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2008.10.6 |
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米国大統領選の争点とは…米国大統領選挙まで残すところ1ヶ月。TV討論会が行われ、そのエッセンスが様々な形で報道されるから、民主・共和党両候補の主張の違いを単純化するのは簡単だ。そして、「大きな政府」v.s.「小さな政府」といった対立でまとめてしまうと、なんとなくわかった気になる。 変化が速い米国社会だというのに、そんなステレオタイプの見方で、時代の流れが読めるだろうか。しかも、自由貿易論の共和党政権の方が日本経済にはプラスだなどという、狭い見方でしか考えない人もいるが、もっての他。 何がおこっているか、考える必要があろう。 といっても、金融恐慌を防ぐために、小さな政府のイデオロギーにしがみつく訳にいかなくなったと言いたいのではない。 ましてや、Google/YouTube/Faithbookの動きを牽引してきたリベラルな世界の住人が作り上げてきた「インターネットコミュニティ」型政治運動に注目すべきという話でもない。(1) こんなことはマイナーな問題。
男女、人種、言語、貧富、老若、職種、学歴、など様々な点で社会の分裂が一気に進んできたが、このままではどうにもならなくなったということである。 2008年9月29日、まとまりかけた金融安定化法案が否決されたのも、ついに行き着くところまで来たことを示しているのではないか。状況的には、議会が、目的とは異なる使途に税金を回していることが知れ渡っており、ここで賛成すると、献金欲しさの行動と見なされ落選しかねないからだが、そこまで怒りをかうことを恐れるというのは、社会状況が相当に悪化しているということである。 地域によっては、暴動が発生してもおかしくないレベルに達し始めたのかも知れない。 誰が大統領になろうと、政策大転換しかなかろう。 大統領選挙の帰趨を決めてきた中間層が、「大きな政府」v.s.「小さな政府」の政策論争を眺め、どちらにメリットがありそうか考えて選択する時代は終わりをつげたということ。ともかく、求心力がありそうな方を選択するしかなくなったのである。それ以外の分裂解消の道は、戦争しかないからである。 つまり、今回の一番の争点とは、様々な相違を乗り越え、どういう思想で国民を統合するかという点だ。政策選択ではないということ。 その観点で両候補の方針を見ると、この選挙の意味と、対立軸が見えてくる。 簡単に眺めてみよう。 一つの流れは、米国本土で育っていない黒人を指導者にすれば、まとまるのではという、希望的観測。「象徴」を掲げることで打開しようというのである。「象徴」でしかないから、その政策は曖昧模糊としたものにならざるをえない。その時々の情勢に応じて是々非々のプラグマティズムで方向を決めていくことになる。公約の社会保障など大増税しない限り無理であり、どちらの方向に歩み出すかは皆目不透明。もはや米中枢軸での経済発展もできない状態だから、経済政策の突然変更もありえそうだ。国内の分裂状態を看過せず、できる限り和らげる方向に進むことしかできないということ。 そして、この推進に邪魔となる国や組織を徹底的に叩くことになろう。 もう一方は、「宗教」でまとめようとの方針。戦争、犯罪、貧困、といった苦しい状況が続いているなかで、人々は“個々”に分断されているのだから、なにか紐帯を作ろうという考え方。人類の歴史を学べば、過酷な時に登場する手段は、信仰しかなかろう。従って、キリスト教に基づいた価値観で国民を統合しようという訳である。当然ながら、この価値観を共有できない国や組織は、敵として分類されることになろう。 Sarah Palin副大統領候補指名に至ったのも、選挙戦術ではなく、ビジョンそのものと見た方がよかろう。 “Are we fighting a holy war?”との質問を浴び、(2)世界中でその人となりが知られ、宗教政治家の印象を与えたが、それは半ば意図的なもの。国をまとめることができるなら、戦争遂行の原点を信仰においてもかまわないということ。インフレによる中流階級の没落を予期していると見てもよいかも。欧州大陸の国々とは、逆の道を進むという宣言である。 (Palin副大統領候補は、宗教的には“creationist”で、進化論否定論者だそうだが、これは、William Jennings Bryan[1860-1925]以来だとか。(3) Bush大統領も同じような思想を持っているようだが、国民をまとめる力はなかった。・・・“This is a new kind of -- a new kind of evil,・・・And we understand. And the American people are beginning to understand. This crusade, this war on terrorism is going to take a while.”(4)) Obama候補が、カソリック教徒の副大統領候補を設定して、ヒスパニック集票を狙うような戦術的な動きとは違うことに注意すべきである。人口的には最大のシェアを占めるEvangelicalをベースに、宗教的な価値観で国民を統合しようという提案と見た方がよい。極めて強いメッセージ性がある。 (Pew Forumの調査(5)によれば、プロテスタント(Evangelical 26%、Mainline 18%、Black 7%)が約半分で、カソリック24%、モルモン教2%、他のキリスト教2%といったところ。ユダヤ教は2%でしかない。所属宗教無しはかなり増加したとはいえ、16%。) このメッセージがどこまで浸透するかわからないが、個々人にとって、直面する身近な問題が深刻化しているのだから受け入れられる素地は少なくない。なにせ、どこを見回しても、昔の家族の概念は崩れ去っており、治安は悪化一途だ。なかでも象徴的なのは西海岸だろう。この辺りでは、公立校の立て直しを期待する人もいなくなったようだ。 こんな状態で、信仰が薄れ、拝金主義がはびこっている現実を許せぬという話は人々の琴線に触れる可能性は高い。信仰の障害になりかねない「進化論」教育の否定論も力を持つかも知れないのである。もともと、「科学」とは、自然の法則性を探りだそうというもので、奇跡を肯定する道理はないから、宗教的価値観が重視されれば、その意義は二義的になってもおかしくないからだ。しかも、信仰心篤き層にとっては、労働とは神が与えた罰である。「科学」の成果を利用して、自由気ままな態度で生活を愉しもうと考える人を毛嫌している層は少なくない。 --- 参照 --- (1) Reihan Salam: “Can Republicans find a way to compete on the Web? Planting the Rightroots” The Atlantic [2008.10] http://www.theatlantic.com/doc/200810/rightroots (2) “Full Excerpts: Charlie Gibson Interviews GOP Vice Presidential Candidate Sarah Palin” ABC News Interviews [2009.9.13] http://abcnews.go.com/Politics/Vote2008/story?id=5795641 [参考] NewYork Times Editorial “Gov. Palin’s Worldview” [2009.9.12] http://www.nytimes.com/2008/09/13/opinion/13sat1.html?incamp=article_popular_3 (3) Christopher Caldwell[Weekly Standard]: “The evolution of creationism” Financial Times [2008.9.5] http://www.ft.com/cms/s/0/71e3e552-7b59-11dd-b839-000077b07658.html http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200809250056a.nwc (4) RON SUSKIND: “Faith, Certainty and the Presidency of George W. Bush” NewYork Times [2004.10.17] http://www.nytimes.com/2004/10/17/magazine/17BUSH.html “Our national leaders are sending U.S. soldiers on a task that is from God.”との教会での発言。 (5) http://religions.pewforum.org/affiliations (風刺画) [Wikipedia] “A Republican satire on Bryan's "Cross of Gold" speech.” http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Cross_cartoon.jpg 政治への発言の目次へ>>> トップ頁へ>>> |
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