつけることが一番効果的といえよう。
 Al-Qaeda は、ここでは大成功を収めた。米国の諜報機関の支援のもと、アフガニスタンでソ連軍と戦ったBest and the Brightest 達である。米国の動き方の手の内を知り尽くしているから、官僚的巨大組織より一枚上手だったといえよう。
 先ずは、大使館や基地への派手な自爆テロである。数人の決死隊の攻撃で、米国を撤退させることができれば大成功である。米国はこんな程度の弱い存在であることを民衆に知らしめたいだけのこと。おそらく、こうしたテロを金融商品と結びつけ、闘争資金捻出作戦も成功裏に進めたに違いあるまい。

 次が、9.11。
 これは、2番目の目標のための行動だ。
 テロ情報は入っていたのに、Bush 政権は無視したという説があるが、あり得そうな話だ。Al-Qaeda 側に立って考えればその理由がわかる。似たようなテロのガセネタを膨大に流して、諜報機関を疲弊させてから、本番に移るのである。
 結局のところ、このテロで、Bush 政権は、Al-Qaeda のシナリオ通りにアラブで戦争を始めざるを得なくなった。そうなれば、“Al-Qaeda の挑発には受けて立つ”姿勢を見せるしかない。
 “強い米国”を打ち出さなければ、アラブ穏健派政権が揺らぎかねないからである。

 ここまでは、Al-Qaeda の思う壷だったが、3番目の、アラブ現政権打倒の動きは今のところ発生していない。Al-Qaeda の戦略は外れたのである。

 もっとも、その思想的影響力は拡大基調のようだから、Al-Qaeda を真似た組織が次々と現れる可能性は高そうである。ただ、そうした分散型の組織が権力を握ることは無かろう。イランのような、反Al-Qaeda ・反米国家がこの風潮に乗って勢力を伸ばすことになりそうだ。
 おそらく、一番影響を被っているのは、社会主義的な軍事独裁政権だろう。軍はエリート集団でもあり、Al-Qaeda が一定の力を発揮できた経緯を眺めているから、原理主義的な動きに乗る勢力が登場してもおかしくない。内部崩壊するかも知れない。
 そして、欧米は、国内で生まれるAl-Qaeda 戦士のテロに益々悩まされることになる。移民国にとって、内部からの反逆を抑えるのは至難の業だろう。

 ともあれ、アラブに直接関与せざるを得ない米国は大変である。
 “米国弱し”とアラブの民衆に思わせてはならないから、撤退はしたくない。と言って、高額な戦費にかかわらず、なんの戦果も得られないどころか、人的損失だけが膨らんでいく戦争をいつまでも続ける力は無い。米国は、地域紛争から一切手を引くかも知れない。
 地域紛争勃発時代の到来である。


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