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2009.4.23
 
 


「経済危機対策」を読みかけて…

 「経済危機対策」について、ジャーナリストがどんな意見を述べているのか、気になったので、特に考えず、ある新聞社のウエブから関連解説と主張を読んでみた。ところが、論旨がよくわからないのである。こちらの頭がおかしいのか、新聞の質が落ちてきたのか。
 そこで、日本経済新聞を見たが、こちらはまともだったので、まあ一安心。

 と言うことで、ジャーナリズムを避け、直接原文を眺めてみた。(1)
 と言っても、一部だけ。「II. 成長戦略−未来への投資」という箇所である。それでも、6.2兆円と巨大である。

 3項目から構成されており、ざっと眺めただけだが、そこから読み取れるのは、1980年代のノスタルジー。簡単に言えば、欧米に負けるな的政策の羅列。

 最初の項目は“低炭素革命”
 革命と称し、未来への投資と触れ込んでいるから、真面目に取り組んだものかと思ったが期待外れ。ともかく、当該業界にお金をバラ撒けば、モノ作り企業が頑張ってくれるだろうというだけの代物。

 だいたい、“低炭素革命”の真っ先に【太陽光発電】が登場すること自体が、革命否定論者であることを物語る。
 日本には、空気が綺麗で晴天が続く地域は少ないし、山だらけで、太陽が降り注ぐ広い場所など皆無。しかも、現製品とは、高価な電力しか作れない代物。そんなものが電力需要をまかなえると思っているのか。(日本での太陽光発電の重要な役割は、冷房のピーク需要対応。大型発電所の効率的運用の意義は大きい。)
 欧州は、汎用技術を集めただけの、規模の経済力で戦う企業が優位に立てる施策を展開しているから、日本も負けずにという施策にすぎない。もちろん、ある程度必要ではあるが、革命とはほど遠い。
 未来投資と言うなら、リスクが高くて、規模の経済が働かない初期段階のプロジェクトを支援すべきである。そして、早く見極めをつけること。これ無しには、“革命”が近づく筈がなかろう。(日本の政治の仕組みを考えれば、この手の革命などないものねだりかも。)

 尚、この“低炭素革命”政策には「小水力の普及推進」というオマケもついている。水力発電は、メインテナンスと危機対応が必要だから、普通のやり方ではペイしないだろう。しかも、小規模な河川では水利権が複雑に絡むので、厄介そのもの。地方政治家好みのテーマではあるが。
  → 「マイクロ水力発電が広がる」 (2004.10.22)

 常識的に考えれば、低炭素化を本気で進めたいなら、原子力発電振興しかない。未来への投資というなら、ここでの“革命”勃発を狙うことだろう。オバマ路線(2)が進むなら、米露の核兵器削減(START更新)が進んでプルトニウムが市場にでてくるだろうし、核兵器拡散に繋がる再処理システムが必要なプルサーマルや高速増殖炉が嫌われるのはわかっていたこと。イラン問題解決に向けて燃料管理の仕組みも作ろうというのだから、そこを突いて、新たな構造を作り出すのが政治家の役割ではないか。
 例えば、現行の軍事技術と絡む発電方式から、プルトニウムを燃やし尽くす(核兵器製造に無縁な)トリウム軽水炉への転換を狙うのも一案だろう。これは、別に突拍子な話ではない。それなりの技術はすでに揃っている。(3)
 あるいは、すでに技術的に完成した小型の密閉原子炉を発展途上国で使うという手もあろう。(これなら、軍事転用できない。)
  → 「4S炉認可か」 (2005.2.18 + 2005.3.7[ご指摘追加])
 欧米は原子力発電技術者が激減したが、日本は温存してきたのだから、リーダーとして動ける力は十分にあることだし、海外を対象にした原子力発電事業を発展させることこそが、現実的な低炭素化の道だと思うが。

