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2010.6.29
 
 

ドイツの国内政治指向が戦争を呼び込むかも…

 2010年5月31日、ホルスト・ケーラー独大統領が辞任した。研究開発と教育を重視すべきとの主張をくりひろげていた人だが、IMF専務理事からの転身であり、労組や反グローバル勢力には反感を持たれていたと言われている。

 上海万博の帰途、アフガニスタンを突然に訪問し、飛行機内での記者のインタビュー応えた言葉が原因である。緊張地域訪問を片付けた気の緩みから生まれた発言だと思われる。・・・ドイツのような貿易依存国は地域の不安定化を防がなければならないと語り、批判の嵐を呼んだのである。(1)
 理屈から言えば、経済権益を護るために軍隊を派遣すると言ったから、ドイツ憲法上禁止される軍事介入を肯定したということになる。そのために大騒ぎになったとされる。しかし、そういう問題ではない気がする。
 ドイツは、日本と違って、すでに“普通の国”へと歩を進めていたからだ。自国領土保全の軍隊との位置付けから、国外資産/資源、市場、交易ルートを守るためのNATO供出軍としての国外派兵体制へとかえてきた。そして、コソボ派兵でナチスの過去を払拭できたと言われていた。
 従って、国家元首でなければ、さほど問題になる筋合の発言ではない。実際、商業メディアは気にもしていなかったそうだ。それが、一気に騒ぎになったのはブログ。(2)反応を見た大手メディアが一斉に「砲艦外交」批判で盛り上がったという。何処もメディアは同じようなものらしい。

 成果ほぼゼロのアフガニスタン派兵反対ムードに乗った動きでもある。これで、派兵続行は難しくなるかも。
 これは、ドイツで内向き志向が強まっているということでもある。
 最近打ち出された緊縮財政にしても、その本質は財政規律堅持というより、財政出動による欧州の経済牽引車役はご免被るという風に聞こえる。もちろん、軍事費削減も行っており、海外派兵に消極的になる可能性が高い。
 結局のところ、欧州の大国として果たしてきたイラン-イスラエル間の戦争歯止め役も降りることになりそうだ。これは厄介である。
 G8[ハンツビル]ではっきりしたように、ロシアは大欧州との協調路線に転換しており、欧州全体として中東戦争阻止活動をしなくなる可能性が高まるからだ。
 そして、中国はそれに対して知らん顔を決め込むに違いない。ともかく現状維持で、余計なことには一切手を出さず主義だから。

 中東ではイランの大国化は必至と見られており、親米中東諸国はイラン政権崩壊を望んでいるのは自明。こうなると、場合によっては、裏でイスラエル支援をしかねないのがアラブの政治風土だから、なにがあってもおかしくない。大国すべてが戦乱防止に消極的と見なされたりすれば、地域一帯のムードは一変するのではないか。
 一旦、こうした戦争容認の流れができてしまえば、NATO加盟国のトルコが対イラン外国交渉役として登場したところで、どうにもならないのでは。
 なぜなら、イランの現政権は権力維持のために、大国化路線しか取れないからだ。冒険主義的な動きを続けるに違いなく、早晩、イスラエルのイラン攻撃を呼ぶことになる。
 ・・・などと、どうしても考えてしまう。参考までに、イランの状況を記しておこう。

  【国連安保理のイラン追加制裁決議は名目的】
トルコ・ブラジルが反対、レバノンが棄権。 常任理事国すべてが賛成。(3)
内容はほぼ予想通りで、実質的な制裁効果を生み出すものではない。
ミサイル発射禁止と武器禁輸の厳格化。
中国貿易に影響ゼロで、ロシアの兵器貿易も続行。ガソリン禁輸もなし。
決議が通らないと、イスラエルがイラン空爆に踏み切る可能性があるので中露が賛成。
ポイントはvoluntary。
“the key provisions in this resolution are voluntary ...
it basically creates a legal justification for countries
who want to take those actions as specified in the resolution."(4)
要するに、米国による独自の金融制裁でイランの海外ビジネスが滞るということ。

  【イランの動き如何では地域不安定化も】
大統領のいつもの口調で制裁決議非難。
気にかかるのは、この機会を狙うかのごとく別な動きを用意していた点。
国内のスンニ派武装組織リーダーの情報を流し始めたのである。
言うまでもないが、国外諜報組織と絡んでいたという内容。
アルジャジーラがこうしたニュースを流している。
これが周辺の非シーア派イスラム国家にどう映るかだ。(5)
イランが政権転覆活動の輸出を図る兆候と見なすかも。

 --- 参照 ---
(1) “ケーラー独大統領が辞任、海外派兵めぐる発言で引責” AFP [2010年06月01日] http://www.afpbb.com/article/politics/2731909/5824466
(2) ドイツ大統領辞任にみるブロガーと既存メディアの新しい関係” AFP [2010年06月03日] http://www.afpbb.com/article/politics/2732517/5833166
(3) “イラン追加制裁決議を採択、「価値なし」と大統領反発” AFP [2010年06月10] http://www.afpbb.com/article/politics/2734807/5862048
(4) “Iran threatens to revise IAEA ties ” Aljazeera [June 10, 2010] http://english.aljazeera.net/news/middleeast/2010/06/20106109652822759.html
(5) “Jundallah: Iran's Sunni rebels” Aljazeera [June 20, 2010] http://english.aljazeera.net/news/middleeast/2010/06/201062074140996374.html “Iran hangs Sunni group leader ” Aljazeera [June 20, 2010] http://english.aljazeera.net/news/middleeast/2010/06/201062034410244183.html “Iran executes Jundallah leader” Aljazeera [June 20, 2010] http://english.aljazeera.net/news/middleeast/2010/06/201062095822633601.html


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