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2010.6.21
 
 


参院選の票読み…

 早くも、選挙モードに突入したようだ。
 この土曜日には、候補者らしき人のチラシが郵便物に紛れ込んでいた。立候補者もよくわからないというのに、当選者予測の床屋談義も始まっているとか。
 折角だから、本サイトも、議席数予想といくか。
【本サイトは、特定政党や特定政治思想の支持をお勧めしている訳ではないので、お間違えなきよう。狙いは、あくまでも「ガツンと一発」、「判断力向上のための一助」の方。政治は題材としての一つ。色々な価値観を知ることや、視野の広さで判断が180度変わることを学ぶには最適な分野。】

〜 菅内閣は信頼感の醸成に成功した。 〜
 まず、民主党の支持状況を考えてみよう。
 全般的に見ると、新内閣の評判は上々である。脱旧自民党体質が評価されたということだろう。

 その状態で、経済成長を重視することを示す2つの動きが加わったったから、支持基盤が急拡大したかも。選挙対策としては秀逸と言えよう。
 こうなると、安全保障上の問題が発生でもしない限り、自民党への期待感は霧消しそうだ。

 二つの動きのうちの一つは、中国大使に民間人、それも商社マンを登用する話。鳩山前首相は官僚外しにご執心だったし、安全保障問題に関心が薄かった人だから、その流れに外相が合わせただけという気がするが、たいていの人は驚いたに違いない。これだけで相当な効果である。
 従来型政治では難しい人事だからだ。利権問題発生のリスクが気になるし、ポストをあてがわないと組織を動かす上で困難が生じかねないから、普通は躊躇せざるを得ない。いかにも、新政権だから可能な人事といわんばかり。多くの人は、これで中国に対して言うべきことは言うが、中国市場を重視した経済成長重視路線を歩むことになりそうだと受け取ったに違いない。
 もう一つは、言うまでもないが、産業界と緊密な連携を図る姿勢を見せたこと。特筆ものは、6月8日の民主党幹事長の日本経団連会長表敬訪問。政権交代後初めて。(1)
 残る課題は、金融市場との意思疎通だけか。首相の唐突な消費税発言は、ここら辺りを意識したものだろう。

 ともかく、自民党と正反対の姿勢を見せるだけの路線からの決別効果は大きい。その上での、「新成長戦略」発表。間髪をいれず、首相・官房長官・経産相と経済3団体トップ間会合を設定し、「新成長戦略」を説明の上、“政策対話実施を確認”。(2)
 好意的に受け取られて当然の流れであるし、タイミングも絶妙と言えよう。
  ・「新成長戦略」がまとめられたことを歓迎する。
   菅政権が、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」の一体的な実現をめざす方向性に共感を覚える。”(3)
  ・“日本経済が抱える主要課題の解決に向けた取組みについて、定量的な目標や実施の時間軸を含め、
   具体的な形で示されたことを評価する。”(4)
  ・“需要サイドのみに重点を置いた考え方を転換し、供給サイドにも目を向けた戦略となっていることは、
   真に持続的な経済成長の実現をめざす上で心強い。”(5)

 「共感を覚える」や「心強い」という言葉がが示すように、政権党として十分な働きをしてくれそうだとのお墨付きをもらったということ。自民党政権が躊躇してきたものも含まれているし、まあ妥当なところと見なされたのである。
 従って、反応としては、これで結構だから必ず実行しろとか、タイムラインと数値目標を早くはっきりさせろ、といったものになる。企業経営者と波長が合ってきた訳だ。
 まあ、冷静に見れば、相変わらずの政府主導の産業政策路線なのは否めずではあるが、それだからこそ、多くの人の耳に心地よく響くのである。政治的には大成功だったと言えよう。

