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2010.7.9
 
 

朝鮮半島に転機が訪れるかも…

 中国人民解放軍の馬暁天副参謀長が香港のTVで、「中国の領海にとても近い黄海でこのような合同軍事演習を行うことに、私たちは非常に反対である。彼らの演習に対して、私たちはすでに『断固として反対する』という姿勢をはっきり示した」と述べたそうだ。(1)
 コレ、人民日報の報道からの引用である。内容をお伝えしたいのではなく、この記事の副見出しに注目して欲しいだけのこと。
 「韓メディアが重大な関心」というのだ。

 その通り。はっきり書けば、“又、韓国メディアが騒いでいるゾ”といったところでは。その気持ちはわかる。
 韓国メディアは、どういう訳か「環球時報」の引用が多いからだ。米国もことある毎に、ここで報道してもらう作戦をとるが、それはこのメディアの立場を知ってのこと。この常識を欠くと、読み間違う可能性が高いからご用心。と言っても、よくわからないか。
 素人目からは、この新聞は人民日報の中華国粋主義的分派紙。もちろん、排日報道などお得意そのものであり、それなりの力がある新聞だと思われる。
 先日も、北朝鮮の冒険主義を批判した筈。別に、中国の方針が変わった訳ではなく、政権の現実感を国粋主義的な眼鏡を通して語っただけだろう。こうした、特徴は押さえておいた方がよい。
 そうそう、北朝鮮からのこうした姿勢への回答は、ご存知中国密輸船への発砲。予想された動き。

 このありえそう感が、全体像を捉える上では重要だと思う。
 一寸、いらぬ解説をしておこうか。
 日・韓とは違い、中・露・北朝鮮は国内に外国の基地など無い“純粋な”独立国。そんな国は、政権を維持するためには、なにがあっても外圧に屈することはできない。ここが肝。
 米国政府は昔からそれをよく知っている。日米開戦に至った経緯を思い出せばわかる筈。

 特に、北朝鮮は、特定家柄の軍人が権力と握る封建制国家としか見えないから、その特徴が際立つ筈。おそらく、実質的には細かな身分制が敷かれており、頂点に立つのが金王朝という政治体制と考えるべきもの。そんな状況では、王朝が外圧への弱腰を見せる訳にはいくまい。「瀬戸際外交」や「冒険主義」は宿命。
 従って、もし王朝に危機が迫っていれば、「暴発」することもありえる。
 多分、大国である、米・中・露はそれをよくわかっている。

 例えば、2010年7月7日、北朝鮮の祖国和平統一委員会が、国連安保理事会で制裁決議が通れば、国家への重大侵犯とみなし、決死の覚悟で戦う旨の声明を出したそうだが、(2)単なるブラフとも言えないのが実情ということ。
 従って、中国は最後の最後まで、国連安保理事会での北朝鮮非難決議に反対するしかなかろう。金王朝崩壊を防ぐには、この姿勢を変える訳にはいかないというだけ。
 おなじみ、秦剛・中国外務省報道局副局長は2010年6月22日の定例会見での、従来姿勢堅持ということ。(3)
  ・韓国の哨戒艦沈没事件は非常に複雑
  ・中国は一次資料を手にしておらず判断不能
  ・関係国の反応を重視
  ・国連安保理での非公式相互対話は状況理解と把握に役立つ
    (それぞれの立場の聴取のみで十分な価値)

 米国政府はそうした中国政府の対応など、端からお見通しの筈。
 だからこその、米韓共同軍事演習のぶちあげだと思う。これは、恒例の米韓共同軍事演習とは全く違う。そこがポイント。
 まず場所だが、黄海。ここはいわば中国の内海。北京に一直線で侵攻可能な地。そこによりもよって、原子力空母「ジョージ・ワシントン」を派遣するという話が囁かれている。ちなみに、この空母は6月18日には東シナ海で訓練後、6月24日には海上自衛隊との合同演習を行っている。大演習でなにが起きても準備万端ということを見せ付けたのである。
 もちろん、空母派遣となれば、イージス艦、揚陸艦からなる巨大部隊になる可能性が高い。一大基地が黄海にできたようなもの。朝鮮半島有事対応と称してはいるものの、実戦訓練だから仮想作戦範囲が中国本土に及んでいると考えるのが自然。今迄とは、次元が異なるのである。人民解放軍は面子丸潰れ。
 米国政府は、そんな演習を企画している訳だ。

 ただ、注意した方がよいのは、演習内容や時期について公式発表をしているのではなく、メディアを通してリークしている情報戦でもあるという点。
 つまり、一種の外交ブラフでもあるということ。
 安保理で中国が拒否して決議もできないなら、大演習必至だが、それでよいのかというのだろう。大演習が始まれば、北朝鮮は全軍緊急体制を敷かざるをえず、資金難の金王朝は財政的に潰れる可能性さえある。・・・中国政府は黄海で米中対峙の緊張関係を生み出し、金王朝瓦解防止に緊急支援するつもりかと迫っているのだろう。
 上記に示した、7月7日の北朝鮮の祖国和平統一委員会の声明とは、そんな状況を踏まえたものと思われる。

 そこまで進んだのは、ロシアが北朝鮮国家壊滅後の話をしたくなったそぶりを見せているからかも。先頃の北方領土での軍事演習は、どう見ても北朝鮮への軍事派遣辞せずという姿勢表明。どうせ金王朝は長くないから、崩壊するならそれも致し方なしと腹をくくったように見える。しかし、崩壊後は勝手にやらせないぞという訳だ。難民流入でで大損害をくらうかわりに、軍隊を派遣して不凍港確保なのだろう。

 早い話、そろそろ金王朝瓦解を前提として、話をするしかないぜという雰囲気が生まれつつあるということでは。中国政府がそれに水をさすか、既得権益維持を前提として一歩踏み込むか、決断のしどころというところかも。
 まさに結節点。

 --- 参照 ---
(1) “解放軍が初めて米韓軍事演習に公に反対 韓メディアが重大な関心”人民網日本語版 [Jul 07 2010]
   http://j.peopledaily.com.cn/94474/7055674.html
(2) 2010-07-07 南方網  http://news.southcn.com/i/2010-07/07/content_13563547.htm
(3) “中国外交部報道官 「天安」沈没事件で冷静さと自制呼びかけ” 6月22日発新華社− 中華人民共和国駐日本国大使館
   http://www.china-embassy.or.jp/jpn/fyrth/t711020.htm


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