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2007.4.23
 
 


保険金不払いは政治の問題

 「各社は、商品内容から保険金の請求手続き、支払い体制までを徹底的に見直すべきだ。」(1)
 2007年4月15日の社説である。
 「顧客を軽視した不払いが続くようであれば結局は消費者の信用を失うことを肝に銘じ、信頼回復に全力を挙げてほしい。」(2)というものもある。
 なかには、「金融庁はこの際、不払いなどを繰り返す保険会社に対しては課徴金を課すなどの措置を検討すべき」(3)という一罰百戒的な意見もあるが、表現の差という感じがする。

 要するに、保険会社に対して、「けしからんことをするな!」「二度とこんなことがないようにせよ!」ということ。

 う〜む。

 そういう問題だろうか。
 少し整理してみよう。

 先ず第一の問題は、告知義務違反を理由にした「不払い」。
 告知義務違反のルールは、もともとはっきりしていない。恣意的に判断できそうだ。
 そんな条項に関しては、保険会社は違反摘発を仕事にしているプロが担当する。一方、契約者は何の知識も持た無い。問題が発生すれば、どうなるかは、わかりきったこと。グレーな状況なら、契約者が得することはあり得まい。これは、当初からわかっていたこと。
 誰が見ても不正な不払い行為は、糾せば無くなるだろうが、グレーな契約が無くなる訳ではない。線引きをはっきりさせれば、保険会社から保険加入を断われる人が増えるだけのこと。これでは、本来の保険の意義は薄れてしまうかも知れない。
 それに、厄介なのは、生命保険の商売が、保険勧誘員の強引な営業活動で成り立ってきたという点。勧誘された経験があれば、顧客と勧誘員の間のコミュニケーション内容はだいたい想像がつく。不正が発生することもあろう。(4)
 グレーな問題を取り扱う場としては最悪。
 なにせ、投資商品を販売する銀行窓口や低コスト運営も可能なインターネットと比較すれば、訪問販売は、とてつもない高コストだからだ。コスト競争力を欠く状況下で、「ご指導」に真面目に従っていて、食べていけるだろうか。

 第二の問題は、不備な契約を締結させた結果に基づく「不払い」。
 簡単に言えば、さっぱりわからぬ商品を買わされたということ。そもそも、複雑な内容の保険商品は少なくない。しかも商品の数も膨大。こんな状況で、契約者がリスクを理解できる訳がなかろう。
 一方、営業はノルマと歩合で動いている。契約者が不利益を被らないように対処する方法を、営業がこと細かにアドバイスせよなど、現実からかけ離れた話だ。契約に当たっての、重要事項説明はすでに義務化されている。例えば、「徹底的に見直せ」と言われたところで、何を見直せばよいのだろう。

 そもそも、なんだかわからぬ商品を購入させられたと主張する契約者が多すぎる。わからないなら、購入すべきではない。
 しかし、そうならないから、不払い問題が錯綜してしまうのである。

 例えば、官民あげて地震保険契約運動が進められている。それも、東京で。勧められれば、それだけで購入する人がいるようだ。こんな人がいるから問題が発生するのだ。
 もしも、東京で大地震が発生したら、とんでもない規模の災害になることは間違いなかろう。再保険や国家支援程度で、保険支払い可能か疑問が湧く。従って、加入時には、超大規模災害時の支払額減免条項を確認しておく必要があろう。これが、契約者側の当たり前の態度だと思う。
 ところが、こんな確認は当たり前ではないのが実情らしい。洪水の定義を確認しないで、洪水時に備え、損害保険を契約した事業者がいたそうである。そして、定義にあてはまらない洪水被害を受け、保証金が受け取れなかったことを不満げに語るのだ。しかし、それは契約としては当然に映る。
 そういうと怒る人がいるようだが、現在の保険市場を見れば、契約に細心の注意を払う必要があるのは、自明である。まさか、生命保険市場を知らない訳ではあるまい。

 なにせ、購入メリットが自明ではない生命保険商品が平然と売られているのだ。前納割引付生命保険のことである。若いうちに、60才加入の保険料金を一括前納する商品。若い人は、その時点の安価な保険料金で加入すればよいと思うが。それを、わざわざ高齢時の高価な保険料を先に払って、どこにメリットがあるのか、はなはだ理解しがたい。
 又、途中解約を前提としていそうな商品もよく見かける。解約時点を間違うと大損することになりそうだ。
 こんな類の商品が、膨大な商品のなかに含まれている。素人判断で購入できる状況とは言い難い。こんな市場に素人が手を出せば、損をするのは当たり前だと思うのだが。

 こんなことを知っていながら、保険会社に「徹底的に見直せ」と言ったところで、たいした効果はなかろう。場当たり的な新商品導入を促進する仕組みが続く限り、わかり易い商品が生まれる訳がない。

 さて、第三の問題に移ろう。特約の支払い漏れの「不払い」。
 保険会社の主張は単純。契約者が請求しなかったから、支払っていないというもの。主契約と特約は別な契約であり、それぞれ請求する必要があるということ。それは、その通りだろう。
 ただ、その仕組みを利用して、保険会社が主契約を支払っただけで、未請求の特約部分を未払いにしたということのようだ。保険会社は、請求を忘れている契約者に通知すべきだということだろうか。

 さて、だらだら書いてきたが、これらは表面的な話である。
 保険会社の違法行為は許すべきでないのは当然のことだが、その元凶は政治である。

 なんだかわからない商品が並ぶのは、保険産業保護行政を続けてきた結果にすぎない。市場開放を避けるため、特定商品を特定企業に認可するとの、恐ろしく歪んだ仕組みを取り入れてしまったから、こうなるのである。商品を規定する枠組みはあまりに雑で、実質的に商品開発ルールなど無いに等しい。従って、一商品毎に検討するしかない。こんなことを何時まで続けるつもりなのだろう。
 しかし、改革は難しい。保険業振興「補助金」が絡んでくるからだ。言うまでもないが、保険への課税ルールの話である。
 そもそも、保険と投資を一緒にした商品ばかりで、保険支払いのどの部分が事業費用に該当するのかは曖昧。その上、支払い方法が複雑ときているから、何時の費用にあたるのかもはっきりしない。
 と言うより、こうした曖昧性を活用して、契約者に税法上のメリットが出そうな商品を開発するのだから、はなから不明瞭なのは当然である。

 先ずは、ここを整理しない限り、どうにもならない。
 不払い問題解決のためには、この整理を始めざるを得ないということである。

 ただ、保険産業保護行政が引き起こした問題は、これだけではない。経営悪化企業をただただ生き延びさせる政策がまかり通ってきたため、業界再編がさっぱり進まないのだ。そのため、破綻企業がでて、契約者は大損させられることになる。

 すでに、保険会社の格差拡大は歴然。しかし、業界再編の動きは聞かない。このことは、注意信号が灯っているということではないのか。
 一般に、経営が苦しくなり始めると、なんとしても生き延びようと動くのが会社組織の宿命。危う橋も渡りかねないし、粉飾が発生することさえある。不払い行為がその兆候でなければよいのだが。

 --- 参照 ---
(1) http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070414ig90.htm
(2) http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20070415.html
(3) http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2007041402008586.html
(4) http://www.fsa.go.jp/news/newsj/17/hoken/20060621-1.html


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