↑ トップ頁へ

2009.12.3
 
 


昨今の政治状況を眺めて[初代EU大統領の指名]…

古い欧州が復活するらしい。
 初代EU大統領にベルギーのHerman Van Rompuy[ ヘルマン・ヴァン・ロンプイ(1)]首相が指名されることに決まった。それも、“非公式”な“首脳”会議で。

 新代表の強みは、日本のメディアによれば以下のようなところ。(2)
   ・多言語対応能力: 母語[蘭語]+仏語+英語+独語と広い。
   ・調整能力: 仏語圏と蘭語圏の国内対立を円滑にまとめた。
   ・忍耐力: 地道に財政再建を果たし、「ミスター修理人(Mr Fixit)」と呼ばれる。
   ・EU内の政敵僅少: 小国が支持した。
   ・穏やか: 趣味が蘭語俳句である。

 そして、活躍してきたブレア英国元首相が、小国の右派に阻まれたことを示唆するような解説がつくのが基本パターンか。
 欧州の島国から見たらそうかも知れぬが、ちょっと違うのではないか。EUの発祥はもともとベネルクスである。だからこそ、首府もブリュッセル。
 象徴的人事としては妥当なところとは言えまいか。

 とは言うものの、初耳の名前だったので、人物紹介文(3)を見た。
 ほほ〜、といったところ。
 これは、古い欧州復活を意味しているのではないのかナ。
  【政党】 Christian Democratic and Flemish party
       (蘭語: Christen-Democratisch en Vlaams)
  【学歴】 Jesuit Sint-Jan Berchmans College
       Catholic University of Leuven[philosophy and economics]
  【宗教】 Catholic(トマス・アクィナス思想)

欧州のエリートはフラストレーションを感じていそうだ。
 問題は、何故、古い欧州復活に歩を進めようとしているのかだ。

 先ず考えられるのは、古い欧州の生活上の一番の悩みが、移民(イスラム)の増大である点。(地方の労働需要を考えると、都会ではのきなみ人口比率が数割に達しているのではないか。)
 文化的に交雑がなされないまま、イスラム人口が増え続けているため摩擦が発生している。欧州はキリスト教であることを打ち出す必要があるのかも知れない。方向転換が始まったかも。

 そして、加盟国拡大路線は再考されることになろう。
 間違ってはこまるが、これは、トルコからイスラム教徒が大量流入でもされたら大事だから、方向転換を図るという意味ではない。単なる地理的範囲の拡大だけでは、地位強化にならないから、ズブズブの拡大ではなく、強固な指導力が不可欠ということ。・・・その核が、「キリスト教の欧州」ということでは。

 おそらく、欧州のエリートは、EUの範囲拡大で、米国を凌駕する大国になれると夢想していたと思う。確かに、沈滞した経済は再興路線に乗ったかに見えた。
 だが、その一方で、政治的には、地位向上とは言いがたい状況に陥った。ブッシュ大統領に従うだけの欧州でしかなくなってしまい、負担だけは膨大なのに、世界的影響力は逆に低下したのである。

 これで、フラストレーションを感じなければ嘘である。

欧州の脅威は中国となった。
 さらに、この政治的地位低下と関係するのが、新しい“脅威”の登場だ。言うまでもないが、中国の勃興である。

 甘く考えていたから、衝撃を受けたに違いない。
 西欧にとって、冷戦終了まではロシアが敵国だった。それが、東欧がロシアから離脱し、その軍事的脅威を取り除くことに成功し、これからはEUの時代と考えてもおかしくなかろう。
 ところが、そうは運ばなかったのである。

 欧州の国民の目に、現代の中国がどう映るか考えれば、その経済的脅威がただならぬものであることはすぐにわかる。資源を血眼になって漁られるお陰で、資源価格は高騰しているし、その一方で、市場には安価な商品が流入し、雇用喪失の危機感を覚えない人はいないと思う。
 しかも、中国は、民主主義の仕組みではない。

