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2007.5.29 |
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中東大乱は防げるか
2007年版“Leaders & Revolutionaries”から、米英仏のお馴染みの政治家の名前がリストから消えた。 今や、米国と、中国、インド、ドイツのリーダーが世界を動かしていると見ているようだ。 一方、世界不安定化の元凶となりそうな国々は勢ぞろいと言いたいところだが、Kim Jong Il(北朝鮮)の名前は無い。米国にはたいした影響は無いということのようだ。 東アジアでは、朝鮮半島の核への心配より、北京五輪への期待が大きいのである。 そして、宗教界からは、教皇と大主教。宗教が政治でも指導的役割を果たすべきとの主張が強まっているようだ。 国内政治家のゾロゾロ状態も特筆もの。混乱を象徴していると言えそうだ。 このことは、世界の動向より、国内政治の方に関心が向いていることを物語るのかも知れぬ。 しかし、現大統領がlame duck 化したのだけは、明白。 なにせ、2006年末に行われたAP-AOL調査でも、2006年の最悪villain はPresident George W. Bush。なんと、Osama Bin Laden を凌駕したのである。(2) ここまでくると、リーダーシップ発揮どころではなかろう。 米国の海外への関心という点では、どうもイスラエルのLivni外相/副首相(3)が注目されているようだ。もともと、米国にはイスラエルとの一心同体感があるから、レバノン停戦を実現して、人気が上がっているのかも知れない。 Livni外相は、2007年1月18日に来日しているが(4)、外相就任後、世界の首脳との会談に精力的に飛び回っている。(5)国際社会がイスラエル周辺の穏健派を支援し、過激派の力を削ぐための助力を、訴え回っているように映る。もちろん、後者にウエイトがおかれている。 これは、一見、和平活動活発化に受け取られがちだが、和平から遠ざかる結果しか生み出しかねない動きである。 状況をまとめてみれば、そう考えざるを得ないのだ。 アラブの穏健派とは、宗教原理主義国家サウジアラビアのように、権力を維持するために、対外的に“穏健”姿勢を示している勢力にすぎない。その内実は“強硬”な警察国家。民主主義の価値観と一致する点などなにもない。 過激派の主張は概ね以下のようなものだが、穏健派も思想的には大同小異。 ・イスラム圏衰微の元凶は米国とシオニストである。 ・世俗主義とは米国とシオニストの文化である。 ・民主主義はイスラム信仰とは相容れない。 ・先ずは、非イスラム教徒に奪われた土地を奪還する戦いに立ち上がれ。 今のところは力量不足だから、あえて“立ち上がらない”し、対立すると潰されかねないから“欧米との親密な交流”を怠らないということ。過激派の思想を真っ向から否定している訳ではない。宗教上、聖戦は否定しようがないから当然である。 見方を変えれば、国内での権力闘争で優位に立つための、“穏健”ということ。 国が裕福なら、反主流派も“穏健”で主流派と戦うとこだろうが、経済的に自立できない国では、そんなことは不可能。反主流を続ければ、地域の貧困化一途はわかりきっているから、反主流派は過激派の武力を利用して、政権を揺さぶり実を取ることになる。 従って、穏健派を援助しても、反主流派地域での過激派浸透を抑える効果は期待できない。過激派が力を蓄えすぎ、これはまずいということで、過激派に一撃を加えれば、その地域の大規模難民化を招くだけ。 そうなっても、穏健派政権が対処できる力はないから、社会は益々不安定化する。 これがアラブの実態だと思う。 真の穏健勢力を増やすためには、穏健派への援助ではなく、雇用を生む援助を行うしかない。経済繁栄なくして安定化など無理である。これは、もちろん、理想論だが、それ以外の方策は一時的な沈静化しか期待できない。 例えば、ヨルダン渓谷(土地は平坦だが、水争いの地域)に、高付加価値農業拠点を構築するといった類の提案(6)が必要ということ。イスラエルに実質閉鎖されている状況だから、残念ながら、現実性は無いが。 経済から始めない限り、平和の実現などあり得まい。 イスラエルが続けてきた施策は、どう見たところで、これとは正反対。 過激派によるテロが発生すれば、報復として、その地域のインフラを破壊する。お蔭で、周辺のアラブ経済は滅茶苦茶。 もっとも、これは、難民化による、領土拡大策と見ることもできる。この観点では、イスラエルにとっては、過激派伸張は望むところかも知れぬ。 過激派にとっても、勢力伸張になるから、この状況を甘んじて受け入れてきたのだと思われる。お蔭で、微妙なバランスが続いているだけのことだろう。 しかし、そのバランスがついに崩れた。 ヒズボラがイスラエルとの戦争で事実上勝利したからだ。これにより、ヒズボラはイスラエル全域をミサイル攻撃できる体制を、レバノン南部に構築できるようになった。 イスラエルがこの状態を放置し続けるとは思えない。ヒズボラもそんなことは百も承知だから、先ずは、レバノン国内の反ヒズボラ勢力を叩くことに力を注ぐことになろう。 一方、パレ スチナでは、選挙で、ハマスへの住民支持が明白になった。こうなれば、ハマスは、サラミ戦術的に“穏健派”の力を奪うことに注力する筈。 ここで厄介なのは、単なる権力闘争なのだが、欧州からの支援で生きるしかない勢力と、住民の支持を受けている組織の対立というイメージができあがってしまった点。 このため、ここで先進国が“穏健派”を支援すれば、内戦勃発だろう。どちらが有利かは言うまでもない。 すでに、ハマスもヒズボラも内戦覚悟に違いない。 そして、イスラエルも、内戦化でヒズボラのミサイル攻撃体制構築が遅れれば結構という姿勢をとるだろう。 中東大乱を引き起こしかねない動きだ。これを止めるには、サウジアラビアがお金の力で両者を鎮めるしかないだろう。 宗教原理主義国元首の力量次第である。 King Abdullahこそ、世界政治を動かすリーダーと言えそうだ。 --- 参照 --- (1) “The TIME 100”Time [2007年5月14日] http://www.time.com/time/specials/2007/time100/ (2) “AP-AOL News Poll Reveals: America Perplexed by George W. Bush”[2007.1.2] http://www.itsasurvey.com/artman2/publish/political/AP-AOL_News_Poll_Reveals_America_Perplexed_by_George_W_Bush.shtml (3) http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/middle_east/6615687.stm (4) http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/israel/visit/0701_gh.html (5) “Q& A: Tzipi Livni, Israeli Foreign Minister 'There Will Be Two States'”Washington Post [2006.1.22] http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/01/21/AR2006012100102.html (6) 麻生外務大臣演説 「わたしの考える中東政策」中東調査会・特別講演会 [2007.2.28] http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/19/easo_0228.html (参考) Bernard Rougier: 「スンニ派イスラム主義諸勢力はヒズボラをどう見ているか」ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2007年1月号 http://www.diplo.jp/articles07/0701-5.html Akiva Eldar: 「イスラエルは真の民主国家なのか?」ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2006年12月号 http://www.diplo.jp/articles06/0612.html Olivier Roy: “Moyen-Orient : empecher la jonction des forces radicales et extremistes” Le Figaro [2006.8.12] http://www.lefigaro.fr/debats/20060812.FIG000000439_moyen_orient_empecher_la_jonction_des_forces_radicales_et_extremistes.html 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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