 二つ目にあがっているのが、【低燃費車・省エネ製品等】だ。
 日本の屋台骨である自動車産業が不調なのだから、支援ができるなら、願ってもないこと。
 だが、“車齢13年超車”を対象とした買い替え促進策。ドイツの成功の真似だとか。しかし、日本でそのような古い車を所有する層の中核は、中古車を下駄代わりに使っている人や、ともかく出費を抑えようと考える人ではないのか。高額な新車を購入する層とは思えないが。モデルチェンジが滅多に行われない欧州と日本は市場の状況が全く違うのではないかと思うが。まあ、末梢的な話だが、安直な政策立案であることは間違いなかろう。
 そして、相変わらずの政策が並ぶ。
 典型は、充電インフラの実証実験。まあ、斬新なアイデアが枯渇しているから、いつも同じものになるのだろう。1980年代でも、日本で電気自動車を走らせようと思えばできたのである。普及が進まないのは、技術の問題ではなく、政治的な問題。実証試験など、ほとんど意味はないだろう。
 “革命”が勃発すれば、自動車用ガソリンと自動車用エンジンに関わる産業は壊滅する。そんなことを腹をくくってやれるのかというだけのこと。
 まあ、それぞれの産業に、満遍なく、なんらかの補助金を配りながら、すこしづつ重点産業にシフトしていくというのが、日本の政治手法だから、その答えはわかりきったこと。

 三つ目が、【交通機関・インフラ革新】だが、昔の政策そのもの。全国に超高速新幹線網を作って、高速船の埠頭を津々浦々にという『夢』を未だに持ち続けていることがよくわかる。それに、とりあえず“低炭素革命”を接木したのである。
 接木も結構だが、成長を狙うなら、最初に交通ではないと思うが。そんな時代はとうに終わったのでは。
 地方の労働人口は激減していく。(移民流入策は止めたようである。)にもかかわらず、昔通りの経済成長を望むのは、はなから無理筋。だいたい、今やっていることと言えば、経済成長支援という名目の事業で、直接的な仕事を作り出しているだけというのが実情ではないか。その一方で、生産性が低いため退出せざるを得ない事業をできる限り守ろうとするのだから、事業家にとって魅力なき地域化の道をひた走りしているのである。
 これで優秀な人材が流出しなかったら奇跡に近い。この先どうなるかは、いわずもがな。
 地方は立派な建物が目立つが、周囲をよく見ると、清潔感が失われつつあることも多い。基盤が崩れつつあるのは確かだ。
 そんな状態で、国内“低炭素交通”機関を充実したら、成長どころか、お金を喰うだけのお荷物になりかねまい。

 四つ目が、【資源大国実現】。これが“低炭素革命”にどう繋がるのかはわからない。“石油等の上流権益確保への支援”が入っているからだ。
 お得意の、各産業への支援策列挙を上手くまとめるスキルも、流石に無理ということか。首相の権力を強める仕組みができても、全体構想を打ち出せる能力が無ければどうにもならない訳だ。と言うより、バラマキ路線の首相だから当然の施策と言うべきか。

 それにしても、今頃になって、“和製「水」メジャー”である。大きなチャンスはあったのに、政治家がまとめる力量がなかったから今の状態なのだと思うが。様々なレポートが出ているが、遅すぎるのでは。
 実力ある企業は、海外のビジネスの枠組みにバラバラと参加してしまっている筈で、今更壊す訳にもいくまい。ただ、金融危機で、枠組み再考はあるかも知れぬが。
 「水」に関心があるなら、そんなことより、国内のバラバラで非効率な自治体の水道事業の抜本的改革に踏み込んで欲しいものだ。使用量は増えないのだから、今のままなら、料金高騰間違いなしである。まあ、これは政治問題だから、とても無理か。

 “低炭素革命”の次は、“健康長寿・子育て”だが、ここまできて書く気力が失せた。
 ということで尻切れトンボだが、ご勘弁のほど。

 --- 参照 ---
(1) 「経済危機対策」 に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議: 「経済危機対策」 [2009年4月10日]
  http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2009/pdf/seisaku-010b.pdf
(2) “REMARKS BY PRESIDENT BARACK OBAMA” @Hradcany Square, Prague, Czech Republic [April 5, 2009]
  http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Remarks-By-President-Barack-Obama-In-Prague-As-Delivered/
(3) http://www.thoriumpower.com/



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