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2010.4.26
 
 


昨今の政治状況を眺めて[民主党は何をしたいのか]…

鳩山降ろしが盛んではあるが。
 民主党支持率が急落している。
 と言っても、ビジネスマンはたいした関心はないかも知れぬ。予算が通ったし、中国の旺盛な需要で景気が持ち直して一息ついたからだ。気がかりなのは、資本市場が国債を消化できるかの方。自民党政権が続いていたとしても同じことは遠からず発生した訳だから、時期が早まっただけのことではあるが。
 その自民党だが体質転換の兆しは皆無。当然ながらこちらも支持率低迷。

 そんな状況で、元気なのはマスコミ。
 鳩山おろしの風を作ることにご執心。民主党は衆院をおさえている訳だから、内部分裂しない限り、いくら仕掛けても奏功するとは思えないが。
 それに、公明党が刺激的な批判を避けており、民主党が参議院選挙でボロ負けしたところで、連立組み換えという手もありえる。支持率低下は、野党なら死活問題だが、鳩山政権の国内存立基盤を揺るがす訳ではない。

 ただ、この首相、資質に問題あるのは間違いない。
 前言とは異なる発言が余りに多いし、どのような方向に進もうとしているか伝える能力も低いからだ。もともと、“友愛”という一般に通じない曖昧な用語を連発するだけで、具体的に何をするのかのイメージがさっぱり湧かない話しかしてこなかった政治家だから、当初からわかっていたことではあるが。
 それにしても、この首相の外交や安全保障の話は最悪である。漠然とした共同体構想以外、まともに方針を説明する気がないようで、これでは議論の喚起どころではない。実に、こまったものである。

 組織内外の様子を眺めながら、落としどころを探っていく、言語明瞭意味不明瞭の竹下首相の一番弟子なのかも。本人にしてみれば、オープンな議論を推奨しているから違うと思っているかも知れぬが。
 ともあれ、“・・・の思いをしっかり受け止め”とか、“・・・責任を重く受け止め”という意味がない用語を連発する。何を考えているのかわからず、気味悪し。
 そんな印象を与えるのは、時として薄笑して話す癖のせいもある。首相就任後消えていたが、又、復活。

一番の問題は、危機感欠如からくる、政治的課題の優先順序の曖昧さ。
 これを一言で言えば、思想性を感じさせないということになろうか。

 従って、米国の新聞で叩かれるのも無理はない。
 New York Timesの時は猿の集団操縦ですんだが、ついにはWashington Postでクルクルパー化を深める首相と書かれてしまった。
“Bureaucrats who once ran the country like the autopilot on a jumbo airliner now openly complain that monkeys (politicians) are in the cockpit.(1)
“By far the biggest loser of the extravaganza was the hapless and (in the opinion of some Obama administration officials) increasingly loopy Japanese Prime Minister Yukio Hatoyama. He reportedly requested but got no bilat. The only consolation prize was that he got an "unofficial" meeting during Monday night's working dinner. Maybe somewhere between the main course and dessert? ”(2)

 後者は、どの国の指導者も米国大統領との会談を行ったことで存在感を示そうとしている現象を、嬉しがって書いただけの中身の薄い記事と言えないこともないが、それこそが重要なポイントでもある。こうした実態を日本の政権だけが余り理解していないことを指摘しているともいえるからだ。
 時あたかも、岡田外相が国連の安保理事会議長として“独自”な視点での采配を目指しているのも、米国にとっては大いに気に障るところかも。G8外相会合では、「核保有国との見解の相違を乗り越えられなかった」(3)とのことで、要するに日本は浮いているのである。
 核抑止力の考え方が日本の政権だけ違うのかも。例えば、核搭載艦船が存在しないなら、核の傘は無くなったとも言えるのだが、鳩山政権はそうは考えないといったようなものか。
 それと、国力が落ちており、注目を浴びる国でない状況もわかっていないのかも。

 ともあれ、Wall Street Journalに、内閣支持率の低い数字とともに、日本の大新聞が一面で首相を“thoughtless and light weight”と呼んだとの記事が掲載されてしまったから、(4)米国政権からまともに相手にされなくなるかも。

 そもそも、米国から見れば、鳩山政権のこうした“独自”姿勢を不快に感じるのも無理からぬところ。普天間基地移転や核持込密約での対応を見る限り、米国から見れば、何をしたいのかさっぱりわからないからだ。
 と言うか、沖縄の反基地運動に火を付けることで(反対の県民は半数を越える程度だったのが、今や9割を越える状況。知事まで反対派に追いやった。)、海兵隊の日本追い出しを図っているとしか見えまい。長期的には、日米同盟を解消し、日米関係を、中米関係のように変質させるべく画策しているように映っておかしくなかろう。
 流石にそれでは不味いということで、県民大会前に、岡田外相がRoos駐日大使へ解決案を示したという話もでてきた。“idea”でなく、“proposal”。一部変更はあるものの、ほぼ現行計画通りだというのだ。(5)
 外相はそんな提案はしていないと否定したようだが、(6)現行計画の簡素化でなんとか折り合えないか探ったのを、米国からリークされたということか。

 鳩山首相の本心はわからぬが、この政権は、当面の最重要課題を、“密室的協議をできる限りオープン化”と設定しただけかも。それが日本を変えるきっかけになると考えていたりして。(政治家のことだから、基地国外化を匂わせ、結局、沖縄に決着させることで、社民党を分裂させようとの目論見だと思ったら、どうもそうではなさそう。)
 まともな政治家なら、衆議院で絶対多数を占めたのだから、仕掛けるべきは日本経済の建て直し。構造改革しか考えられないが、それは大手術になる。
 それを始めるためには、とりあえず安全保障は米国依存のままに、できそうなことをさっと片付け、手仕舞いにして日米関係を安定化させることこそが急務。自民党型米国追随外交を止めたいという観念論で動いたところで、日本沈没を止めるどころか、加速しかねないのがわからないのかも。
 それとも、危機感が全く無いのか。

