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2010.1.20
 
 


北朝鮮が崩壊前夜だとしたらどうするのか…

人民軍がおかしい。
 2009年1月17日、北朝鮮人民軍の大規模な陸海空合同軍事演習を、総書記が視察したと国営朝鮮中央通信が報じたという。メディアが軍事訓練を報道するのは異例。(1)
 15日には、国防委員会の韓国への報復聖戦声明を出しているので、マスコミの論調は韓国揺さぶりというものがほとんど。
 しかし、対外用メディアだけでなく、国内メディアにも流したらしいから、多分、そんな話ではない。
 労働党による政治ではなく、軍が直接権力を行使する体制に移行するということかも。

 と言うのは、1月9日、労働新聞に、総書記が、「永遠の(金日成)主席は、人民が白米と肉の入った汁を食べ、絹の服を着て、瓦屋根の家に住めるようにならなければいけないと言った。しかし、わが国はまだこの目標を達成できていない。できる限り短期間のうちにこの問題を解決し、永遠の主席の遺志を実現したい」と語ったことが掲載されたから。(2)
 具体的な内容がよくわからないからなんとも言い難いが、実に、おかしなニュースである。
 いかにも、核武装で「政治的、軍事的」に強国になったが、それで何を得られたのかという批判にも聞こえるからだ。先軍政治体制批判ととられてもおかしくなかろう。
 最高権力機関である国防委員会が、こんな報道を黙認するとしたら、権力崩壊が始まったようなもの。

 人民の生活がどれほど苦しかろうが、軍事優先を崩さないのが、軍事独裁国家の鉄則である。これが壊れたら、政権は崩壊する。赤軍が力を失った瞬間、ソ連は瓦解したのである。それを見てしまった人民軍が黙っている訳がなかろう。

先軍政治に戻るのも難しいのではないか。
 しかし、軍事独裁強化路線への復帰とは、政権瓦解路線を意味する。と言うのは、総書記自ら、軍優先でなく、軽工業と農業を振興し、生活優先の方向に振ると発言したことが流れてしまったからだ。これで、元に戻すとなれば首領の権威は無くなってしまう。
 ついに、そこまできたのである。
 今後、権力基盤は一気に弱体化していくと見てよいのではないか。

 もともとこうなったのは、2009年のデノミ政策導入で、国内経済がどうにもならなくなっているからだと思われる。
 インフレが止まらず、中国貿易での利潤によって新興成金が生まれ、権力基盤を揺るがしかねないから行ったものだろうが、その副作用は甚大ということ。

 国内の需給バランスはとうに崩れており、インフレはもともと避けられない。その国内生産能力不足を補うように中国から大量商品が流入している訳である。
 その状態で、よりにもよって、外貨の国内使用禁止措置。いかにも独裁政権らしい、ピント外れの自滅政策。
 外貨は売却するか銀行預け入れしかできなくなれば、短期的には政府の外貨支払い能力は向上するが、そんな効果はほんの一時。ヤミドルが事実上の通貨だから、ドルの価値が急上昇するだけのこと。政府に為替水準を決定できる力などない。
 中国の商品は為替の実勢価格で入ってくるから、国内価格暴騰は防げない。暴力的なインフレに襲われることになろう。

 交易成金層の蓄えを国家が奪えばなんとかなると勘違いしたのだろうが、まがりなりにも経済を支えていた層を叩いたのだから、経済は一気に沈む。軽工業と農業振興と叫んだところで、単なる精神論だから、ますます経済は低迷するのは間違いない。

 状況が好転どころか、経済で沈没しそうなので、人民軍が動き始めたのだろうが、それはさらなる状況悪化しかもたらさないだろう。
 最悪、この悪化の原因は経済制裁ということで軍は暴発するかも。そんな方向に進まれると、金一族支配の終焉に繋がるから、それを止めるために必死に動くだろうが、どこまで威光が届くかはなんともいえない。

 なんとも危険な状況。
 と言って、海外が騒いだところでなにも変わらないが。

政権崩壊は恐ろしい話。
 北朝鮮崩壊論は山のようにあるが、たいていは、信用度ゼロのデータを用いたもの。ストーリーも単純。経済が落ち込み、民の生活が苦しくなっているので、そのうち大規模な政権離反が発生するという願望だけのもの。こんなもので議論するのはよした方がよいと思う。 (尚。最近は説得力がある説も登場している。(3))

