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2009.5.25
 
 


自民党と民主党の動きを眺めて…

 民主党代表選挙が終了したが、予想通りの結果だった。
 面白かったのは、自民党領袖のコメント。古い自民党を見ているようだというのだ。

 どういうつもりで発言したのかは定かでないが、ご指摘は当たっている。

 しかし、それは当たり前。
 鳩山新代表、小沢前代表、岡田前副代表ともに、自民党最大派閥だった“田中派”で鍛えられた政治家なのだから。だからこそ、統一性なき勢力を一つの党にまとめることができたと言えるのでは。
 “政権交代”という課題の一致だけで、組織を保つことができるのだからたいしたもの。以下のスタンスの人なら、どこの誰だろうが組織に取り込むことができるのかも。議員数こそ力との哲学と、包容力というか、驚くべき柔軟性はそうそう真似できるものではなかろう。
  ・官僚調整型政治から、政策選択型政治へ
  ・なし崩し軍事大国化路線から、憲法9条を活かした制度的自衛隊統治へ
  ・日米同盟型外交から、国連中心の自立外交へ
 自民党が“政権維持”で、バラバラな思想の勢力をまとめているのと、好対照と見ることもできよう。
 良くも悪くも、これが日本の政治の特徴なのだ。

 だが、この選挙での圧巻は、新代表が目指すビジョンではないか。・・・「愛のあふれる、凛とした国家」。
 “『友愛の社会』、全ての人が互いに必要とされながら社会に繋がっている、居場所をしっかり見つけられる社会”(1)をつくるというのだが、小生には、なにがなんだか、さっぱりわからぬ。
 「言語明瞭、意味不明。」の“田中派”竹下総理の伝統を引き継いでいるとしか言いようがない。
 そして、小手先の選挙技術と細かな表読みで勝利をもぎ取る手法に頼るのも、昔からの体質そのもの。

 時代感覚がある政治家なら、国民に人気がある岡田前副代表を全党で推すことで、大量集票を図るのが常識だと思うが、そんなチャンスを潰しても、小沢前代表の選挙スキルで戦う方が嬉しいし、その方が確実だと信じる人が多数を占めているのだ。
 それに、選挙で勝とうと思うなら、月曜日朝に代表選挙をもってきて、両候補で、土日のテレビ放送で徹底的に自民党の欠点をあげつらい、民主党の大宣伝をかけるのが鉄則。そして、月曜の株価でも上げたら政権奪取は確実だったのではないか。わざわざ、それまで、避けるのだから驚き。実に古臭い、密室政治がお好きな集団と言わざるを得まい。
 これでは、選挙で勝てないかも。だいたい、バラマキ政策と、どぶ板活動で、自民党の伝統的票田を崩す手法が、何時までも有効とは限らないのである。
 しかも、古い自民党だけでなく、古い社会党のセンスまで復活してきたように映る。(2)庶民に対してバラマキを行えば、消費が増えるので、経済低迷から脱するという経済思想が見え隠れする。本気でそう思っているのかネ。
 同じバラマキでも、自民党は各界の意見ご聴取で、政策に生かす姿勢を見せたのに対して、民主党はそれより素晴らしいバラマキと言うだけで、支持が集まると考えているとしたら、どうかしている。展望なきバラマキに映るかも知れないのである。(いい加減なものとはいえ、「低炭素革命」「健康長寿社会」「日本の魅力発揮」のキャッチフレーズが打ち出されているのだ。これを凌駕する魅力的なスローガンを打ち出すとか、画期的な雇用を守る方策を打ち出さなければ負けではないのか。そんな気迫は全く感じられない。しかも、経済界の意見を取り入れるつもりもなさそうだ。実に危うい。)

 そんなていたらくでも、民主党を支持する人がそれなりの数にのぼるのは、“政権交代”によって、古い政治の仕組みを崩せる可能性があるから。それ以上でもなければ、以下でもない。
 確かに、理屈では、社会制度変革につながる可能性はあるが、「友愛の社会」がそのイメージかと言われれば、なんともはや。この姿勢に、変革の情熱や創造性を感じる人は、まずいまい。

 一方の自民党にしても、どの領袖も麻生政権防衛しか頭にないようだ。これにも恐れ入る。
 高年齢層の支持を喪失している首相のもとで選挙を戦えば結果は見えていると思うが、人材難でどうにもならないようだ。まあ、とりあえす、バラマキという止血剤注射で経済崩落を防ぐことが選挙対策ということで意思一致しているだけに映る。

