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2008.7.18
 
 


中東大戦争への道…

 欧米の新聞記事を眺めていると、イラン戦争の可能性が高まっている感じがしてくる。日本国内の報道状況とは違う。
 どうも、感覚のずれがありそうだ。
  (1) 日本は、福田首相が議長を勤めた北海道洞爺湖サミットの報道ばかり。
   ・欧米は、G8はショウ化しており、たいしたことはできないと見ているのだろう。
  (2) 欧米が注目した外交問題は、環境/アフリカ発展ではなく安全保障だった。
   ・Sarkozy大統領が主導した「地中海連合」創設。
   ・Rice国務長官が東欧を訪問しロシアが反対する「ミサイル防衛網」構想を現実化。

 これを見ると、欧米は、現時点で大きなインパクトを与える問題へのチャレンジを優先しているように映る。
 これに対して、日本は、長期的な問題を真面目に考える体質がありそうだ。イラン問題でも、お互い挑発は止め、話合いを続けて欲しいという真面目さだけの解説が多い。と言っても、もちろん、それなりの分析は踏まえてはいる。ただ、以下から適当にピックアップしたような理屈が多いと言ったら言い過ぎだろうか。
  (1) Bush政権は外交交渉で解決するとの方針を採用している。
   ・ドイツ提案での収拾にまとまりつつある。
   ・湾岸から空母が撤退している。
  (2) 先制攻撃に踏み切ってもその成果は限定的である。
   ・情報を欠く状況で、複数箇所の地下施設へのピンポイント攻撃が効果的にできるとは思えない。
   ・海峡封鎖行動に対しては地上作戦が必要だが、米軍はそのキャパシティを欠く。
   ・イラン現政権に代わる受け皿政権がないので、一旦始まると戦乱は長引く。
   ・反ペルシア民族によるイラン内乱発生は期待薄であり、宗教政権体制が強化されるだろう。
  (3) イスラエルの単独侵攻は難しい。
   ・攻撃には他国上空通過許可が必要だ。(トルコ,サウジアラビア,イラク)
   ・シリア領内を通過すれば、確実に早期警戒信号が送信され迎撃ミサイルが待ち構えている。
   ・距離から見て、米国の空中給油支援が欲しい。
   ・100機レベルの侵攻で複数拠点を確実に破壊できる保証はない。
   ・本気で侵攻する考えがあるなら、予行演習をニュースにさせる訳がない。
  (4) 戦火拡大の引き金となる。
   ・イラクの米軍基地が攻撃を受けるため、治安が保てなくなる。
   ・武器を蓄積中のハマス/ヒズボラはイスラエルを挑発し、ヨルダン/シリアを巻き込んだ戦乱誘発を図る。
  (5) 世界経済混乱は確実だから中露は回避圧力をかけるだろう。
   ・ホルムズ海峡防衛は簡単ではない。
   ・戦火拡大で中東原油供給停止を招き、世界経済大混乱という流れは避けたい。
  (5) 欧米の仲介で、イスラエルが周辺国と外交交渉を進めている最中にイラン侵攻を図ることはなかろう。

 いずれも、間違いではないが、戦争を考える上では、本質的な問題ではないことに注意すべきだと思う。本気に攻撃する気になれば、どれもたいした意味はない。
 だいたい、核関連施設を叩くつもりなら、巡航ミサイル攻撃が一番効率が良い。イスラエルの戦闘爆撃機で叩く必要などなかろう。
 それに、イスラエル/米国は先制攻撃を避けているだけで、イラン現政権を追い詰め、イランに先に火蓋切らせようとしているかも知れない。イランの脅威を除くなら、攻撃されて損害を被ってから、攻撃してもよいのである。制空権はすぐに奪えるから、拠点すべてを(1)完全に壊滅させることができるから、軍事的にはこちらの方が優れているかも。
 実際、Ahmadinejad大統領は、13日に、“even before its enemies "get their hands on the trigger" the country's military would cut them off”と語ったと報じられている。(2)イラン現政権はそんな流れに乗せられていると見れないこともなかろう。イスラエルの軍事演習は呼び水かも。(3)
 それこそ、ロシアに対して、欧州へのミサイル防衛網配備を嫌うなら、イランの軍事力壊滅攻撃を容認せよと迫ってもおかしくない。

 つまり、戦争発生の可能性を探るような議論をしても、たいした意味はないということ。わかりにくい説明かも知れぬが、イランの脅威をイスラエル/米国がどう見ているかを考えることが一番重要だということ。
 もしも、国家生存や国際秩序が脅かされると見なされているなら、その脅威を取り除くためには、どんな手段でも使うだろう。それだけのこと。