〜 対自民党では、民主党が圧倒的優位にたったのは間違いない。 〜
〜 60歳未満の大臣 〜
- 大臣 - - 生年 -
岡田外相 1953
野田財務相 1957
原口総務相 1959
前原国交相 1962
長妻厚労相 1960
小沢環境相 1954
玄葉公務員制度改革相 1964
蓮舫行政刷新相 1967
〜 党役員の生年 〜
- 党役員 - 民主党-自民党
幹事長 1964 - 1946
政策[務]調査会長 1964 - 1957
 この流れは、自民党退潮を決定づけるものかも。現実的な政策を実行する内閣であることが明白になると、民主党は不安だからという層が自民党に一票を投じなくなるからである。

 要は、民主党も自民党も経済政策ではたいした違いがないと見なされたということ、自民党は戦いの武器を失ったも同然である。これは自民党にとっては痛い。
 野党になって、官僚の作文を使えなくなったから、それを意識して相当に力を入れて独自の経済政策を作ったに違いないが、民主党が一枚上手だった訳だ。

 だが、なんといっても自民党の一番の弱みは、派閥統治の仕組みを捨てられない点にあろう。この体制が続く限り、不人気は避けられまい。
 まあ、それができないのも、わからないでもない。日本社会の縮図でもあるからだ。・・・若者は所属する組織の諸先輩を立て、我慢に我慢を重ねるしかない。“汗をかく”ことが掟なのだ。それが人望を得る素とされるが、実際には、機会を得るために重要なのは人脈作りということに気付かされる活動にすぎない。従って、そのスキル磨きに精進することになり、そのうち斬新なアイデアが湧かなくなってしまう。
 重鎮の跡継ぎを除けば、若者には、力を発揮できるチャンスはほとんど巡ってこない社会なのだ。本来は、政治が、この風土を変革するために旗を振るべきなのだが。

 政策論争に持ち込めないと自民党はつらい。コア支持者以外に伝わるメッセージが、反民主党感情を煽るだけの質の低いものに映ってしまうからだ。
 しかも、論争の場でも大きなハンディがある。若手を役員に起用しなかったからだ。これは相当響く。看板である、幹事長や政策[務]調査会長の印象が余りに違いすぎるからだ。民主党役員は、見た瞬間に若さ溌剌感が溢れる。しかも、地盤・看板・鞄の雰囲気を微塵も感じさせない。そのため、議論内容以前に勝負がついてしまう可能性大である。

〜 自民党は戦いの糸口さえ見つからないかも。 〜
 こんなことが、自民党にわからない筈もなかろうが、どうにもならないのだろう。だが、沈没されてしまうと、二大政党政治が成り立たなくなってしまい、これはこれで大問題である。

 自民党が変われないのは、党内もさることながら、実は、社会そのものの問題でもある。自民党だけに変われと要求するのは虫が良すぎるのは確か。
 なにせ、どこを見回しても、現状維持主義者だらけだ。
 世論を調査すれば、おそらく、平和憲法維持、低失業率確保、同質社会の持続、保険診療制度堅持、・・・・となるだろう。早い話、時代がどう変わろうと、築いてきたものは失いたくないというだけ。そんなことができるだろうか。
 これに応えるなら、現状維持を目指した“改革”となる。そんな道があり得るだろうか。
 ここが日本の政治の一番の問題である。金権政治など末梢的な話。

 要は、こうした社会であることを理解した上で、政治家が、どこかに切り口を設定して風土を変えていかない限りどうにもならないのである。
 切り口を間違えれば、支持層が限定的になりミニ政党化する危険性さえある。
 政治家の器量、あるいは、政治家を支えるシンクタンクの力量で勝負が決まる時代だと思うが、自民党はそれに対応できなくなってしまったのかも。

〜 このままでは、自民党は退潮を止められない。 〜
 ただ、自民党は退潮を抑える手として、公明党への支援要請が残っている。
 これはミクロではプラスだが、マクロでは自民党のさらなる退潮を決定的なものにするリスクの高いもの。野党の大団結で対抗するなら当然の策だが、自民党自体が離党者がソロゾロ状態での協力では意味が異なる。比例区自民党票の減少に繋がる訳で、下手をすると比例区で第二党としての存在感を失ってしまう。そうなると、組織的一体感も失われかねず、四分五裂の道を歩むことになるかも。