〜 自民党 党内派閥所属議員数(2)
[派閥] -町村- -津島- -古賀- -山崎- -伊吹- -麻生- -高村- -二階-
衆議院 62 46 51 38 20 16 14 13 42
参議院 27 23 10 3 6 4 2 2 6
閣僚 塩谷 鳩山
石破
小渕
金子
佐藤
甘利 河村
中曽根
【首相】
二階 与謝野
浜田
野田
舛添
党役員 細田
(谷川)
笹川
尾辻
(船田)
古賀
(園田)
(石原) 【総裁】 保利
 と言うことで、自民党がどうなっているのか気になってきたので、派閥の状況を調べたら、右表の状況らしい。

 田中派は、現在、津島派。小泉首相が執拗に弱体化を狙ったから、昔ほどの勢いは無いが、消滅するどころか存在感ある勢力ではないか。(与党が過半数を割っている参議院での議員数が鍵: 衰退したのは、池田→大平/鈴木→宮澤と続いてきた宏池会。)
 この派閥表を見てわかるのはそんなことのみ。そもそも、派閥毎の思想的違いがはっきりしていないから、人事抗争図を描く以上のことはできそうにないのである。こんな見方をしたところで不毛だ。
 そもそも、麻生首相にしてから、グローバル大企業中心の経済政策に関心があるようには見えない。にもかかわらず、総裁に選ばれた理由は、選挙の顔として役に立つということだけでは。それが裏目に出たのだが。
 まあ、民主党と体質的には瓜二つ。

 ただ、この表の参議院議員数は、役に立つ。派閥次元で、民主党と連携した新しい組み換えが発生しにくいことがよくわかるからだ。数の力にならない派閥ばかりだ。
 おそらく、民主党にしても、動きがでないのは、自民党と親和性あるグループの参院議員数では、たいした力にならないということだろう。

〜 自民党 政策傾向分類 〜
- 政治家 - - 性向 -
麻生、甘利
鳩山
伝統保守
(純正地方バラマキ路線)
石破
舛添
新保守
(合理的バラマキ路線)
与謝野 財政再建
(緊縮財政と増税路線)
中川、小池
石原
構造改革
(自由主義経済路線)
 そんなこともあり、日本の政治がどんな政治思想で動くかを考えるには、マスコミの流す「解説」報道にたよらざるを得ない。と言っても、曖昧な表現でよくわからないものが多いのだが。
 どうも、右表のように見るべきらしいが、裏づけになる論文がどんなものかわからないので、どこまで当たっているのかわからない。ただ、これはこれで面白い。
 問題は、この分類と派閥がどう係わるかだ。
 例えば、山崎-甘利-石原、町村-細田-中川、がそれぞれまとまって何を目標に動くというのだろうか。想像もつかない。
 なんとも不思議な組織ということになる。

 確かに、日本は、歴史や地縁・血縁が複雑に絡みあうから、ある程度は錯綜する。しかし、思想やスタイルはおろか、課題さえ曖昧な組織が成り立つとは思えまい。
 と言うことは、自民党が特異なのではなく、見方がステレオタイプなため、実像が見えなくなっているのではないか。
 例えば、新自由主義の政治グループなどもともと存在していないかも。職業政治家が、食べるために、都合がよさそうな思想を身にまとっただけと見ることもできるのでは。経済学などお飾りで、適当に使い捨てればよいと考えていそうだ。風潮に合わせ、どうにでもなる柔軟性を持っている訳だ。それが派閥組織の本質ではないか。
 そう考えると、自民党内を思想で分類するのは無意味ということになる。実態に合わせて分類する必要があろう。

