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2007.5.14
 
 


日米関係の変化

 米国務省が2007年4月30日、「Country Reports on Terrorism 2006」(1)を発表。しばらく日本のマスコミを賑わした。
 以下の2点を強調した報道が多かった感じがする。
 ・キューバ、イラン、シリア、北朝鮮、スーダンが引き続きテロ支援国として指定された。
 ・北朝鮮については簡素な記述になった。

 そこで、原文を見ると・・・
「The Democratic People's Republic of Korea (DPRK) was not known to have sponsored any terrorist acts since the bombing of a Korean Airlines flight in 1987. The DPRK continued to harbor four Japanese Red Army members who participated in a jet hijacking in 1970. The Japanese government continued to seek a full accounting of the fate of the 12 Japanese nationals believed to have been abducted by DPRK state entities; five such abductees have been repatriated to Japan since 2002. In the February 13, 2007 Initial Actions Agreement, the United States agreed to "begin the process of removing the designation of the DPRK as a state-sponsor of terrorism."」

 まとめれば、単純。
1 北朝鮮は1987年以降はテロ支援はしていない。
2 北朝鮮をテロ支援国家に指定する根拠は2つだけ。
  ・1970年の日本赤軍による航空機ハイジャックの犯人を保護している。
  ・日本人拉致に関して、日本政府が真相追求活動を行なっている。
    (“believed” to have been abducted by DPRK)
3 米国はテロ支援国指定解除の手続きを開始した。

 この「根拠」記載内容こそが、この報告の一番のポイントである。
 そもそも、よど号ハイジャク事件では、日本政府が北朝鮮に対して謝意を示したのである。なにせ、ハイジャッカーの要求に応えて、よど号は、韓国から北朝鮮へ飛んだのである。こんなことができたのは、日本政府が必死になって頼んだから。
 このことを頬かむりして、今になって、テロリスト保護は許せぬと北朝鮮に言えるか、と米国に指摘されそう。
 そして、象徴的なのは、日本以外の国々の拉致問題は全く記載されていない点。日本以外では拉致疑惑は認識されていないということ。
 しかも、日本人拉致にしても、“believed”であり、米国政府が事実とみなしている訳ではなさそうだ。当事者ではないから、事実関係はよくわからぬとの態度表明と言えよう。

 Urbancic調整官のブリーフィング(2)を読むと、米国の基本姿勢がよくわかる。
 北朝鮮の最高権力者が、リビア同様に、テロと核の放棄宣言をすれば、即時、指定解除になるということ。すでに、そこまで話は進んでいるということ。
 米国と中国は、朝鮮半島非核化方針について基本的合意が済んでおり、宣言に向かっての土壌作りが進んでいるということのようだ。
 拉致は、日本と北朝鮮間の問題になった訳だ。
 言葉には出さないが、日本がこの問題をひっこめないと、北朝鮮が核・テロ放棄宣言ができないと言わんばかりの表現である。
 おそらく、次のステップでは、米・中・ロ・韓が、拉致問題は棚上げせよと、日本政府を説得し始めるのだろう。
 今後は、戦術的に北朝鮮への圧力を加えることはあっても、対決路線に戻ることは無さそうである。

 Christopher Hill 東アジア・太平洋担当国務次官補の対話路線と、安倍首相の対決路線は、日米両政府による緊密な連絡に基づく役割分担ではなく、はなから両国のスタンスが違っていたということだ。

 日米首脳会談にもそんな雰囲気が見てとれる。
 “We talked about the fact that our alliance・・・”(3)なのだ。日米同盟のFACTを話しただけであり、将来ビジョンを話す状況にはなかった。現状認識について、ひとつひとつ確認したということかも知れない。
 安部首相が、Bush大統領に対して懸念を表明したのかも知れない。
 Brad Glosserman(Executive Director, Pacific Forum CSIS)が指摘(4)するように、日本政府は、Bush政権の北朝鮮政策や米印核協力方針を見て、米国の核の傘を信用しなくなってきたようだ。
 小泉政権時代は、トップ同士での“意気投合”で、横たわっていた問題を隠蔽していたが、安部政権にバトンタッチされ、不信感が噴出したとも言えよう。
 それも無理はない。国家安全保障会議(NSC)から、実質的な対日窓口でもあったJ. D. Crouch大統領副補佐官が去るし、Victor D. Cha日本・朝鮮担当補佐官も消えるなど、交渉失敗の引責でなければ、大転換の兆候と考えるのは当たり前。
 それに、「慰安婦」問題も、アジアでは騒がれず、米国議会で問題になっている。いかにも、日本との取引材料として浮上させた臭い芬々。

 しかし、ここで不信感を表明すれば、早晩、相手も同様な状況に陥る。厄介な問題である。
 Bush政権は、安部政権が集団的自衛権是認・憲法九条撤廃への取り組みを、米国との駆け引きに使っていると見なすかも知れない。

 互いに取引材料を持ち出し、有利な立場で交渉を進めるのは、外交の常套手段だが、現段階では危険なやり方だ。もし道を踏み外すと、元に戻れなくなりかねないからである。

 そんな危惧の念を抱かせたのが、安部首相による、訪米直前の米国向発言。(5)
 “ I believe the Japan-U.S. alliance is the only indispensable alliance, and I'd like to use my visit to further strengthen this relationship. ”
 日本から見れば、当然の発言ではあるが、米国にしてみれば、安部政権に何を期待するだろうか。ここが肝心なところだ。

 う〜む。

 同盟関係の意義の説明が、米国の視点では余りに希薄すぎる。
 日本の国益にとって、日米同盟は不可欠。従って、批判は、甘んじて受け入れますから、同盟強化を是非お願いします、と呼びかけた、と読めないこともない。
 言うまでもないが、米国が、そんな話に乗る筈がない。
 それに、米国が、日本政府のアイデアを取り入れ、日米同盟機軸で世界の安全保障体制構築を考えているとも思えない。なにせ、国連安全保障理事会の常任理事国入り支持が集まらないのだから、日本の力を当てにする必要などなかろう。
 しかも、任期切れが来るBush政権にしてみれば、早く朝鮮問題を解決したいというのが本音。日本は、その逆を行く。

 米国は、冷戦終結後は、原油供給地域と経済成長のエンジンとしての北東アジアを重視してきた。両地域の安定は最優先課題。
 従って、日米同盟の評価は、これにプラスに働いているかで決まることになろう。
 “自衛隊海外派兵”や、“憲法改定”も、この流れに沿っていれば歓迎。もし、マイナスなら、米国を利用したとの反感を呼ぶことになる。

 と言うことは、今回の日米首脳会談は、従来型日米関係の終焉を確認する場だったのかも知れない。

 --- 参照 ---
(1) http://www.state.gov/s/ct/rls/crt/2006/82736.htm
(2) http://www.state.gov/s/ct/rls/rm/07/83999.htm
(3) http://www.whitehouse.gov/news/releases/2007/04/20070427
(4) Brad Glosserman: “Nuclear Basics for the Alliance” @Institute of Global Communications [2007.4.20]
  http://www.glocom.org/debates/20070420_gloss_nuclear/
(5) Lally Weymouth: “ A Conversation With Shinzo Abe” Washingtonpost [2007.4.22]


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