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2008.7.28
 
 


日本の漁業は救えない…

 全国漁業協同組合連合会が中心となって、7月15日に一斉休漁。欧州同様のストライキで政治圧力をかけ、補助金を要求する訳である。EUのような燃料無税化の導入を狙っていると思われる。
 ただ、流石に、港湾バリケードのような耳目を集めるデモは行わないようだ。

 民主党は、漁業用燃油の価格補填と、漁家所得補償制度で、この動きにのろうという方針のようだ。(1)
 衆院選マニフェスト作りの「次の内閣」地方公聴会を、離島を抱える長崎県五島市で開催した位だから。そして、この方針を説明した上で、「農林水産業が元気になれば地方の集落はつぶれない。」との精神論をぶったようだ。(2)自民党が予算バラ撒きで培ってきた票田を掘り起こそうということなのだろう。

 内容を見てはいないが、どうあれ、この手の政策にたいした意義はない。本質的な問題には手をつけ無い方針だからだ。つまり、政府の施策と五十歩百歩ということ。
 なにかプラスがあるとしたら、漁獲量割り当て制度に手を入れる位のものではなかろうか。多少は合理的な思考が入ってくるかも知れないという意味で。しかし、いかんせん末梢的な議論である。

 この問題の根源は、漁民が、ともかく今の仕事を続けることができ、食えればよいと考えている点にある。
 そのため、政治家は、税金を、どれだけどのようにして漁民にばらまくかということに奔走するしかない。後は、それをいかに美しく魅力的に描くかが勝負。はっきり言えば、漁業がどうなろうとかまわないから、面倒なゴタゴタだけはご勘弁という以上ではない。

 なにせ、日本の漁業問題の本質は単純だからだ。
 漁業技術が進歩して、簡単にいくらでも獲れるようになったにもかかわらず、昔と同じ体制を続けるという無理筋に漁民が固執しているだけのこと。
 技術で生産性が飛躍的に向上しているのに、この効果を消す方策を望むのだから、将来性を描ける訳がない。
 要するに、工場でいえば、最新の生産設備だらけで、工場労働者もあふれかえっているのと同じ。とんでもない過剰にもかかわらず、合理化せず、税金で補填して皆が食べれるようにしてきただけのこと。
 こんな状況下では、食べるためには、それぞれが必死に漁獲量を増やすしかない。当然ながら、資源は枯渇し、どんづまり。
 仕方ないから、燃料を沢山消費してどんどん遠くへいくことになる。まあ、一時しのぎが続くのである。

 この状態で、政治ができることといえば、漁業外所得を得る仕組みを作ることしかない。
 その1つが、土木工事である。役にたとうが、立つまいがどうでもよい。浜など真っ先にコンクリートで埋まる所以だ。
 もう1つが、公務員あるいはそれに類した職業による雇用確保。無駄な業務だろうが、儲からない事業だろうが、なんでもよい。これによって、漁業では食べられなくても、家庭でみれば十分な所得が得られるなら成功ということになる。
 どちらにしても、合理的思考から生まれた政策ではないから、政治ボスに任せるしかない。内部でもめたりすれば、ゼロサムの税金分捕り競争に負けるから致し方あるまい。このボスが腐敗していると、底辺はつらいということはあるが。
 しかし、どうにもなるまい。

 おわかりだと思うが、こんなことを続けていれば、魚がとれなくなり、海から自然が消えて当たり前。漁獲割り当ての高度化、水産資源回復事業強化、魚場整備促進、等を進めたところで、解決できようがない。
 間違ってはこまるが、これは漁民が選択した道である。おしつけられた方針ではない。

 まあ、この先考えると、とどのつまりは、輸入規制の導入だろう。国家財政は破綻しており、さらなる税金投入は難しいから、消費者価格を上げることで一般から広くお金を集めて漁民に回すしかできまい。
 そうなると、とんでもない理屈が飛び出すことになるかも。そもそも、国内養殖など、ほとんどが輸入餌なのだから、歪んだ規制しかできないのだ。
 そして、魚の値段があがるから、魚の消費量はますます減る。そして、漁民ビジネスはさらに細くなっていく。

 Economistが主張するように、“Europe's governments must ignore fishermen's demands−for the sake of the fishing industry”(3)は実に真っ当な考え方である。
 ただ、そう思っていても、表立って賛成する人はいない。

 --- 参照 ---
(1) 「漁業用燃油の高騰に対する当面の緊急措置と今後の恒久措置について」 民主党 [2008.5.18]
  http://www.dpj.or.jp/news/dpjnews.cgi?indication=dp&num=13544
(2) 「【次の内閣】マニフェスト公聴会を長崎県五島市で開催」 民主党 [2008.6.9]
  http://www.dpj.or.jp/news/dpjnews.cgi?indication=dp&num=13651&ref=rss
(3) “Charlemagne Fishy tales” Economist [2008.6.12] http://www.economist.com/world/europe/displaystory.cfm?story_id=11534582
(船のイラスト) (C) Free-Icon http://free-icon.org/index.html
  


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