これは、首相だけの問題ではなく、内閣全体の問題。
 これは、外交・安全保障だけの話ではない。
 税制改定にしても同じようなもの。個々の税制をいじくり便宜を図る自民党型施策を止め、税制全体の見直しを始めようとの正論を展開するつもりのようだ。学者感覚の政治姿勢であり、その危機感欠如には驚かされる。
 以下のような方針のようだ。(7)
  ・税収不足が一番の問題。
    法人減税と所得税の累進性の緩和によって発生したから、税率を上げるのが正論。
    政治的に難しいなら、課税対象を増やすしかあるまい。
  ・再配分で重視すべき分野は、社会保障である。
    先進国では、セーフティネットを構築することで、活力が生まれる。
    現状の再配分方式は貧困層と非貧困層の差を広げかねない。
  ・公共サービス充実には増税が必要。無駄を削る話とは無関係である。
    福祉関連費用を削るなどもってのほかである。
  ・公共サービスは、国民全体の負担とすべきである。
    財源としては、柱としての消費税と所得税。補完が環境税。

 信念のおもむく税制を導入するのは嬉しいだろうが、それで日本経済を成長軌道に乗せることに繋がるのか考えて欲しいものである。グチャグチャ税制を正すのは悪いことではないが、錯綜しているだけに、個々に様々な副作用が一斉に発生するのは間違いない。それを上手く飲み込める力が日本の産業に残っているか考えた方がよかろう。それに自民党以上に副作用を恐れる政権だから、徴収額を増やす以上に、バラ撒き額が増えることになるのは見えている。
 日本建て直しの最優先施策をはっきりさせ、エイヤー的増税の当座しのぎで進むしかないのが実情ではないのか。政治とは妥協であり、手を抜くことでもある。これを政治主導と呼ぶ。
 日本の産業構造が時代に合わなくなっているのに、それには手を付けず、正論で税制改革を打ち出せば経済低迷の道に迷い込む可能性は高い。しかも、産業構造を抜本的に変えるために有能な官僚の力を結集させるべきところを、逆に官僚排除の方針を貫くというのだから恐れ入る。

 税金の徴収/分配の仕方をいくら工夫したところで、企業が儲かる方向は避けるのだから、産業の競争力は下がる一方。そして、雇用は失われ続ける。観念論を振り回したところで現実はかえようがないのだ。
 ここでも普天間問題と同じような議論をしたいのかも。

 しかも、この内閣は、経済の実態を理解していない可能性がある。
 厚生省の年金に関するレポートを見れば誰でもがゾッとするのでは。長期の経済前提に、夢のような数字が並んでいるのだから。・・・物価上昇率1.0%、名目賃金上昇率2.1%、名目運用利回り3.9%、全要素生産性上昇率0.7%。(8)なんと“経済低位ケース”である。つまり、これからも国債大量発行と税金バラ撒きを続けることができると見ているのだ。

 こんな飾りものの数字を出させる大臣がいるのだから、民主党政治家に危機感があろう筈がなかろう。

 --- 参照 ---
(1) Al Kamen: “Among leaders at summit, Hu's first” WashingtonPost [April 14, 2010]
  http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/04/13/AR2010041304461.html
(2) VICTOR D. CHA(columnist): “Focus on Policy, Not Politics” NewYorkTimes [January 7, 2010]
  http://www.nytimes.com/2010/01/08/opinion/08iht-edcha.html
  [V. D. Cha] director of Asian Studies at Georgetown and senior adviser at the Center for Strategic and International Studies
  (director for Japan and Korean affairs on the National Security Council [2004-2007])
(3) 今堀守通: “【G8外相会合】岡田外相、核軍縮で主導できず不満 会見質問ゼロにすね気味” 産経新聞 [2010.3.31]
  http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100331/plc1003311909026-n1.htm
(4) YUKA HAYASHI: “Japan's Prime Minister Slips Further in Polls, to 25%” Wall Street Journal [APRIL 20, 2010]
  http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703757504575193833123910608.html?mod=fox_australian
(5) John Pomfret: “Japan moves to ease strain with U.S. : Proposal aims to settle the allies' dispute over Okinawa base relocation” WashingtonPost [04/24/2010]
   http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/04/23/AR2010042305080.html
(6) “辺野古埋め立て、首相が全面否定 政府はくい打ち方式の浅瀬案検討” 産経新聞 [2010.4.24]
  http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100424/plc1004242324016-n1.htm
(7) 「聞きたい:政府税調・専門家委委員長、神野直彦・関西学院大教授」[聞き手:赤間清広]毎日新聞 [2010年2月4日]
  http://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:HVX2ILbWATIJ:124.83.171.152/select/biz/archive/news/2010/02/04/
  20100204ddm008020022000c.html+%E8%81%9E%E3%81%8D%E3%81%9F%E3%81%84%EF%BC%9A%E6%94%BF%E5%BA%9C%E7%A8%8E%
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  =2&hl=ja&ct=clnk&gl=jp&lr=lang_ja
  「地域主権で地方はどう変わるか」日本経済研究センター (2010年3月15日)
  http://www.jcer.or.jp/seminar/kikusemi/detail1460.html
(8) 厚生労働省年金局数理課: “平成21年財政検証結果レポート
   ―「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し」(詳細版)―”[2010年3月]
  http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/zaisei/report2009/pdf/all.pdf


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