 そうは言っても、他に手はないし、浮き足立ってきたのかも。
 人口の多い団塊世代が、ニュースで流れた首相の所信表明演説を好感したようだし。先の経済団体トップの発言同様、心情的に近いということらしいから、自民党にとっては大事だろう。調査数字以上に、大挙して票が流れるかも知れないからだ。確実に集票できた民族主義的なコア支持層もミニ政党に流れそうだし、完全な裸になってしまう恐れもででてきた。

 しかも、戦争世代に濃厚な反民主党感覚も急速に薄れているようだ。組閣に当たっては、宮内庁の反撥を招きかねない無理な日程を組まなかったことが知られているし、首相が過去に靖国神社に参拝したことがあると国会で発言するなど、気を遣っていると感じさせる態度が見えたからである。公式参拝しないと明言しても、それほど反撥をかうことはなさそうなのだ。
 一方、高齢者は医療・介護行政に不安を覚えており、野党によるバラ撒き批判が福祉予算圧縮要求に映るらしく、民主党支持者を増やしているような感じがする。
 こうなってしまうのは、自民党に高齢者好みの若いリーダーや候補者がいないからである。お蔭で、この層でも、民主党は結構善戦するのではないか。

〜 自民党退潮でも、民主党勝利とは言い難い。 〜
〜 参議院選挙の民・自議員数 〜
選挙年 投票率 民主党
議員数
自民党
議員数
他党
議員数
二大政党
比例区
集票率
2001年 58.84% 26 64 31 55%
2004年 56.57% 50 49 22 68%
2007年 58.64% 60 37 24 68%
 2001年: 共5+社3+公13+由6+保1+無3
 2004年: 共4+社2+公11+無5
 2007年: 共3+社2+公 9+国2+日1+無7
 こんな風に見ていけば、全体的には、民主党勝利の流れ。しかし、民主党“勝利”といえるのは参議院で安定多数を実現した場合だけだろう。どうも、それは無理なようだ。
 時事通信社の6月の世論調査結果(6)を見る限り、そこまでいくことはありえそうにない。参院選比例代表の投票先は、民主27.1%、自民15.4%、みんな6.8%、公明5.7%だというのだから。
 どう見たところで、現実的な政策を採用する二大政党による政権交代方式は未だ定着せずだ。それをお望みでない人が結構多いということ。
 なにせ、社民党支持も上昇しているというのだ。小生はコア支持者以外は社民党から離れると見ていたが、間違いだった。

 この数字から推定すれば、感覚的には民主56+自民32といったところか。二大政党型の流れが奔流化していないのに、複数候補区を設定するらしいから、民主党はこの数字より3程度下回るのかも。
 与党は衆議院で2/3の議席を確保できない状況であり、これでは不安定政権が続くことになりそう。民主党の政治的勝利にはほど遠い。

 --- 参照 ---
(1) “お互いに認め合い良好関係 枝野幹事長“因縁”の経団連を表敬” 産経新聞 [2010/6/8]
   http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100608/stt1006081812019-n1.htm
(2) “経済3団体トップ、民主・官邸を初訪問 政策対話実施を確認” 産経新聞 [2010/6/18]
   http://sankei.jp.msn.com/economy/business/100618/biz1006181027006-n1.htm
(3) 日本商工会議所「新成長戦略について(会頭コメント)」 [2010/6/18]
   http://www.jcci.or.jp/recommend/comment/2010/0618134511.html
(4) 日本経済団体連合会「新成長戦略に関する米倉会長コメント」 [2010/6/18]
   http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/comment/2010/0618.html
(5) 経済同友会“「新成長戦略」の閣議決定について”[2010/6/18]
   http://www.doyukai.or.jp/chairmansmsg/comment/2010/100618a.html
(6) “菅内閣支持41%、不支持23%=参院選「民主に」大幅増−時事世論調査” 時事通信 [2010/06/11]
   http://www.jiji.com/jc/zc?k=201006/2010061100902


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