 軍事的にどう見ているかは、2008年7月15日、米国防総省Missile Defense Agency 担当のObering中将が行った記者会見がわかり易い。ミサイル防衛方針のなかでイランの現状を以下のようにまとめている。(4)
  ・長距離ミサイル攻撃体制確立に注力。
    -「Shahab-3」の射程距離増強型
    -2,000Km級の新型(「Ashura」)
  ・宇宙探索船/宇宙ロケットの打ち上げ成功と主張。(「Shahab-3」に類似)
  ・イスラエル/中東米軍基地攻撃可能な短/中距離ミサイルの組織的多発射訓練(7月+昨11月)
 そして、報告書での将来の見通しでは、
  ・2015-2017年頃には、ICBM級の米国本土攻撃可能なミサイルを所有。
  ・宇宙発射プログラムを進めており、多段ロケットを実現。

 この状態で、イランが核兵器開発に動いているとしたら、ただならぬ脅威と言えよう。イスラエル/米国がこのまま放置することは考えにくい。
 独裁国家北朝鮮の場合は、多段ロケットや核実験には失敗したわけだし、とりあえず、さらなる核兵器貯蔵ができないならたいした脅威ではない。しかし、イランはそうはいかないだろう。それに、宗教的に、イスラエルだけ核武装を認めるような方針を呑むことができなさそうだ。このことは、全力で核武装化に歩むしかないということかも。つまり、イスラエル/米国にしてみれば、もたもた交渉していると核武装されてしまい大変なことになるという訳だ。イランについては、交渉の時間的余裕は余り無いのである。

 イランが、イスラエル/中東の米軍基地へのミサイル攻撃能力を示したということで大騒ぎしているが、(5)この訓練には、新しい話は何もない。今まで登場したさまざまなミサイルを発射し、その能力を誇示しただけ。おそらく、米軍基地を受け入れているアラブ国家向けのデモンストレーション。戦争突入の最終通告ということかもしれない。

 イラン現政権は、原油売上げによる余裕はあるとはいえ、強まった経済制裁で追い詰められている。シリア、北朝鮮も、イランとの関係を切るように働きかけが進んでいるようだから、孤立化も深まってきたと思われる。突然、先制攻撃に踏み切る可能性も否定できまい。
 米国は、それを待ち構えているのではないか。

 --- 参照 ---
(1) イランの核/ミサイル拠点の地図 Nuclear Threat Initiative
  [Iran Nuclear Sites] http://www.nti.org/e_research/profiles_pdfs/Iran/iran_nuclear_sites.pdf
  [Iran Nuclear Reactor Sites] http://www.nti.org/e_research/profiles_pdfs/Iran/iran_nuclear_reactors.pdf
  [Iran Nuclear Enrichment Sites] http://www.nti.org/e_research/profiles_pdfs/Iran/iran_nuclear_enrichment_sites.pdf
  [Iran Missile Sites] http://www.nti.org/e_research/profiles_pdfs/Iran/iran_missile_sites.pdf
(2) Simon Webb: “Threat to Iran puts Gulf oil exports at risk” Reuters [2008.7.13] --2頁目
  http://www.reuters.com/article/newsOne/idUSL1333942420080713?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0
(3) MICHAEL R. GORDON and ERIC SCHMITT: “U.S. Says Israeli Exercise Seemed Directed at Iran” NewYork Times [2008.6.20]
   http://www.nytimes.com/2008/06/20/washington/20iran.htmlhttp://jp.reuters.com/article/topNews/idUSN1939158020080620
  “Israel appears to rehearse Iran attack: report” Reuters [2008.6.20]
  http://jp.reuters.com/article/topNews/idUSN1939158020080620
  “Israeli jets use Iraqi airspace to practice Iran strike: website” AFP [2008.7.12]
   http://afp.google.com/article/ALeqM5iA1PADQnouuKDkt-lk58k4EpyM4g
(4) “DoD News Briefing with Lt. Gen. Obering from the Pentagon” [2008.7.15]
  http://www.defenselink.mil/transcripts/transcript.aspx?transcriptid=4263
  Jim Garamone: “Iranian Threat Justifies Missile Defense, General Says” American Forces Press Service [2008.7.15]
  http://www.defenselink.mil/news/newsarticle.aspx?id=50511
(5) Zahra Hosseinian and Alistair Lyon: “Iran tests missiles amid tensions” Reuters [2008.7.10]
  http://uk.reuters.com/article/UKNews1/idUKL0925390620080709
(Shahab-3の図) [Wikipedia] (C) Incog88 http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Shahab-3.svg


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