 欧州のエリートは、絶対に口にしないだろうが、ベルリンの壁の崩壊は「西側の勝利」ではなく、「東アジアの勝利」になってしまったと感じ始めているのではないか。
 オバマ大統領訪中を眺めれば、そんな気分に陥っておかしくなかろう。
 それに、今や、欧州は資本主義と称しているだけで、とんでもない額を政府が投入しており、ここだけ見れば社会主義国家以外のなにものでもなくなってしまった。
 このままでは、さらなる地盤沈下必定と感じていると思われる。
 そうなれば、新しい流れを生み出す必要があると考えておかしくない。

新しい欧州から、古い欧州へと進むとどうなるのか。
 そんななかで、バリバリのカソリックの大統領登壇の意味をじっくり考えておく必要があるのでは。
 ポイントは2つありそうだ。

 一つは、プロテスタント型のグローバル経済への対応では、勝ち目が無いという感覚が強まっていることへの対応。
 新規課税を図るらしいが、(4)これは、EU政府の基盤を強化し、官民一体となって産業政策を強化する目論みでは。
 韓国が進めてきたような、特定の大企業を国家があからさまに支援することもありえそうだ。ブレア元首相 v.s. Van Rompuy首相の争いというマスコミの表現はその点では正しいかも。

 そもそも、人事からして、“at a meeting of the secretive Bilderberg group of top politicians, bankers and businessmen.”なのだ。政財のエリート統治に踏み切るということでもあろう。

 二つ目は、新しい欧州問題。
 プロテスタントでもないのに、親米一色に染まってしまった。これが、欧州の政治エリートが面白い筈がなかろう。
 もともと大陸の人々に親米意識などなかった筈。どちらかと言えば反米体質が濃厚で、対ロシアでしかたなしの同盟というところではないか。ところが、それが根底から揺るがされた。
 脅威だったロシアは、欧州に戻ったといえば聞こえがよいが、原油バブルの幻想強国でしかないことがはっきりしてしまった。お粗末なインフラだし、技術投資も欠落しており、貧困は広がる一方。BRICsのなかの敗者と見て間違いないだろう。政治闘争が始まってもおかしくない。
 そんなロシアと組めば。EUは負け組化必至。

 なんだかんだ言って、米国は中国と組んで、勝ち組に残ってしまうのに、なにが親米だというのが、本音ではないか。

 従って、先ず始めそうなのは、中国に雇用を奪われないような画策か。
 そして、グローバルで圧倒的優位を誇れるグローバル欧州企業を支援することに力を注ぐことになろう。それに沿った形での、環境政策が打ち出されるということか。
 こうなると割を食うのは日本の可能性濃厚。

 --- 参照 ---
(1) “非公式EU首脳会議” EU News 306 [2009/11/19]
   http://www.deljpn.ec.europa.eu/modules/media/news/2009/091119.html
(2) 木村正人: “俳句が趣味の「ミスター修理人」 初代EU大統領のファンロンパイ氏 ” 産経新聞 [2009.11.20]
   http://sankei.jp.msn.com/world/europe/091120/erp0911201103003-n1.htm
(3) “FACTBOX-Who is Herman Van Rompuy?” Reuters [Nov 19, 2009]
   http://www.reuters.com/article/rbssFinancialServicesAndRealEstateNews/idUSLI45257420091119
   “Portrait - Herman Van Rompuy est le premier president stable du Conseil europeen.” TF1 [18 novembre 2009]
   http://lci.tf1.fr/biographies/herman-van-rompuy-5539990.html
(4) “Herman Van Rompuy, front-runner for presidency, wants EU-wide tax” the Times [November 17, 2009]
   http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/europe/article6919380.ece


 政治への発言の目次へ>>>     トップ頁へ>>>
 
    (C) 1999-2009 RandDManagement.com