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2007.3.26
 
 


中国の組織を考える

 全国人民代表大会は憲法に規定されている最高国権機関。中国共産党の一党独裁体制を保つための制度でもある。
 ただ、独裁と言っても、2007年3月の第10期大会では、議論内容を、できる限り公開する方針をとっている。

 議論の焦点は、長期的に続いた経済急成長の結果発生した諸問題。
 特に、国内での社会問題がきびしいとの認識が深まっているようだ。今のところ。経済低迷の兆候などなく、好調と言えそうだが、余りの社会格差で、大衆に不満が鬱積してきたということだろう。
 もともと、貧農層を基盤として、“鉄砲”で政権を樹立した歴史を持つのが共産党だから、この層が動き始めると軍が黙ってはいないだろう。

 主要課題は6つにまとまるようだ。
  ・環境汚染
  ・資源枯渇
  ・セフティネットの欠如
  ・医療体制不備
  ・教育体制不備
  ・離職(土地喪失)農民大量発生

 そのため、胡錦涛政権は、穏やかな成長率の均衡成長を目指して、社会の不均衡是正を進めることとした。
 私的土地所有制発足、課税廃止など、農民優遇策でなんとか乗り切ろうとの目論見だ。

 その一方で、メディア規制は徹底強化するつもりのようだ。政治的安定性を損なう動きは断固として排除するということだ。経済は競争政策だが、政治は非競争政策続行することになる。
 そんなことが可能なのか、疑問はわくが。

 何故、そう考えるか。
 組織とはどう動くのか、学んでいるビジネスマンならすぐわかる筈。

 中国は、共産党独裁でも、かつてのソ連邦の仕組みとはちがう。党員の評価が「経済成長実現」の視点で行われているからである。
 地方政府で経済成長に成功すれば、党中央から抜擢され、次々と力をふるう場が与えられる。エンジニアと称する胡錦涛主席の履歴が示す通りだ。

 そのため、末端の共産党員は、資金を集中化し、外資を呼び寄せ、経済競争を繰り広げているのである。官僚、軍人、大学教授、を始め、共産党配下のすべての人々が、経済発展を目指して動いている。

 この流れを、利己的な権力願望や拝金主義の高まりと見なしたり、本気で国のために尽くそうとしている人が減ってしまった、と考える人もいるようだが、そんな視点は避けるべきだ。

 何故かと言えば、解決の糸口が見えなくなるからである。
 利他的になろう。拝金主義を捨てよ。お国のために。・・・などと語ったところで、変わる筈がないからだ。

 それでは、どのような観点でこの問題をとらえるべきか。

 実は、至極簡単である。

 組織のなかで、人々がどのように動いているか、リアリズムに徹して眺めればよい。
 これが、組織マネジメントの原点である。

 組織要員は、どんな報酬を求めて仕事をしているのか。
 そして、それを与えるリーダーは誰で、何を基準にして報酬を与えるのか、ということ。

 このやり方が上手くいっている時はよいが、まずい方向に向かうと是正は難しい。マネジメントのプロでないと、悪循環から抜け出せないし、下手な改革を進めれば、組織は瓦解しかねない。
 お分かりだと思うが、抜本的に変えるなら、リーダーが変わるか、求めている報酬の中味を変えるか、評価の基準を変えるか、しかないからだ。
 どれを試みても、革命的な変化が必要となるが、今回の全国人民代表大会の方針とは、基準だけを変えようというもの。
 要するに、“上層部による抜擢”という報酬制度と、“共産党における階位”がリーダーをあらわすとの、決まりごとは絶対に変えないで、なんとかしようというのである。

 このような方策を展開すると、先ずは、中央の統制を無視する動きがポロポロと発生することになる。これを抑えるために、強権を発動すると隠蔽が始まる。それを許さず、さらに方針を貫徹すれば、組織分裂。経済発展至上主義者が勝手に動き始めるのだ。
 そもそも、バランスがとれた起業家などいる訳がない。企業家精神とは、社会の多様化の流れでもあるから、一枚岩の“共産党における階位”は無視されかねないのが現実。

 中国の場合、末端組織が競争して経済発展に注力することで、経済発展のダイナミズムが生まれていた。資本主義の真髄でもある“企業家精神”による経済発展を 、別な仕組みで実現したと見ることもできよう。
 しかし、独裁型組織には、大衆の要求に応える仕掛けは無い。そこで“企業家精神”を抑えるような基準を導入すれば、当然のことながら組織はガタつくということ。

 これが企業の問題なら、経営者のお手並み拝見でよいかも知れぬが、そうはいかない。厄介である。
 正当であろうがなかろうが、大衆の動きは力で抑えることになるからだ。

 中国共産党の指導者は、市場同様、政治の世界に競争を呼び込むことは間違いと考えているから、これからが大変だ。

 --- 追記 ---
表面的には転回点
 ・外国投資優遇措置の廃止
 ・個人所有権の保護
何をすべきか・・・
 ・消費経済へ向かう土台構築
  - 労働分配率向上
  - 農村経済の立て直し
 ・輸出主導経済からの脱却
  - 製造業への一般的優遇政策廃止
   + マクロで見ると製造業の資本効率は低下一途
   + 製造業が技術を梃子とした生産性向上を目指す段階に達すると雇用増大は無理
  - サービス業振興

 --- 参考 ---
第10期全国人民代表大会 温家宝総理の政府活動報告 要旨(1〜6)
  http://j.peopledaily.com.cn/2007/03/06/jp20070306_68471.html
  http://j.peopledaily.com.cn/2007/03/06/jp20070306_68482.html
  http://j.peopledaily.com.cn/2007/03/06/jp20070306_68490.html
  http://j.peopledaily.com.cn/2007/03/06/jp20070306_68492.html
  http://j.peopledaily.com.cn/2007/03/06/jp20070306_68502.html
  http://j.peopledaily.com.cn/2007/03/07/jp20070307_68516.html

 --- 組織を考えるためのテキスト ---
Peter Scott-Morgan: “The Unwritten Rule of the Game” McGrow-Hill 1994 [邦訳絶版]


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