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2007.9.14
 
 


後継首相は自明

 突然の安倍首相辞意表明で、政治家は右往左往したようだ。

 公明党 北側一雄幹事長が「率直に申し上げて、なぜこの時期に辞意表明なのかということについては、連立のパートナーであるわれわれとしても、非常に理解しがたいところがある」と発言する位で、“健康不安も辞意表明の一因だったのかもしれない”とされている。(1)

 一方、政治記者は、15日発売の「週刊現代」が掲載するといわれる金銭スキャンダルも浮上してくるし、APEC疲れが溜まり、「この体力では国会を乗り切れない。」と考えたと見ているようだ。(2)
 一般的には、“内閣改造後も閣僚辞任などがあり、政権浮揚は困難と判断したとみられる。”とされているようだが。(3)
 ただ、一番正直な反応は、“This is not bushido. This is chicken.”とのヘッジファンドの声だ。(4)首相の会見内容を、文字通り受け取ればそう考えるのは当然だと思える。

 しかし、そんな問題だろうか。
 リアリズムに徹すれば、辞任して当然だと思えるのだが。

 外交帰りで疲れがでていたというのは、確かだろう。演説原稿を読み飛ばす位だから。
 しかし、そんなことで辞める筈はなかろう。
 どっと疲れが出たのは、日本の「価値観」を力を込めて主張し続けたにもかかわらず、他国の首脳には、ほとんどわかってもらえなかったことに気付いたからではないか。
 特に、米国から相手にされていないことに、唖然となり、努力が徒労だったことを思い知らされ、決断に至ったとしか思えないのだが。

 ともかく、首脳外交で精神的に昂揚したのは間違いなかろう。自衛隊のインド洋派遣を「国際公約」とし、全力でテロ対策特別措置法の延長実現をはかると言い出した位だ。
 安倍政権の「価値観」を米国政権が理解してくれたと誤解したのではないかと思う。
 おそらく、日米豪インドシンガポールの軍事訓練実現の意義の再確認を行った筈で、疲労感はあったろうが、これで、日本は独自の地位を築けたと、満足感に浸っていた可能性が高い。

 それに冷や水を浴びせかけたのは、9月12日に流れたニュースだ。(4)
 Alexander Vershbow米国駐韓大使が、“I think that it (a summit) might be possible before the end of President Bush's term if North Korea makes the right decisions and is ready to go all the way, not just disablement but full denuclearization.”と語ったのである。

 なんと、Bush・金会談が実現するというのだ。

 この発言の読み方は色々ある。
 しかし、どう見ても、米中露韓は、北朝鮮が核廃絶に向け動いていると判断している。上手く進めば、平和条約締結に進むというシナリオを共有していることは間違いない。この動きに反対する勢力も少なくないから、紆余曲折は予想されるが、大筋は決まったと見てよさそうである。
 米国は、この先10〜20年、中国と緊密な友好関係を保ちたいのである。海外紙を見ていれば、中間選挙後、そちらに舵を切ったのは、明白だと思う。そのなかで、早期の朝鮮半島安定化は不可欠なシナリオなのだ。
 このことは、米中の狭間で上手く立ち回るシナリオは、北朝鮮にはなくなったということでもある。北朝鮮は巨大国家中国に飲み込まる脅威にさらされ始めるから、金政権が米国に支援要請を行うのは時間の問題だった。
 要するに、Bush・金会談の設定を始める状況まで、話は煮詰まってきたということ。

 つまり、APEC首脳外交では、安倍首相を除外したままで、朝鮮半島問題で合意が形成されてしまったということ。
 それが見えてしまったのは、BushとRohの両大統領の会合後記者会見。
 "I might be wrong. I think I did not hear President Bush mention a declaration to end the Korean War just now," Roh said through an interpreter. "Did you say so, President Bush?"
 Roh pressed on: "If you could be a little bit clearer," he said, prompting an annoyed look from Bush.(5)

 Bush大統領は、何も言わなかったが、枠組みはすでにできたということのようだ。その内容は、Roh大統領から、詳細に北朝鮮に伝えられる。
 次回の6ヶ国協議では、北朝鮮が赤軍メンバー日本送還を提案することになるのかも知れない。中露韓は、それを地域安定への大きな一歩として大歓迎するというシナリオである。周辺諸国すべてが非テロ国家と認定するなら、米国はテロ国家リストからの北朝鮮除外に踏み切ると応える筈。しかし、安倍政権の「価値観」ではこれを受け入れることはできまい。

 政治生命を賭して、インド洋への自衛隊派遣を実現しても、米国は、安倍政権の唯一のよりどころである「価値観」を無視することがはっきりしてしまったのである。
 と言って、6ヶ国協議を頓挫させ、同盟国 米国と決裂する訳にはいくまい。

 展望喪失である。
 いくら考えたところで、安倍首相にとって道は一つしかなかろう。

 要するに、Bush政権は、口には出さなかったが、安倍退陣を望んでいたのである。安倍首相はこのことに気付くのが遅すぎた。

 米国は、後継首相にしても、安倍型「価値観」や、中国との対立を煽りかねない民族主義を継承されると、大いにこまるのである。
 米国にとって望ましい後継首相は自明である。
 しかし、自民党がその意を汲むかは自明ではない。

 --- 参照 ---
(1) “理解しがたい突然の首相辞意” 公明新聞 [2007年9月13日]
  http://www.komei.or.jp/news/2007/0913/9626.html
(2) “体力の限界 突然の決断” 読売新聞 [2007年9月13日]
  http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe5600/fe_070913_01.htm?from=os1
(3) “安倍首相、辞任へ・緊急会見「政策の遂行困難」” 日経ネット [2007年9月12日]
  http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070912NTE2INK0712092007.html
(4) David Pilling[Tokyo]: “Abe exit plunges LDP into turmoil” Financial Times [2007年9月12日]
  http://www.ft.com/cms/s/0/bcdbe080-60e5-11dc-8ec0-0000779fd2ac.html
(4) Jack Kim[Reuters]: “Bush-Kim Jong-il summit possible next year: envoy” Washington Post [2007.9.11]
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/09/11/AR2007091102684.html
(5) [AP通信] “Bush: U.S. Will Call End to Korean War When North Stops Nuclear Pursuits” FOX News Network [2007.9.7]
  http://www.foxnews.com/story/0,2933,296028,00.html
(参考) Alexander Vershbow駐韓米国大使 + Lee Tae-sik韓国大使:
  “The Current Security and Economic Situation on the Korean Peninsula”Center for International Studies, University of Chicago[2007.4.12]
  http://chiasmos.uchicago.edu/events/koreanAmbassadors.shtml (地図) http://www.abysse.co.jp/world/index.html


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