↑ トップ頁へ

2008.11.1
 
 


クーポン券政策には仰天…

 いかにも麻生政権らしい、2つの方針が発表された。

 1つ目は、選挙の先送り。選挙を早くやりたい公明党と組んで、見事権力奪取に成功したが、それを反故にするのだから、いかにも権力闘争のプロらしい動きといえよう。予想ほどの支持率は得られなかったが、政権を引き継げそうな候補者はいないから、選挙に持ち込みさえしなければ、立場は弱いどころか、強いのだから有り得る選択だった。民主党は、まんまと選挙資金の兵糧攻め作戦に乗せられたとも言える。実に天晴れ。
 政局解説がお好きなジャーナリズムがいろいろとりあげないのが不思議な位だ。

 2つ目は、言うまでも無く、“2兆円の給付金”。昔、公明党が行った「地域振興券」と比較する話ばかり見かけるが、どう見たところで違う政策と思うが。
 ・・・と感じたので後者について書いてみた。

 先ず最初に注意すべきは、「地域振興券」の解説。鵜呑みにせず、ご自分の頭で考えた方がよい。
 発行費用ばかりかかった上、経済刺激にもならなかったから、とんでもない代物だったのは確かだが、そんなことは提案した公明党からして初めからわかっていた可能性が高い。どう見ても、この施策は消費刺激など名目にすぎない。生活が苦しそうな層に金一封を配っただけのことだろう。ただ、生活が苦しい世帯をはっきりさせるのは難しいから、奇妙な配り方になっただけ。
 確か、当時、反公明党の保守勢力が、本を買わせるために税金でクーポンを配ったと揶揄していたが、政治家はこの政策の本質を見抜いていたということ。地方の自民党が、多額の税金を地域の公共土木事業費用に回そうと尽力するのと同じこと。経済刺激にならないのは、はなからわかっているが、支持者に応える最善の策の一つであるのは間違いない。決して、愚策ではない。

 その観点で見ると、今回の全世帯へのクーポン券配布は、見かけはよく似ていても性格は全く違う。
 同じように思ってしまうのは、公明党が主張していた定額減税より、さらに一歩進めて、税効果特典が受けられない低所得層にも恩恵がある策を考案したように映るから。

 だが、低所得者への支援なら、「地域振興券」の方がずっと優れている。これがわからずに考案した施策ではないか。もしかすると、これは愚策かも。
 地域の中小商工業者に確実にお金が落ちないという程度ならよいが、「地域振興券」のように公平配布できないから大問題なのである。低所得者層を怒らすタネをばら撒く施策になりかねず、現実を全くわからない無知な為政者のくだらぬ施策と見なされる可能性は極めて高い。

 おわかりだと思うが、昔と違って、“世帯”は名目的な登録にすぎない。住民登録を怠っていたり、健康保険上の都合で世帯を同一にしていたりする。子供が都会に出てる家でも、世帯を同一にしている家もあれば、別な家もある。バラバラ。
 詳細は知らぬが、2兆円規模と言うのだから、1世帯4万円配るのだろう。だが、5名で1世帯もあれば、1名で1世帯もある。そのまま配れば、一人辺り8,000円と40,000円の差が出たりしかねない。多少是正したところで、不公平が生じるという本質は変わらない。世帯主でなかったから、全くもらえなかったと不満を漏らす人が多数でてくるのは避けようがない。そんな人から、政権に対する猛烈な怒りが発せられることになろう。低所得層の40,000円は金一封を超えているからだ。手取り時給800円なら50時間労働である。それこそ、1カ月のアルバイト収入だったりしかねない金額である。
 さらに厄介なのは、税金を払っていない外国人世帯の扱い方である。こちらは、もっと様々。どう扱うつもりだろうか。頭が働く為政者なら、こんなつまらぬ問題で躓きかねない施策を避けるのが普通である。

 それに、言うまでもないが、自民党を支える高所得層側が、管理コストばかりかかる一律バラ撒きを是とするとは思えない。こんな施策が消費を喚起すると考える人もいまい。他の手も無いから、なんでもよいと考える人と、麻生首相の個人的シンパ以外は、支持できまい。
 流石に、支持離れもこまるから、消費税引き上げ宣言をパッケージ化したのかも。

 一般常識でいえば、増税宣言は経済にマイナス。しかし、減税したところで家計消費増は期待薄だし、企業の投資マインドも変わりそうにないから、段階的消費税引き上げ路線の方が消費にプラスと見ようではないか、ということか。どうせ、どの政権になろろうが、増税以外に手はないから一理あると言える。
 どの道、衆議院選挙で与党が2/3の議席をとれそうにないから、これでビジネスマンの支持をとりつけておこうということかも。しかし、その支持は、予算の無駄なバラ撒きを断ることが前提。しかし、それができるとは思えないから、早晩、支持は落ちることになろう。

 そんなことがわかっていても、この路線を選んだのは、わからないでもない。無党派/とりあえず民主党支持の中流層は、それなりに喜ぶ可能性が高いからだ。この層は、自民党政治はどうにもならないと醒めた目で見ているが、クーポンはそれで大いに結構という姿勢を示す可能性は高いからだ。なにせ、経済的に余裕があっても破綻している保険制度に料金を多く払うのは御免被るという人達が多いのだ。経済刺激になろうが、なるまいが、お金をもらえるなら支持という姿勢を見せる可能性は高い。
 ただ、クーポン払いとは、税金による後日徴収ということを理解しているから、後日の選挙で自民党に票を入れないと思われる。しかし、民主党もバラ撒き路線と見ているから、どうなるかはわからない。この層を刺激するのは、政治家ならやってみたくなる施策だろう。

 まあ、どうあれ、こうした議論は、税金をどの位、どこにバラ撒くかという話でしかない。
 気付け薬の強さをどの程度にするかといった話。国力低下を止めることは不可能。もし、薬が効いた感じがすれば、それは没落を早めることになるし、たいして効かないならダラダラと不況が続くことになるだけのこと。
 今のままなら、早晩、雇用増出もできず、最低生活保障もできなくなるのは目に見えている。

 やるべきことは単純である。
 強い産業に渇を入れると同時に、将来性なき産業の新陳代謝を図ること。これができない限り、二度と経済成長の時代は訪れまい。
 前者からいえば、大企業は、MBOなどで、弱体部分を切り離すに限る。力があるなら自力再生できる筈で、無理なら清算。意味の薄い産業に貴重な頭脳を無駄遣いすべきでない。必要なのは、前向きな投資を促進させる仕掛けで、後ろ向きの現状維持策ではない。
 そして、没落産業の縮退化を進めるべきだ。“残り物には福”の状態を早く実現すること。小さくても収益性の高い企業が続出すれば、そこから発展の息吹も生まれる。こちられも実に単純な施策でしかない。当事者が将来の見込みがないと思っているビジネスへの支援を止めるだけのこと。
 この過程で生じる痛みの緩和薬を用意するのが政府の仕事だろう。大きな政府だろうが、小さな政府だろうが、そんなことは二次的な話。
 現政権は、どうしようもないビジネスをとりあえず潰さないことが、危機乗り切り策と考えているようだが、全く逆である。日本の場合は、こういう時しか、抜本的改革はできないからだ。
 今が、ラストチャンスだと思うが。

 --- 参照 ---
(国会議事堂の写真) (C) 東京発フリー写真素材集 http://www.shihei.com/tokyo_001.html


 政治への発言の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2008 RandDManagement.com