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2008.2.4
 
 


日本株さらなる低迷か…

 米国では、大統領選挙の年は、政府が景気を上向かせるべく頑張るのが普通だが、2008年は頑張りが効かないようである。
 不況に入った確証があった訳ではないが、状況証拠はすべてそれを示唆しているということで、1月28日の大統領一般教書演説は弱気そのもの。
 まあ、個人減税や設備投資減税を発表しても、株式市場の反応は芳しくなく、その後、日本から株価暴落開始した位で、2008年の見通しは暗い。米国リセッション突入やむなしムードが広がってしまった訳だ。そして、ついに、数字もそれを示し始めた。
[Feb. 1, 2008] President Bush Discusses Economy in Kansas City(1)---“Today we got such a sign when after 52 consecutive months of job creation, we lost 17,000 jobs. The unemployment rate went down, but nevertheless, a serious matter is that for the first time in 52 months that we didn't create jobs.”

 米国のベビーブーマー世代は、今までせっせと貯めてきた株式資産を換金化していこうという時だから、ここでパニックでも発生すれば資本市場が崩壊しかねない。The Fedは、なにがなんでも、暴落阻止に動く。
 議会も、ここぞとばかり、圧力団体の意向を取り入れながら、法案化を急ぐことだろう。
 日本の金融危機をしっかりと学んだだろうから、当面の止血剤注射でなんとか乗り切るだろうが、米国経済はついに改革を迫られたということである。次期大統領の大仕事になるのは間違いなかろう。
  → 「パニック防止を考える時代 」 (2008年1月7日)

 そんな動きは日本に跳ね返ってくる。ドル金利引下げは、常識では、さらなる円高を意味するからだ。輸出セクターの勢いが止まったりしかねず、それが引き金となり日本発株価暴落発生もありえないことではない。為替の急変を必死に抑えるしかないだろうが、厄介なことだ。
 もっとも、最悪のシナリオはそんな話ではなく、国内から資金が逃げ始めることだ。その可能性もゼロとは言えなくなってきた。そうなれば、失速どころではなくなる。
 そんな危機話が好きな人は多いから、そのうち至るところで語られることになろう。だが、今までの状況から見れば、おそらく何をすべきかという議論にはつながるまい。

 そんな話より、冷えきった国内の消費マインドをどう手をつけるのか今すぐ語ってもらいたいものだ。
 住宅着工落ち込みもあいかわらず続いているし。なにせ、ソフト点検さえ、いつ終わるのかわからぬ状況。これに耐えられない企業も多かろう。建築ミニバブルを潰す効果もあるから、気にかけるなということなのだろうか。
 これに加え、租税特別措置法で大混乱まで引き起こしかねない状況。(2)与野党ともども、これらの法案をどう選挙に利用し、相手を落とし込もうかと知恵を絞っているとしか思えまい。景気刺激どころか、ますます景気の足を引っ張りかねない状況だ。

 どうしてこうなるかといえば、“建前”論ばかりが幅をきかせ始めたからではないか。おかしな仕組みは昔からのこと。掘り返せば、そこらじゅう。何故、今、その一つに手をつけると変革に繋がるのか、さっぱり理解できない。
 野党の役割は、与党の腐敗を指摘することという時代に戻りつつあるのだろうか。
 もともと、大半の議員は、そんな話には全く興味がない。その時々の論議を利用し、利益誘導を図ろうと熟考するだけ。そんな政治家ばかりだから、訳のわからぬ仕組みになったのであり、当然の反応だ。
 そんな状態で、どんな議論を繰り広げようというのか。
 先は暗い。

 大田大臣の国会演説を聞くとその感が深まる。(3)以下の課題を整然と並べた、真面目でまともな話だからだ。
  ・オープンな経済を実現する。
  ・地域に根をはるサービス産業の振興に力を入れる。
  ・人材の力を高める。

 理屈だけの、社会主義国の計画経済を彷彿させられたというと言いすぎだろうか。少なくとも、この調子では、社会は微動だにせずといったところだろう。どうせ、こうした方針に合わせ、辻褄あわせの政策が連発させるだけだ。

 要するに、どうして改革ができないのか、どこから手をつけるべきかという話ができない限り、お話にならないということ。
 先ずは、小泉時代の改革とは言葉の遊びでしかなかったことを言わない限り一歩も進むまい。(但し、銀行の不良債権処理に手をつけた点と、地方への大盤振る舞い阻止だけは特筆ものだが、本質的なところには何も手をつけていない。)

 日本の政治家は、落選がこわいから、社会を動かす気がないのかも知れないが、外部から招聘された人でさえこの調子なのだから、どうにもならない。
 総論型は駄目である。表面だけ取り繕った改悪に進むのがおちだからだ。すべてを勘案して、一点を定め、ここを集中的につつき、新しい流れを生み出さない限り何も変わるまい。
 ピンポイント作戦は、副作用もあるし、間違えば、逆効果になりかねないが、それは致し方ない。変革とはそういうものである。
 場合によっては、本質とずれて見える目標提起に映るが、それでも結構。その目標を実現することで、ドミノ現象のように波及していくなら大成功だからだ。そんな仕掛けをしっかり作っておけばよい。つまらぬ理屈の総論など有害そのもの。どうせ、勝手に改変されて、骨抜きどころか、逆噴射になる
 重要なのは課題の羅列ではなく、変革の全体構図である。これを案出する“構想力”が問われているのだ。
 残念ながら、日本には、そんな力がある人材が見当たらないようだ。

