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2009.4.29
 
 


北朝鮮問題を考える…

 北朝鮮の独裁者の後継が誰になるか、相変わらずの報道が続いたのには唖然。思想性はおろか、人物像さえ定かでないのに、誰が本命かの話題が面白いものだろうか。しかも、どんな後継手続きかも皆目わからない状態で。いい加減な芸能ニュースよりたちが悪い。何のために、こんなニュースをしつこく流すのだろうか。
 大きな動きから目を離すための報道でないことを願うばかりである。
 と言うのは、2009年4月13日に、北朝鮮決議違反非難の議長声明を安保理が全会一致で採択したばかりだからだ。その反応を見ることをおろそかにしておいて、後継者話とは余りにひどすぎる。・・・と思っていたら、案の定、朝鮮中央通信が、29日、「撤回、謝罪しなければ、核実験や新たな大陸間弾道ミサイル発射実験を実施する」と、相変わらずの調子でニュースを流したようだ。(1)

 こうなるのは、素人でも予想の範囲内。
 ラブロフ露外相の北朝鮮・韓国の連続訪問の様子が報道されたからだ。(北朝鮮では、朴宜春外相/金永南最高人民会議常任委員長、韓国では、柳明桓外交通商相/李明博大統領との会談)
 半島発の報道を読むと、ロシアは以下のような姿勢で金政権に臨んだ模様。(2)
   ・6カ国協議の継続要請
    -協議離脱には一定の理解
   ・安保理決議1718号の遵守が地域安定の第一歩と主張
    -さらなる制裁には反対
   ・人工衛星打ち上げ権利の確認
    -ロシア内での衛星発射の提案
   ・日本の政治家の核武装化発言への非難
   ・露韓ガスパイプライン事業への反応観察
 だが、ラブロフ外相と総書記の会談は設定されなかった。友好関係打ち切りと言うこと。換言すれば、金政権は不退転の決意で、安保理と対決することを、ロシアに通告した訳である。
 このため、ロシアは、ガスパイプライン事業等の話し合いのための、露極東連邦管区大統領全権代表の訪韓もキャンセルせざるを得なくなった。(3)当然である。

 この動きの背景がわかるよう、ロシア-北朝鮮関係の流れを解説しておこうか。
 よく知られるように、冷戦崩壊後のロシアは、韓国経済との連携を優先させ、北朝鮮支援削減路線に転じた。そのため、当時のシェワルナゼ外相が総書記と会談できなかったのは有名な話。今回も全く同じである。
 その後、韓国政権が北朝鮮援助を打ち出したため、プーチン政権も北朝鮮友好を進めたので、関係修復が実現されたと言われている。しかし、ソ連時代の軍事同盟関係は解消されたし、武器も時価購入が要求されたと言われている。ソ連時代の社会主義圏内の友好国感覚は消滅したと見てよいのでは。(このことは、ロシアにとっての東アジアでの脅威は、米国から中国に変わったことを意味しそうだ。)
 ただ、関係修復と言っても、北朝鮮は、ロシアを、米国の力に屈し、東欧諸国の政権崩壊を是認した張本人と見ているに違いない。従って、ロシアを信用している訳が無いと思う。中国との関係が不味くなった時は、露は役に立つ存在だから、ないがしろにはできないという程度ではないか。
 つまり、ロシアの影響力はゼロ。

