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2007.7.19
 
 


保護主義に対抗できるか

 “ニューディール政策”が必要との論文(ウエブで6ページ) がForeign Affairs誌に掲載された。(1)

 ついに、ここまできたか、という感じがする。

 富める者が、さらに富を増やす傾向は、米国では1990年代から顕著だった。ただ、輸入商品の高品質・低価格化の流れも同時に進んだから、消費好きの米国人にとっては、豊かさの実感もあったのではなかろうか。
 しかも、賃金の低い職業人口が伸びただけとはいえ、旺盛な雇用状況が続いた。
 この状態なら、格差は広がっているとの指摘があっても、耳を傾ける人は少なかったと思う。

 ところが、21世紀に入り、態度が変わってきたようだ。
 と言うのは、生活のレベルダウン感が広がりつつあるからだ。

 ここまでくると、チャレンジ型を標榜する米国社会は変わらざるを得ないだろう。底辺に無力感が漂う状況を避けるには、動かざるを得まい。

 もともと、社会階層移動が進んでいるかという観点で見ると、米国は英国と並んで、欧米のなかでは最低レベル。(2)
 要するに、貧しいと、教育チャンスに恵まれないので、いつまでも貧しいままということ。ただ、米国では、そんな実態を覆すような成功逸話が沢山あるから、閉塞感は少ないが。

 しかし、そんな文化が通用するのは、経済全体が好調で、大多数が恩恵を感じているからにすぎない。自分にチャンスが無くても、チャンスを生かせた人がいて、生活も悪くなる方向に動いていなければ、住みやすい社会とみなすのは自然なこと。

 ところが、この前提が崩れてきた。
 大部分の労働者の賃金が下がり続けているからだ。2000年から2005年にかけて収入が増加した労働者は、教育を受けたほんの一部。全体の4%未満らしい。
 全体の3割弱を占める大卒者と非プロ系修士修了者の収入が低下しているのだ。これは、厄介な問題だ。
 大卒を、第二次世界大戦後の6%から、現在の33%へと増やし、さらに50%を目指して動いているが、この施策が色褪せたということを意味するからだ。

 こうなると、当然ながら、犯人探しが始まる。
 その結果、まず間違いなく、反グローバル化運動が盛んになってくる。米国での、保護主義の台頭は避けられまい。

 経済のグローバル化無くしては繁栄どころではないと、頭でわかっていても、不満のはけ口はそこしかないから致し方ないのである。

 従って、“ニューディール政策”が必要というのが、この論文の肝。
 主張の核心は、社会保障・医療費負担の仕組みを変えることにある。
 ・・・A New Deal for globalization would combine further trade
   and investment liberalization with eliminating the full payroll tax
   for all workers earning below the national median.

 極めて実現が難しそうな政策だが、それほどの政策大転換が必要になったのである。

 貧困から抜け出すための場を提供できないなら、政府がまともに役割を果たしていないと見なされると言うことである。

 よく考えれば、これは、先進国だけの問題ではない。アフリカの貧困問題でも同じことが言えそうだ。
 よく耳にする主張は、経済のグローバル化こそ貧困の根源だから、保護が必要というもの。
 実に単純だ。だが、それだからこそ政治運動に合う。保護によって、独占的な利潤が得やすくなる危険性を指摘する主張は消し去られ、ともかく反グローバリズムで動くのである。
 そして、援助だ。さらに、教育振興。流れは決まっている。

 現実を知る人は、そんなものが役に立たないことは百も承知。
 腐敗した現地組織が関与すれば、末端に届く援助など微々たるもの。しかも、汚職だらけで、貧困地帯はギャングが横行。独裁政権に対しては内乱で応える仕組みができあがっている。
 とても教育どころではない。

 そもそも、警察機能が弱体で、貧困層は治安機構の埒外におかれている。そこで力を発揮できるのは、麻薬・売春業をとりしきるギャング。貧困から抜け出す一番の道は、ギャングの一員になることしかないのである。
 働いても働いても、貧困から抜け出せないことがわかっているから、ギャング志望者が無くなることはない。
 その道を避けたいと思っても、どうにもならない。
 ただ、例外がある。独自の生活基盤を持つ組織に入ることである。言うまでもないが、軍隊。国軍、私兵、反乱軍、テロリスト部隊、どれも同じ。ともかく食べれれるし、組織に忠誠を誓えば、組織内で昇進することも可能。ここには、貧困階層から脱出のチャンスがある訳だ。
 そして内乱が続く。

 こんなことは、わかっている話。
 新しい政治なくしては解決しがたいということ。

 難しそうだが、可能性はあると見る人もいる。  虐殺発生国ルワンダのPaul Kagame大統領の貧困の源に関する見方に曙光を見い出したのである。
  I'm hesitant to talk about the issue of culture,
  but I have to - and we have to work on it - that culture of hard work,
  that culture of being ambitious and wanting to achieve,
  I believe that those values were in Africans,
  but I don't know what dampened it - what killed it.
  We're not going to say “We don't need aid,”
  But there's no question about trade being more important than aid.
  There's no question about that.

 その通り。
 グローバルな競争に打ち勝つために、知恵の限りに、一生懸命働くしか、解決の道などある筈がないのだ。

 つくづく思う。
 まともな指導者を選びたいものである。

 --- 参照 ---
(1) Kenneth F. Scheve & Matthew J. Slaughter: “A New Deal for Globalization” From Foreign Affairs 2007-July/Aug.
  http://www.foreignaffairs.org/20070701faessay86403/kenneth-f-scheve-matthew-j-slaughter/a-new-deal-for-globalization.html
(2) “Inrergenearational Mobility in Europe and North America” Sutton Trust [2005.4]
  http://www.suttontrust.com/reports/IntergenerationalMobility.pdf
(3) NICHOLAS D. KRISTOF: “”Africa: Land of Hope”New York Times [2007.7.5]
(アフリカについてはNewYorkTimesの日曜版ブックレビューがわかり易い.)  「The Least Among Us 」
  対象: Paul Collier: “THE BOTTOM BILLION Why the Poorest Countries Are Failing and What Can Be Done About It.”
  http://www.nytimes.com/2007/07/01/books/review/Ferguson-t.html?
  pagewanted=1&ei=5070&en=ba2ae9028ebd6ee7&ex=1184212800


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