〜 現在の自民党の実態分類 〜
- 流れ - 旧主流 旧反主流 補完 亜流 旧異端
- 構造 - 分野別専門家
の互助会
新旧社交界
の人材網
代理者(官僚)
の協議会
地域政治家
の意見交換会
資本家クラブ
の委員会
- 特徴 - 思想性希薄
(経済最優先)
強い国の追求
(大国化路線)
安定志向
(変化の抑制)
伝統重視
(国粋主義的)
“揺り籠/墓場”
(福祉国家)
- 手法 - 妥協
バランス
リーダーシップ
転換
調整
微妙な傾斜
固執
維持
ボス交渉
大胆
【防衛・外交】 経済圏防衛
(米国の枠内)
影響力行使
(存在感発揮)
効率優先
(ご都合主義)
誇りの発揚
(独自性の主張)
パワーバランス
(外交技術活用)
【経済】 票田エリアの重視
(弱体産業保護)
エリート活躍期待
(話題性嗜好)
重点産業の強化
(競争力重視)
地場産業の防衛
(外資排除)
資本家優遇
(福祉政策重視)
 そんな思いが深まるのは、派閥によって、行動様式が相当違うからだ。大きくは、右表の5つに分類できるのではないか。

 例えば、“田中派”とは専門家集団である。
 これを、悪く言えば、癒着し易い族議員の集まりだ。
 ただ、グローバル大企業が国を支えていることはわかっているから、そこら辺りを最優先し、後は、全体のバランスを図って、それぞれの「族」の領域に予算を分配することになる。その采配の仕方で国の進路が少しづつ定まるという仕掛けである。
 小泉政権はこの主流派の力を徹底的に削ごうとした。当然ながら、その副作用は小さいものではない。
 従って、このゆれ戻しの動きが高まって当然。これに応えないと支持を失いかねないので、異端勢力にお鉢が回ったのでは。それが麻生政権ではないか。おそらく、麻生首相の発想は、“揺り籠から墓場まで”の古き英国の保守スタイルだ。これが公明党との親和性が抜群な理由の一つではないか。
 つまり、麻生首相のバラマキ路線は、“田中派”流のバラマキとは考え方が違うということ。経営者の視点ではなく、古き時代の資本家的な発想から経済を眺めている可能性が高い。
 従って、橋本首相が道をつけた政治主導型政治も、お好みではないと思う。“揺り籠から墓場まで”の方向に進むには、一部の高級官僚と予算枠をサシで議論しながら、官僚全体をコントロールする体制が望ましい筈である。旧大蔵省の体制に戻っていく可能性は高い。

 要するに、麻生政権が歩んでいる道とは、英国病を生んだ路線そのもの。国内ではできる限り“揺り籠から墓場まで”を追求し、首相が率先して注力するのは外交分野になると思われる。世界のパワーバランスを見計らいながら、日本を上手く位置付けることで、国家の繁栄を導こうという考え方である。
 「族」議員集団とは方向が全く違う。党内で親和性が良いのは、強い国を追求する勢力になろう。

 おわかりになると思うが、民主党も同じように“揺り籠から墓場まで”路線に落ち込む可能性が高い。見かけ上、両者の政策は似たようなものになる。と言うことは、政策論議で戦う選挙にならないだろう。それぞれが勝手に作った対立軸で、論争するしかなくなる。こうなると、民主党の主張は霞むから、過半数に達しないかも。
 そこで、与党が政権を維持したりすれば、2/3条項が使えないから、国会は混迷に陥るだろう。そうなれば、参議院は真面目な政策論議を始めざるを得なくなる。それが新たな政治状況を作りだすきっかけになるかも。
 一方、与党も民主党のどちらも過半数を超えないと、不安定な民主党の連立政権が樹立されることになる。この場合、安全保障政策で政権内部の揺さぶりが発生する可能性大。その前に、“政権維持”でまとまっているだけの自民党から脱党グループが発生するだろうから、両者ともにガタガタ揺さぶられることになる。結局のところ、2010年に衆参ダブル選挙を行い、大きな組み換えを図ろうという動きが生まれることになりそうだ。
 新しい枠組みを提起する政治家が登場しない限り、日本の政治はどうにもならないところまできてしまったようである。

 --- 参照 ---
(1)  「【代表選】岡田、鳩山両候補 推薦演説および政見スピーチ・討論」[2009年5月16日]
  http://www.dpj.or.jp/news/?num=15941
(2) 民主党「生活・環境・未来のための緊急経済対策」(骨格) [2009年4月8日]
  http://www.dpj.or.jp/news/files/090408taisaku-kokkaku.pdf
(3) 自民党 党内派閥別 所属議員一覧 [as of 2009/5/14]
  http://home.a07.itscom.net/kazoo/seizi/jimin/habatsu_giinmei.htm


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