 この手の主張はわかり易いから、どうしてもそちらに流れるのだろうが。こと北朝鮮には関しては、当てはまらないのでは。
 敵国との緊張関係を煽り軍事独裁を続けることさえできれば、1,000年王国も可能かも知れないと考えるからである。主体思想と首領様神秘信仰が完璧に根付いていたとしたら、あり得ないことではなかろう。
 要するに、餓死者がいくらでようと、敵に従うことなど絶対にしないとの決意が津々浦々行き渡っているということ。そして、その苦境を首領様がいつか救ってくれるという信仰が生き続けているなら、経済危機で政権が揺らぐとは思えまい。

 ところが、金政権は、その思想基盤を覆すような動きをしてしまった。上述した、2009年1月15日のニュースは、その点で衝撃的である。首領自ら、先軍ではなく、生活優先するような言葉を発してしまったからだ。これでは、今までの我慢はなんだったのかということになりかねまい。政権維持にとって致命的な失策かも。
 デノミの副作用が強烈だったのだろうか。あるいは、EUがキーマンの移動をできなくしたので、金一族の統治システムが機能不全になりそうなのであせったか。

 冷静に見れば、この変化のきっかけは、李明博大統領の太陽政策に対する姿勢だろう。
 北朝鮮にとって見れば、これは経済問題ではなく、思想問題であるから、相当響いたのだと思う。ご存知のように、金政権は、韓国政府を正統政府と見なしていない。独立を勝ち取った政府ではないからである。朝鮮半島では、独立を実現した故金日成国家主席の政府にしか正当性はないと考えているということ。儒教の国にとっては、国家の正当性はなににもまして重要であり、これを軽く考えるべきでない。
 故金大中大統領は会談に当たって、この歴史認識を共有した可能性が高い。つまり太陽政策とは、正統政府へ貢ぐ行為そのもの。
 しかし、李明博大統領は、そんな発想を微塵も感じさせない姿勢を示した。おそらく、日韓闘争のリーダーとしての自負があるからだろう。
 そうなると、北朝鮮はつらい。人道的援助を韓国から受け取れば、正統政権としての面子丸潰れなのだから。首領様神秘信仰は大きく傷ついてしまう。

 ともあれ、首領様が方針転換を口に出してしまった以上、神秘信仰は消えていく。そうなると、金政権は崩壊の道を歩むしかなかろう。

 この流れを喜んでよいかは、なんとも言えない。
 政権が崩壊すれば、恐怖の大量難民流出必至だからである。核兵器や関連施設の管理も厄介そのもの。
 そして、この国を誰が管理していくかも大問題。
 まあ、とりあえずの治安維持には人民解放軍の派遣しかなかろう。すぐに国連安保理の了解のもとに中国が動けるような密約はありそうだが、その先は何も決まっていないのでは。誰も、語りたくないということでもあろう。

 韓国との統一というのが筋だが、東西ドイツのようにはいかない。交流らしきものは形だけだし、北の人口は膨大で、南北の生活水準の差が余りに開き過ぎているからだ。
 従って、その費用たるや、恐ろしい水準。どの推定を見ても、膨大な数字である。(4)これを誰が負担するのか。考えるだけでゾッとする。
 当然ながら、日本に、一番先に奉加帳が回ってくる。
 そろそろ、その時、どうするか考えておかなければいけなくなったようだ。

 --- 参照 ---
(1) “北朝鮮の金総書記、3軍合同訓練を視察 異例のメディア報道” AFP [2010年01月18日]
   http://www.afpbb.com/article/politics/2683748/5183690
(2) “金総書記、国民が「肉入りスープ」を食べられないことを嘆く” AFP [2010年01月09日]
   http://www.afpbb.com/article/politics/2680841/5142447
(3) Ralph Hassig/Kongdan Oh(Speakers): “The Hidden People of North Korea: Everyday Life in the Hermit Kingdom”
   Brookings Institution [November 10, 2009]
   http://www.brookings.edu/~/media/Files/events/2009/1110_north_korea/20091110_north_korea.pdf
   GORDON G. CHANG: “Finding Truth in the North Korean Fog” WSJ [JANUARY 6, 2010]
   http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703436504574641082982104094.html
(4) PETER M. BECK: “Contemplating Korean Reunification” WSJ [JANUARY 4, 2010]
   http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704340304574635180086832934.html
   “MANAGING THE COSTS OF KOREAN REUNIFICATION?IF IT OCCURS”RAND 2002年
   http://www.rand.org/pubs/monograph_reports/MR1571/MR1571.ch38.pdf
   Colonel David Coghlan: “PROSPECTS FROM KOREAN REUNIFICATION” SSI(米陸軍) [April 2008]
   http://www.strategicstudiesinstitute.army.mil/pdffiles/PUB859.pdf
   “Korean Reunification 'Will Cost $5 Trillion'” Chosun Ilbo [Jan. 05, 2010 ]
   http://english.chosun.com/site/data/html_dir/2010/01/05/2010010500269.html


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