 こんなつまらぬ話をするのは、気がかりな点があるから。
 と言うのは、政府、野党、ともども、その政策提案にトヨタ自動車で鍛えられた人が任に当たるようになったから。(選挙対策人事の可能性も濃厚だが。)(4)
 これ自体は悪いことではない。トヨタ自動車から学ぶことは相当多いからだ。しかし、鍛えられたトヨタの組織風土と日本の一般風土の隔たりはとてつもなく大きい。しかも、与野党どちらも、組織内の価値観は驚くほと多種多様。政策方針が腹に落ちるまで議論などできる状況にはない。従って、トヨタ型の変革を持ち込んでどうにかなるとは思えない。それどころか、下手をすると逆効果になりかねまい。

 まあ、政治家だけを責める訳にもいかない。産業界も似たようになってきたからだ。
 不調で足を引っ張る企業が多いという意味ではない。それどころか、日本の企業業績はおしなべて好調。それは、粗鋼生産量推移が如実に示している。(5)東証1部企業の視点では、実態経済は悪くないどころか絶好調。欧米のように巨大な不良債権問題を抱えているセクターがある訳でもない。
 にもかかわらず、投資成績を見れば、2007年の日本投資は落第点だった。なんとビリから3番である。(6)

 米国経済のスランプと円高を織り込んだ低迷と説明する人が多いが、おそらく、そんなものではなかろう。
 東証1部企業にもかかわらず、時価評価額が純資産以下に落ち込んでいたりするからだ。コレ、理屈からいえば、清算した方がましということ。
 このことは、発表内容が信用されていないか、利益を生み出さない無駄な資産だらけと見られているということだろう。
 しかも、PERが10以下の企業も少なくない。この数字、常識的に考えれば、成長性皆無との烙印を押されたと言うこと。

 企業業績がそれなりに好調なのにもかかわらず、こんな現象がおきているということは、日本企業の経営力が地に落ちているか、国全体の動きが企業活動全般の桎梏になっているかのどちらかではないのか。
 と言うより、日本企業の“経営”実態がわかってしまったということかも知れぬ。
 高賃金な余剰労働者の退職が始まったから、黙っていても利益はついてくる。その上、臨時雇用を増やしたから、ビジネスボリュームの変動の影響も受けにくくなった。流れにまかせているだけで儲かるようになった。
 しかも、与野党が競争して、市場ダイナミズムを潰すように動いている。既存事業が儲かるように政府や社会が支援してくれるということだ。
 余計なことをしないほど儲かるということ。こんな美味しい話はなかろう。社会変革支持に動くとは、とうてい思えない。

 しかし、今時、そんな経営姿勢を評価する投資家がいるだろうか。

 日本がどう見られているか、よく注意した方がよい。
 例えば、“Never Mind”こそ、日本の得意技とされているかも知れないのである。(6)5年間にわたって、延々とデフレ克服を語り続ける人が高く評価される風土と思われ始めているのだ。

 日本株が低迷するのは、おそらく、環境条件が変わったからではない。日本社会の体質を見抜かれたと考えた方がよかろう。
 大田大臣の演説は口だけで、政策実態は以下のようなものではないかと見られた可能性も否定できないのである。
  ・新しい動きができないように規制を強化する。
   (オープン経済化のスローガンの下で、実質鎖国を目指そう。)
    既存産業の変化を抑え、生産性が低下してもよいから、雇用だけはなんとか守る。
  ・儲けている企業へ奉加帳を回す。
   (地域全体で生産性が低いサービス産業を助けよう。)
    潰れるしかなさそうな企業や、競争力なき産業を延命させる。
  ・革新を狙う部外者は意思決定に参加させない。
   (現状の仕組みを守るような人作りを進めよう。)
    経済原則を貫こうとしたり、革新を狙う有能な経営者が登場できないようにする。

 言うまでもないが、日本は資本主義国なのか、疑いを持たれ始めたということ。
 そうなれば、日本株の存在意義そのものが薄れてくるのは時間の問題という気がする。

 --- 参照 ---
(1) http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/02/20080201-7.html
(2) 富岡幸雄: “税金Q&A 特例期限切れの明と暗 ねじれ国会の税制騒動” 漁火新聞 2007年12月号
  http://www2.odn.ne.jp/~aab28300/2007/12/zeikin.html
(3) 大田弘子経済財政政策担当大臣演説[衆議院TV 2008年1月18日本会議: 13分] http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.cfm
(4) 奥田内閣特別顧問[2007年12月就任], 直嶋民主党政策調査会長/「次の内閣」官房長官[2007年8月就任]
(5) 日本鉄鋼連盟 統計分析 粗鋼生産 http://www.jisf.or.jp/data/jikeiretsu/docs/syuyoukoku_s_0711.xls
(6) [国別比較例] http://www.mscibarra.com/products/indices/stdindex/performance.html
(7) William Pesek: “Asia's Money Talked in 2007, Humbled West Walked” Bloomberg [2007.12.27]
  http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601039&sid=aVmCIVgyGIts&refer=columnist_pesek
(写真) [Wikipedia] Federal Reserve.jpg http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Federal_Reserve.jpg


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