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2008.6.2
 
 


米国大統領候補選挙戦の副作用…

 Bush大統領が選挙活動を始めた。
 と言っても、支持率低迷の大統領だ。候補者を直接支援するのではなく、共和党の政策で気を引こうというもの。
 言うまでもないが、イスラエル支援の姿勢を鮮明にしたということ。和平の仲介者でありながら、一方と軍事同盟を締結していることを高らかに謳いあげるような演説をしたのには驚いた。・・・“Israel's population may be just over 7 million. But when you confront terror and evil, you are 307 million strong, because the United States of America stands with you. (Applause.) ”(1)

 この一言で、米国国内で共和党支持が高まるのは間違いなかろう。
 一方、パレスチナのAbbas政権はますます民衆の支持を失うことになろう。下手をすれば、ハマスに打倒されかねまい。そんなことにでもなれば、中東一体が戦乱に巻き込まれかねないのではないか。
 そんな状況を狙っている訳でもなかろうに。こまったものだ。

 しかし、それは共和党に限らない。民主党もひどい。
 Hillary Clinton候補が労働者票の掘り起こしを図ったお蔭で、米国の状況が大きく変わってしまったからだ。
 “They came for the steel companies and nobody said anything. They came for the auto companies and nobody said anything. They came for the office companies, people who did white-collar service jobs, and no one said anything. And they came for the professional jobs that could be outsourced, and nobody said anything.”(2)

 ・・・これが何を意味しているかおわかりだろう。
 米国の労働者が、中国・インド・メキシコ移民におぼろげな脅威感を覚えている点をついたキャンペーンを仕掛けたのである。
 不満の矛先を海外に向けるのは、政治家の常套手段。マクロで見れば、中国やインドが、世界経済を牽引したからこその米国経済繁栄だと思うが、それを意図的に捻じ曲げ、票集めに走ったということ。
 グローバル化を阻止したところで、生活レベルが落ちなくなり、同じ職業で安定して食べることができる訳があるまい。そんなことをわかった上で、露骨な票集めを行っているのである。
 これを見て、流石に心配になる人もでてきた。グローバル化信奉者で、米国の中国シフトを推進したSummers元財務長官が、民主党の保護主義傾斜を諌める状況なのである。(3)
 流石、傲慢といわれ続けた論客だ。
 米国は没落していくのではなく、世界の秩序をとりしきるリーダーとして、さらに力を発揮せよというのだ。つまり、グローバル経済のルールつくりに精を出すべしとの主張。それこそが米国の繁栄に結びつくと見ているのである。その結果、米国の労働者のメリットにもなるという論旨。
 米国没落論本(4)が出版されたようだから、誇り高き米国人としては、ここでどうしても一言ということかも。

 ともあれ、整理すれば、以下の問題解決を目指し、米国流のフェアな競争状況を作るべしということになるだろうか。
  (1) 各国の恣意的な税制
     -グローバル企業への独自課税
     -Tax Havensの存在
  (2) ルールなき経済外交
     -過度な投資呼び込み競争
     -市場機能を弱めかねない産業規制
 さらに、民主党大統領候補が打ち出しかねない政策も大問題だ。
  (3) 労働政策に名を借りた保護主義
     -変化を封じる労働政策
     -労働条件評価による交易規制

 そもそも、資本主義経済下で、「労働者の生活レベルを落とさない」と国家が約束できる訳がない。乱気流に見舞われるのは資本主義の宿命。これを嫌うなら、社会主義しかないが、理屈とは違い、全体の生活レベルが下がる。従って、そんな仕組みを誰も選択しようと思わない。それが現実である。
 資本主義が選択されるのは、たとえ生活レベルが下がっても、それが上昇するチャンスを生み出すからだ。このダイナミズムが富を生み出す原動力と言う訳である。

 資本主義の理屈から言えば、先進国の所得水準が高いのは、発展途上国より生産性が高いだけのこと。ただ、現実には、生産性が低くても、同じ国民ということで、所得再配分の仕組みで皆が高い給与になっていただけ。理屈から言えば、これは歪んだ仕組みであることは間違いない。
 と言うのは、生産性が極めて高い産業を弱体化させるか、蓄積してきた富を切り崩さない限り、こんなことはできないからである。

 それに、全く同じ労働を続けるだけでは、生産性はあがらない。周囲が生産性向上に励んでいるなら、相対的に生産性は低下していると考えるべきだろう。生活レベルは下がってもおかしくない。
 これが資本主義経済の基本である。
 おわかりだと思うが、この理屈は、経済のグローバル化とは全く関係ない。

 米国の労働者が雇用の不安定化に直面しているとしたら、中国の労働者はその一回り上の不安定化な状態にあるのだ。
 生産性が低い職種や産業を保護する余裕などないから、多くの職業がたちどころに消え、とてつもない数の工場が潰れるのである。それが裸の資本主義経済というもの。
 こんなことがおきているのに、グローバル化を抑えたからといって、職が守れる訳でもなければ、生活レベルの低下を防ぐこともできる訳がなかろう。

 生活レベル低下を防ぐなら、生産性が高い産業を支える社会基盤を皆で整えて、再配分し易いようにするしかないのである。
 それもなくして再配分だけしていれば、生産性が落ちていくだけのこと。そのうち、全員の生活レベルが落ちることになる。
 従って、グローバル企業がその恐れを感じ取ったら、国内労働力を見限ることになろう。それを弱肉強食とか、利潤追求と呼んで批判して、その姿勢を変えさせたところで、共倒れになるだけである。

 従って、政治が目指すべきは、市場機能の正常化とその強化である。グローバル経済の仕組みに介入などすれば、経済発展は阻害され、繁栄から遠ざかるだけである。

 政治家は、このことを有権者に正直に伝えるべきではないか。

 --- 参照 ---
(1) President Bush Addresses Members of the Knesset [Jerusalem: 2008.5.15]
  http://www.whitehouse.gov/news/releases/2008/05/20080515-1.html
(2) DAVID BROOKS: “The Cognitive Age” NewYork Times [2008.5.2]
  http://www.nytimes.com/2008/05/02/opinion/02brooks.html?incamp=article_popular
(3) Lawrence Summers: “A strategy to promote healthy globalisation”Financial Times [2008.5.5]
  http://blogs.ft.com/wolfforum/2008/05/a-strategy-to-promote-healthy-globalisation/
(4) [本] Fareed Zakaria: “The Post-American World” W. W. Norton & Company [2008.5] http://www.fareedzakaria.com/
  [書評] MICHIKO KAKUTANI: “A Challenge for the U.S.: Sun Rising on the East” NewYork Times [2008.5]
  http://www.nytimes.com/2008/05/06/books/06kaku.html
(WhiteHouseの写真) [Wikipedia] photo by Wadester16 WhiteHouseSouthFacade.JPG
   http://en.wikipedia.org/wiki/Image:WhiteHouseSouthFacade.JPG


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