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2008.11.10
 
 


住宅ローン減税政策の意味…

 住宅ローン減税を“過去最大規模”にする方針が打ち出された。
 緊急対策の風情を醸してはいるが、できる限り大規模に、税金をばら撒けばばら撒くほど経済浮揚に繋がるという古い発想が根底にありそうだ。

 今までのパターンは実に単純。競争力ある輸出産業に頑張ってもらい、そこから得られた利益を、生産性が低く、人も金も過剰な国内の既存産業に回すだけのこと。従って、政府の一番の仕事は、米国と蜜月状態を作り、市場を開放してもらうこと。あとは、グローバルに活躍するビジネスマンに任せれば、経済成長を牽引してくれる訳だ。政策立案の要は、国内の弱体産業が倒れないよう、どのように税金を投入するかということになる。こちらも、業界毎に要求に応えて協議していればよかった。
 マインドセットされているため、このパターンがすでに成り立たなくなったのがわからないのか、政治基盤が弱体産業だから、同じことを繰り返すしかないのかは判然としないが、こまったものである。

 今まで行われて来た住宅ローン減税はこうした類の政策とは違い、国内消費刺激策ではあるが、すでにその役割を終えていると思われる。ただ、この制度が無くなれば一時的なマイナス効果がでるだろう。だが、現行制度延長程度で十分な筈。それを、わざわざ“過去最大規模”にしたのである。
 ここが、いかにもこの政権らしい。弱りきっている不動産業界からの要求に答え、その補助金を大きくすればよいというだけの政策に映るからだ。

 不動産業界が直面している問題はそんな小手先の助成金で、とりあえず息がつけるような類ものではあるまい。
 米国は、日本にデフレを輸出する可能性が高いのであり、住宅価格はこの先も下がらざるを得ない。これを止めるのは不可能であり、こうなったら何をすべきかを考えて、対策を打つのが為政者の仕事ではないのか。耳障りにならないエコノミストの意見しか聞かない政権なのだろうか。

 まあ、支持率が低すぎるから、「家庭の期待」を集めることもできず、こんな政策しか打てないと言ってしまえば実も蓋もないが。

 ともかく、住宅価格は高すぎるのであり、小手先のインセンティブ政策ではどうにもならないことを指摘することから始めるしかない。それは、弱体産業を直撃することになるが、それ以外の道は被害を大きくするだけだから致しかたあるまい。

 別に理屈だけで、こんな主張をしている訳ではない。これが、素人の実感なのである。

 毎日のように中古マンション不動産広告がどさっと来るから、自動的に情報が注入されるからと言ってもよい。その印象では、まだまだ高すぎるといわざるを得ない。
 ただ、最近の特徴からみると、まともな市場になりつつあるのかも。
 と言うのは、東京都港区の赤・白・青地区の80〜110平米クラスだけが、むやみに平米単価が高いから。一方、ブランド価値ありとか言われて来た流行地域やオフィス街に近い物件は、築浅物件でも単価が振るわないものが目立つ。
 小生は、その地域に住まざるを得ないと考える人がいるための現象だと見た。言うまでもないが、そんな場所は限られており、それ以外と大きな価格差がついて当然。ところが、今までは、一部が高騰すると、他も引きづられ値段が上がる。こんな現象は、熱狂でしかない。ようやくそんな姿勢が消えたということ。
 流行に乗ってなんとなく買ってしまう人は消え、無理せず、身の丈に合った物件を購入するようになりつつあると思われる。

 このことは、住宅価格はさらに下げざるを得ないということでもある。勤労所得水準と比較すれば、どう見ても無理な価格が多すぎるからだ。

 少し見てみよう。
 東京カンテイの首都圏中古マンション調査によれば、70平米換算価格は2005年10月は2,413万円である。これが上昇を続け、2007年10月に3,000万円を抜け、12月にはピークとされる3,404万円に達した。ところが、2008年9月で3,054万円。(1)まだまだ高止まりと見るのが自然ではないか。
 どうして下がらないかといえば、新築物件価格に引きづられているからだ。土地の仕入れ価格が高く、損切りすれば潰れかねない業者が多く、しかたなく高止まりしているということだろう。
 と言って売れなければ、資金繰りに窮して破綻し、債権者の建築業者や銀行が大損害を被る。それもこまるから、政府よなんとかしてくれ、という状況と言ってよいだろう。
 おわかりだと思うが、これに対して、“過去最大規模”の住宅ローン減税で応えたのである。