 さて、それなら、米国はどうか、見ておこう。
 オバマ大統領は、北朝鮮のミサイル発射に対して、“Violations must be punished.”(4)とプラハの演説で言い切った。しかし、結局のところ尻すぼみ状態。さらなる制裁などできる立場ではないから致しかたなかろう。(5)
 中/露が、さらなる制裁を加えたところで、北朝鮮の姿勢は変わることはないと考えている限り、米国だけが制裁したところで、致命的なダメージに繋がることはないから、動きようがないのである。オバマ政権には、この先、打つ手がないということでもある。中国に下駄を預けるしかあるまい。(こうなるのは、米国は、はなからわかっていたのに、“must be punished”と発言した。要注意である。)
 そもそも、中/露が制裁を嫌うのは自然な流れ。北朝鮮政権が経済的に行き詰まり、“窮鼠猫を噛む”状況に陥ることを、米国以上に恐れているからだ。特に、中国は、毛沢東の時代から、近代装備の米軍と人民解放軍の直接対峙を避けることを鉄則としてきた。ソ連も、代理戦争には熱心だったが、米国との直接紛争の種を撒かないように気をつかってきた。両国ともに、北朝鮮は緩衝役として不可欠と考えてきたし、その考えは変わっていないと思われる。
 それに、両国ともに、北朝鮮内部勢力への足がかりが皆無。このことは、金政権が倒れても、代替政権を擁立できないということ。それは、政権が崩壊すれば、何百万人もの難民が一斉に中露韓に流れ込むことを意味する。これは悪夢そのもの。
 地理的に離れている米国は朝鮮半島がどうなろうとかまわないだろうが、中/露は、そんな大混乱は御免被りたいというのは誰でも理解できよう。この観点で、制裁は建設的でないとの中/露の主張には一理ある。
 言うまでもなく、米国は、昔から、この点だけは十分理解している。中国に対して、チベット統治での人権問題は喧しく指摘するが、脱北者を難民扱いしない点については黙認なのだから。

 おわかりのように、結局のところ、制裁強化を主張しているのは、日本政府だけになる。下手に動けば、日本が悪者にされかねないかも。
 だが、それなら、日本政府が姿勢を転換し、すべての国が揃って制裁回避路線で進めば、成果が期待できるかと言えば、そんなこともない。金政権崩壊を防ぐ一方で、核放棄を迫るというのは、自己矛盾だからである。

 北朝鮮は東欧の軍事独裁政権の崩壊やフセイン政権壊滅を見せつけられた訳で、この教訓から、生存保証の唯一の手段は核武装と考えているに違いなかろう。核放棄など有り得ないということ。さらに、北朝鮮は、外貨を稼ぐためには兵器産業を使うしかない。核だろうが、ミサイルだろうが、何でも売ることになろう。ただ、対価を払えば、輸出を抑えることはできる。それ以上でもなければ、以下でもない。
 そもそも、安保理決議1718号(6)には、武器輸出禁止条項が含まれている。
 南朝鮮の軍事解放を掲げ、戦時体制下にある北朝鮮軍からみれば、老朽化した武器しかない状態が続いており、満足に戦闘機も飛ばせないのが実情だろう。核兵器に頼る以外に手はなかろう。従って、核兵器放棄とは武装解除と同義である。しかも、韓国が、李明博政権になり、韓国軍合同参謀議長が、攻撃されたら「敵(北朝鮮軍)が核(武器)を持っている可能性のある場所を確認し、打撃する」(7)と軍にとっては当たり前の話を、わざわざ公言したから、北朝鮮軍が無視する訳にはいかなくなった。核兵器増産とミサイル開発が国家の優先事項になって当然だろう。さらに、民間航空機や小型船舶・潜水艦を用いた特攻部隊編成等、なんでもありの状況と化している可能性はかなり高い。

 要するに、北朝鮮に核兵器を放棄させる手は極めて限られているということ。これが現実である。
 例えば、核兵器保有国(米・中・露)のみによる合同軍事演習で軍事圧力をかける手。もちろん、北朝鮮核兵器軍事施設破壊攻撃を想定した演習だ。その結果は、“窮鼠猫を噛む”か、さらなる“針鼠化”かも知れないから、かなりの冒険主義的なやり方ではある。結局のところ、米軍のピンポイント攻撃しかないという結論になるかも。
 そのような軍事的緊張の道を避けたいなら、やるべきことは一つしかなかろう。米国が北朝鮮と相互不可侵条約を締結し、問題の曖昧化を図るのだ。現段階では、少なくとも米国本土への直接脅威は無いから、問題を先送りするだけのこと。(これは、東アジアからの米国撤退のシグナルとなる。台湾法の有名無実化が進むことに繋がるのは必定。先端戦闘機を自衛隊には売らずに、生産停止にしたのだから、その可能性もなきにしもあらず。)

