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2007.3.7
 
 


2020年シナリオの読み方

 米国のNational Intelligence Councilが、2020年の世界予測シナリオを公表したのが2005年年頭。(1)
 素人でもわかるような、4つのシナリオが提示されていた。

 (1) “Davos World”
     グローバル化がさらに進むが、その副作用も発生する。
 (2) “Pax Americana”
     アジアや他の新興勢力のパワーが米国一極体制を揺るがす。
     老齢化とエネルギー需要増大もパワーバランスを変える要因になる。
 (3) “A New Caliphate”
     西欧型民主主義に対抗した、イスラム教的なアイデンティティーが打ち出される。
     そして、既存統治の仕組みが揺らぐ。
 (4) “Cycle of fear”
     テロリズムが国境を越えて浸透する。
     内部矛盾の拡大に乗じて、暴力がまかり通り、安全が脅かされる。

 それでは、現在、どうなっているのか。
 ということで、National Intelligence Councilを牽引していたJoseph Nye教授がポイントをまとめてくれた。(2)

 世界を動かす力を3つ考えろということだ。

 1つ目は、中国が急速に力を持つようになった点。
 上海株の動きが日本の株価に大きな影響を与えたという現実が物語るように、すでに、その力は日本経済を揺さぶるまでになっている。この国が国内を上手く治めることができるかは、国内問題で留まらないということ。中国内政問題で、世界の進む方向が大きく変わりかねないのだ。

 中国が、大国として、世界の安定化に寄与すべく、それなりの役割を担うようになれば、世界は穏やかに多極化に向かうことになるだろうが、どう見ても、これは希望的観測でしかない。
 と言うのは、中国国内の現実を直視すれば、そんな方向に進むことが簡単とは言い難いからだ。政治的な自由へ向けた動きが発生したり、経済の歪が大きくなりすぎれば、治めきれなくなるだろう。もし、そんな兆候が現れたら、どうなるか。国をまとめるにはナショナリズムを煽って、矛盾を外部に転化するしかあるまい。こうなる可能性は低いとは言い難い。暴力的な対外政策への転換は有り得ない訳ではなかろう。

 2つ目は、イスラム教国の、国内での世俗主義と原理主義の対立。先進国のイスラム教国への対応が、現在の主流派である世俗派の強化に繋がるなら安定化するが、これも希望的観測の域を出ない。イスラムと非イスラムの文化的対立を煽り、欧米との戦乱を梃子にして、世俗派の打倒を狙う少数勢力が存在するからだ。過激派が政権を打倒する可能性は低い訳ではない。そんな流れが始まれば、世界のエネルギー源である中東全域が、グローバル経済圏の枠外になるかも知れない。

 3つ目は、米国の政策。世界最強の軍事力を持つ米国が、どのような姿勢で中国とイスラム教国に臨むかで、これらの国々の安定性は大きく影響を受ける。

 換言すれば、日本、欧州、ロシアは老齢化が進むから、影響力は小さいということである。
 しかも、日欧露の利害は相反することが多いから、同盟化もあり得ない。従って、世界を動かす大きな力にはなり得ない訳だ。

 日常生活の視点から眺めれば、2020年は遠いように思えるかも知れないが、世界の流れを考えるなら、すぐそこだ。
 このような見方が妥当と考えるなら、それを踏まえて動くしかあるまい。

 要するに、中国の政権、イスラム教国の世俗勢力、米国が協調しながら、“Davos World”と“Pax Americana”の融合の道を目指すしかあるまい。“A New Caliphate”と“Cycle of fear”を合体させたような、破綻の道に踏み込まないように注意しながら歩むということ。こちらの道は、下手をすれば大規模破壊兵器が使用されしかねない。
 そんな話が現実化されたら、たまったものではない。

 従って、日本の“国益”と称している動きが、世界安定への流れに乗っているのか、流れを阻害していないか、考えながら進む必要があろう。
 視野の狭い政治家が発する心地よい言葉や、マスコミの扇情的なキャンペーンに踊らされないことが肝要だと思う。

 少なくとも、日本は、技術革新や環境対応では世界に大きな貢献を果たしているのだから、この力を世界安定の方向に向かうように誘導していく必要があろう。

 ただ、忘れてならないのは、インフルエンザへの対応。
 インドネシア政府が検体非提供に踏み切ったお蔭で、ようやく方針が議論され始めた状況でしかなく、お寒い限り。(3)ヒトからヒトへの空気感染が始まり、罹患者が出始めたら、国境閉鎖が行なわれるのは間違いない。そうなれば、一瞬にして世界経済は麻痺してしまう。
 世界繁栄のシナリオどころではない。
 問題は、これが杞憂とは言い難い点にある。

 --- 参照 ---
(1) “MAPPING THE GLOBAL FUTURE: REPORT OF THE NATIONAL INTELLIGENCE COUNCIL'S 2020 PROJECT”
  http://www.foia.cia.gov/2020/2020.pdf
(2) Joseph Nye: “The long view on China, political Islam and American power” Financial Times [2007.2.15]
  有料 http://www.ft.com/cms/s/00863494-bd3e-11db-b5bd-0000779e2340.html
(3) http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2007/s02/en/index.html


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