新設住宅着工戸数対前年比(2)
2007年1月〜9月 -14.4%
2008年1月〜9月  2.8%
 おそらくたいした効果はない。と言うより、不動産業界全体が益々隘路へと進まされる可能性の方が高い。一般に、トラップにかかってしまった産業に対して小手先の補助金を配るのは最悪なのだから。
 もしかすると、現状認識が違うのかも。

 例えば、2008年第3四半期、新設住宅着工戸数対前年比が増加したが、これでようやくもとに戻ったという見方かも。2007年の政府の稚拙な施策のお蔭で酷い目にあったが、曙光が見えたといったところか。

 2008年は106万戸程度で、これなら、2015年頃までは110万戸弱が続くと考えるということ。(3)

 だが、おそらく、そうはいくまい。こうしたマクロ経済の予測は大き目にでるという話ではない。輸出セクターが頑張ってくれ、国内の生産性低い産業がこれにぶるさがって食べていく構造が成り立たなくなればそうはいかなくなるからだ。新築家屋購入を目標に働くという慣習は消えざるを得ないのである。
 昔から語られていた、60万戸で十分説が俄然現実性を帯びてくるということ。

 人口が増え続けている“若者の国”米国にしてから、100万戸でもなんとかなるのである。それに対して、人口は増えない“老人の国”日本は、家の数は足りているのに110万戸だ。質が悪い家が多いと言ってもいかにも多い。

 まあ、2011〜2015年には年間平均約90万戸というところが素直な数字なのでは。(4)
 ここまで、落とすために産業をスリム化させることを目指すのがまともな政策とは言えまいか。その痛みを緩和させる以外に手はなかろう。

住宅地公示価格
年別変動率
[全国平均](5)
発表年
1月1日
変動率
2000年 -4.1%
2001年 -4.2%
2002年 -5.2%
2003年 -5.8%
2004年 -5.7%
2005年 -4.6%
2006年 -2.7%
2007年  0.1%
2008年  1.3%
 そして、長期的には、地価を下げる必要があろう。もちろん、住宅地に限らずだ。地価下落政策を採用すると宣言するだけでもよい。
 これができない限り経済再興はないと思われる。何をするにしても、投資の大半が土地に消えていくからだ。肝心な部分への投資を削る訳にいかないから、狭い土地を非合理的な使い方でなんとかしのぐしかない。
 従って、人への投資ができる状況にはないのが実情だ。これが、日本の競争力を削ぐ大きな要因であるのは間違いない。ここに手をつけない限り、国力は低下一途で復活は有り得ない。
 ともかく、使用価値とは無縁に土地が高額化しており、未だに、それが担保物件になる仕組みを壊さない限り一歩も進まない。と言ったところで、現実に変革に踏み切れば大混乱必至。反対者だらけなのは当然。だが、それが実現できれば、実際に土地を活用している人や組織にとっては税金が大幅軽減になるだけのことだから、本来なら、大歓迎の筈なのである。こうなって困るのは、使いもしないのに保有し、切り売りで生きている人だけである。

 ともかく、合理性を欠く値動きだけは御免被りたいものだ。右表は、住宅地公示価格変動率だが、これが妥当といえるだろうか。
 非合理的な方向に進めば、歪みは益々ひどくなるだけであり、そのツケは何時か必ず払わされるのである。

 --- 参照 ---
(1) 「9月 首都圏で前月比0.9%下落、6ヶ月連続で前月を下回る」 東京カンテイ [2008.10.17]
  http://www.kantei.ne.jp/release/PDFs/c200809.pdf
(2) 建築着工統計調査報告平成20年9月分 [2000.10.31]
  http://www.mlit.go.jp/common/000026309.pdf
(3) 伊豆宏/住宅・不動産市場研究会編集: 「成長する都市・衰退する都市―地価は上がるか、どうなる住宅需要」
  住宅新報社 [2008年4月]
(4) 「2015年国内建設投資は45兆円を下回り、新設住宅着工数は90万戸前後に縮小
  〜 2015年までの建設・不動産業の国内市場規模を予測 〜」 野村総合研究所 [2008年8月5日]
  http://www.nri.co.jp/news/2008/080724.html
(5) http://tochi.mlit.go.jp/chika/index.html#kouji
(家のイラスト) (C) Free-Icon http://free-icon.org/index.html


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