 おわかりになると思うが、北朝鮮問題を巡って、軍事大国、米・中・露がどう動くかで、日本の将来が大きく左右されかねない状況に来ているのである。

 ・・・このような、冷徹でいい加減な話を描いてみたのは、現実の世界は、平和外交が奏功したことなどなく、大国パワーのぶつかり合いであることを確認して欲しかったから。
 大国間のパワーバランスを注視していないと、えらい目にあうと言いたかっただけ。

 カンボジア国民の不運を想い起こしておくとよいかも。
 ご存知のように、米・中は揃って虐殺集団のポルポト派を支持した。ソ連-ベトナムに繋がるヘン・サムリン政権に対抗するためにはこれしかないというだけの話。中国に至っては、制裁と称して、ベトナム侵攻まで行った。ただ、老朽化した軍備の人民解放軍は最新装備に歯が立たなかったから、戦火が広がらなかったが。
 これ以前のカンボジアは、シアヌーク流のよくわからぬ“中立”国とされていた。要するに、風見鶏外交でどうやら政権を維持していたにすぎない。大国のパワーの狭間で、小手先の外交で生き延びるすべはなかったということ。
 金政権は、これを実感しているに違いない。なにせ、帰国できなくなったシアヌーク殿下を超厚遇で迎えたのだから。

 ついでにブータンも見ておくことをお勧めしたい。こちらは、国王の独裁国だった。鎖国政策を採用したため、貧困が定着した。(寿命は55歳。もちろん年間所得は20万円にも達しない貧国)(8)その不満を吸収するために、ネパール系住民の徹底的差別・弾圧を進めた。まさに、とんでもない専制君主である。難民増産だが、大国は知らん顔。緩衝役の役割があるので、政権崩壊はこまるから放置したのである。
 そんな国の国民が幸福度ナンバーワンだから、見習おうと叫ぶ人も少なくない。北朝鮮を理想郷と見なした人達と同じ思考回路と言わざるを得まい。

 --- 参照 ---
(1) “北朝鮮、核再実験や新たなミサイル発射に言及、安保理に反発” CNN Japan [2009.04.29]
  http://www.cnn.co.jp/world/CNN200904290020.html
(2) “ロシア外相「北、ロシアが提案した衛星発射支援を断る」” 中央日報 [2009.4.27]
  http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=114610&servcode=500§code=500
  “北朝鮮、6カ国協議への復帰の用意できていない=ロシア外相” ロイター [2009年4月25日]
  http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-37690220090424
  “訪朝のロシア外相、金総書記には会えず” 朝鮮日報 [2009/04/25]
  http://www.chosunonline.com/news/20090425000013
  柳明桓@ソウル: “日本の対応を批判=「隣の国で核論議」−ロシア外相” 時事通信社 [2009/04/25]
  http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2009042500007
  “訪朝のロシア外相が衛星打ち上げの権利支持と、北朝鮮メディア” CNN Japan [2009.04.24]
  http://www.cnn.co.jp/world/CNN200904240026.html
(3) “サフォノフ氏、訪韓直前に突然取消…天然ガスの協議日程狂う” 中央日報 [2009.4.28]
  http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=114655&servcode=200§code=200
(4) “REMARKS BY PRESIDENT BARACK OBAMA” @Hradcany Square, Prague, Czech Republic [April 5, 2009]
  http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Remarks-By-President-Barack-Obama-In-Prague-As-Delivered/
(5) 有元隆志: “「テロ支援国家」再指定検討せず 拉致被害者家族に米特別代表” 産経新聞 [2009.4.28]
  http://sankei.jp.msn.com/world/america/090428/amr0904280833003-n1.htm
(6) 国際連合安全保障理事会決議第1718号 和訳 [平成18年11月6日発行官報告示]
  http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/n_korea/anpo1718.html
(7) “合同参謀議長内定者「核攻撃の兆しあれば北を先制打撃」” 中央日報 [2008.4.27]
  http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=97970&servcode=500§code=500
(8) 【突然、神聖ローマ帝国時代のハプスブルグ家にまつわる話を取り上げた理由】
  「現代のハプスブルク帝国を考える」[2008.3.24]
  http://www.randdmanagement.com/c_histor/hi_018.htm


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