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2007.10.25
 
 


中国共産党の大胆な変身

 中国共産党第17回大会が閉幕した。開かれた大会との印象を与えるために相当な努力を払ったようである。
 驚いたことに、インターネットで逐一大会情報を公開したのである。(1)記者が足でかせぐ情報収集作業を全く無意味なものにしてしまった。
 コレ激変と言ってよいだろう。

 共産党独裁政権だから、表面的な姿勢だけで判断するのは危険だが、世界の標準に、徐々にではあるが、合わせていく姿勢を示したのは間違いない。

 そんな大きな変化があったのだから、今回の大会で共産党はどう変身することに決めたのか、見極めておく必要があると思う。なにせ、中国の動きで世界は激動しかねないのだから。

 と言っても、今もって政権の内部での政策の議論過程はほとんどわからない。しかも、情勢を的確に読めそうな人は限られているようだ。おかげで、知識だけ豊富な人による、つまらぬ人脈解説が溢れている。共青団(胡錦濤)、太子党(曽)、上海閥(江沢民)間での派閥人事抗争話である。
 だから、どう変わるのか聞きたいが、そんな話はたいていは皆無。面白派閥抗争話が一番受けるということなのかも知れぬが。

 そんな“識者”のお話を読むより、自分の頭で考えることをお勧めしたい。

 先ず見るべきは、活動報告。と言っても、いかにも共産党らしい長時間の演説。生情報を検討する気にもなれないから、ポイント解説に頼ることになるのは已むを得ない。
 そんな類の記事を散見すると、報告内容はビジョンといった性格のものではなかったようだ。ポイントは以下の5つにまとめることができるらしい。(2)
  ・小康社会 (いくらかゆとりのある生活)
  ・和諧社会 (生活保障による調和のとれた社会)
  ・軍隊/国防事業の現代化 (富国強兵)
  ・台湾統合 (独立絶対阻止)
  ・和平共存五原則で全方位友好関係

 早い話、国内で不満が高まっているから、内政重視で行こうという方針だろう。
 ただ、先進国に比べ軍事力は劣勢だから、対外的にその力を活用することはせず、力を溜めていこうということ。但し、国外からの台湾問題関与があった時は例外扱いとする訳だ。
 「鉄砲から政権が生まれる」という毛沢東以来の考えが変わる訳もないから、国内安定化ということで、以前にも増して軍隊の近代化と共産党中央による統率力強化が進むのは間違いあるまい。
 おそらく、人民解放軍の大規模人事異動により胡錦濤体制を磐石にして、大会に臨んだ筈だ。

〜中央政治局常務委員〜
留任
胡錦濤
[総書記]
エンジニア
ダム発電
>>>
呉邦国
[全人代]
エンジニア
電子
>>>
温家宝
[首相]
エンジニア
鉱産物
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賈慶林
[政治協商]
高級エンジニア
電機(重)
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李長春
[思想]
エンジニア
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>>>
新任 次世代
習近平
[上海市]
法学博士 >>>
李克強
[遼寧省]
経済学博士 >>>
新任
賀国強
[組織]
高級エンジニア
化学工業
>>>
周永康
[公安]
教授クラス高級エンジニア
石油天然ガス
>>>
 胡錦濤体制が強化されたのは、規約改正で明らかである。胡錦濤路線の看板である「科学的発展観」が掲げられたからである。(3)経済開発一本槍路線の調整を行うということにすぎないが、路線転換であることは間違いない。
 しかも、従来路線は非科学的と言わんばかりの用語だ。出席した江沢民前主席には面白くなかったのではないだろうか。

 このことは、次世代の主席と首相と目される新任常務委員の履歴でも一目瞭然。両者とも“エンジニア”ではない。
 共産党トップ自らが自分はエンジニアと称し、中国を世界の工場にすることを目指して国民を鼓舞し、経済発展には成功した。しかし、流石に矛盾が大きくなりすぎたので要調整という訳である。
 バランスのとれた発展を目指すというが、要は、人治から法治に変えること。
 中国社会の体質からいえば、法治化は簡単なことではなさそうだが。

 そんなことを考えると、「科学的発展観」の真意は、なにはともあれ、本当のことを中央に報告させる仕組みを作ることにあるのではないか。
 場合によっては、軍の力を使って、地方の「非科学的」な動きを抑え込むこともありうると思う。

 要は、今大会で打ち出されたポイントは3つに集約できるということ。
  ・科学的発展観
  ・ケ小平理論
  ・三つの代表

 「ケ小平理論」とは、経済開放路線と構造改革を続行するという話だが、これが「三つの代表」と繋がる。ここが肝である。
 この路線を堅持するため、中国共産党は労働者党ではなくなることを意味している。
 要するに、国営・民営を問わず、企業経営者や資本家の政治参加が求められたということだ。つまり、“プロレタリア政党”から、“企業マネジメントの政党”に変身するつもりなのだ。
 環境や社会保障政策立案に当たっては、企業マネジメント層が主導するということだ。

 そんな姿勢を強く印象づけたのは、中国メディアに“十七大代表、海爾集團公司張瑞敏于16日接受採訪”といった見出しが躍ったからでもある。
 言うまでもないが、家電の雄ハイアールの会長が大会の代表に参加していることをアピールしたのである。

 このことは、環境対応や社会保障を重視するといっても、企業マネジメントにまかせるということに他ならない。成長路線を堅持する所存だから、海外の投資家や企業家は安心してよい、という強烈なメッセージを発信したのである。

 --- 参照 ---
(1) 十七大新聞中心 [英文あり] http://www.cpcnews.cn/
(2) 人民網日本語版の解説記事
  http://www.people.ne.jp/2007/10/15/jp20071015_78123.html
  http://www.people.ne.jp/2007/10/15/jp20071015_78123.html
  http://www.people.ne.jp/2007/10/15/jp20071015_78124.html
  http://www.people.ne.jp/2007/10/15/jp20071015_78125.html
  http://www.people.ne.jp/2007/10/15/jp20071015_78127.html
(3) “「科学的発展観」が党規約に” 人民網日本語版 [2007.10.22]
  http://www.people.ne.jp/2007/10/22/jp20071022_78449.html
(国旗のイラスト) (C) National flag & Road sign Mt. http://nflagrsign.xrea.jp/


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